6年

多様な考えから数理を導く算数科学習指導    
〜導きだした考えを新たな事象にあてはめる活動を通して〜    
福岡県柳川市中島小学校
萩野 なぎさ

1.はじめに

 

 算数の授業の中で,子どもたちは決まった公式を使って求めるような計算問題を解くことは得意で大好きです。使いやすい公式や規則性を自分達の考えからつくり出していくならば,もっと算数のおもしろさを味わうことが出来るのではないかと考えました。そのために授業展開における高め合う場で,出し合い比べたそれぞれの考えを正しさやよさ(簡潔・明瞭・的確)の観点から追求するとともに,新たな事象にあてはめる活動を仕組み実践することにしました。

 

2.新たな事象にあてはめる活動について

 高め合う場で,出し合い比べたそれぞれの考えから新しい数理(数学的な概念・原理・法則)を見いださせていくために,正しさやよさ(簡潔・明瞭・的確)という観点から追求させ,そのつくり出した考えを違った問題に適用させる必要があると考えました。

 
【正しさの追求とは】・・
つくる段階で出た考え方について,「どの考えが正しいか。」という正しさという観点から調べ,他の場合にも適用させる活動である。

(例)
実証授業T「2つの数で割合を表そう」での高める段階での共同解決活動(交流)において結果を導き出した方法・考え方についての正しさへと導いていく活動。

【よさの追求とは】・・
正しい答えを見つけるためのいくつかの考えについて,「どの方法がよいか。」というよさの観点から追求することである。

その方法のよさの調べ方については,@どの方法が簡単か,Aどの方法がわかりやすいか,Bどんな場合がいいのかという観点から調べる活動のことである。

(例)
実証授業U「分数の計算の仕方を考えよう」での高める段階での共同解決活動(交流)において,答えの正しさという観点で話し合い,誤答を正答へ,さらに,よさの観点から考え方を高めていく活動。

 

3.高め合う場の2つの追求のパターン

A よさの追求パターン
   
 
(例)100までの数
 問題100までの数を数えるのにどの数え方がはやいかな?
  A・・1つずつ数える。  C・・5つずつ数える。
  B・・2つずつ数える。  D・・10こずつ数える。

B 誤答があっていくつかにしぼられていく場合(正しさからよさ)
   
(例)分数÷整数
問題 ÷2の計算の仕方を考えよう。
  ÷
4÷2
    B   ÷
        ×
 
  ÷
4÷2
           
 
5÷2
・・(誤答)

 

4.多様な考えがでるための教材の開発(教材提示)

指導内容を「技能・表現」「数学的な考え方」といった観点から具体的に分析する。
次に,めあてをつかませるように前時の問題と本時の問題に共通点や差異点が明確な問題を選定するとともに,以下の視点に照らして教材化を図る。


@見方や考え方が多様にでるか。
A考えを高めることによって算数の内容を自らとらえることができるか。
B新たな事象問題を見出したりすることができるか。

(例)実証授業T・・多様な考えが出る問題から内容を自ら捉えることができる問題へ

通常問題 4/5uの板を同じ面積になるように3枚にきります。1枚の板は何uに
なりますか。
開発問題@ 4/5uの板を同じ面積になるように2枚に切ります。1枚の板は何uに
なりますか。

(新たな事象問題)

問題開発A 1/5uの板を同じ面積になるように2枚に切ります。1枚の板は何uになりますか。

 

5.導きだした考えを新たな事象にあてはめて追求する活動の指導の実際と考察

(1)単元名 第6学年「分数の計算の仕方を考えよう」

(2)単元の目標

分数に整数をかけたり,整数でわったりする計算の意味を意欲的に考え,既習の計算の仕方を基に新たな計算方法を見いだそうとする態度を育てる。
(分数)×(整数),(分数)÷(整数)の計算の仕方を既習の整数の計算をもとに多様に見いだし,的確な計算の仕方を考えることができる。
(分数)×(整数),(分数)÷(整数)の計算ができる。
分数に整数をかけたり,整数でわったりする計算の意味を理解することができる。

(3)授業の流れ



   


 


 


   
 
     
 
 
     
  分数を整数でわる計算は,分子はそのままで,分母にその整数をかけて計算する方が多様な問題に適用できる。

 A つくる段階について・・ 自分なりの見通しをもとに追求する段階

 本時問題(分数÷整数)で,前時問題(分数×整数)との違いから,本時めあてをつかむことができた。また前時の考えを生かして,分数のわり算は分子か分母にわる数をかけるか割るかの見通しを立てることができ,答えを予想すること,さらには,その見通しを生かし,各自考えをつくることができた。

 子どもたちが考えをつくることができたのは,本時問題において前時との明確な問題の違いから見通しを持たせ,ます図をつかって多様な考えを引き出すことができた。このことから,多様な考えが出る教材として有効であったといえる。

前時問題から作り出した考え
分子に整数をかける方法


見通し
本時問題から作り出した考え
分子か分母に整数を×・÷を行うのではな いかという見通しを元にした計算の方法


 B 比べる段階について・・ 自他の計算方法を出し合い,自分がどの考えに同じなのか立場決定し,考えの違う点を比較吟味し,質問する段階

T お互いの考えを聞いて,自分の考えと比べて,質問したいことはありませんか。
C1 どちらの考えも合っています。ます図をみても間違いではありません。どちらの方法もいいと思います。
C2 分子を割るのはわかりますが,分母にかける意味が分かりません。説明してください。
C3 ます図を見てください。私は縦にます図を分けています。分け方を10こにしています。
C4 なるほど。考え方は違うけど,答えは同じで そんな分け方もあるんですね。

 自分なりの見通しで,ます図を使い計算の仕方を調べた子どもたちは,質問されたことに対して,それぞれの計算の仕方をます図を使って説明し合った。上のような自分の見通しのよさを明らかにすることができた。さらに,質問をされることで自分の考えをさらに深めたり,相手に質問することで相手の考えを理解したり,自他の考えを吟味することができ分数÷整数での計算の仕方を自分なりに見いだすことができた。

 C 高める段階において・・ はじめにつくった自分で見いだした考えを,新しい事象にあてはめ,正しさやよさという観点から共同解決活動し,自分なりの考えを新しい数理へと一般化していく段階

 自分達が作り出した数理を新たな事象にあてはめることにより,自分達で見いだした数理のよさや不十分さを追求することができた。さらに,共同解決活動(交流しながら,自己の数理を高めていき,どの問題にもつかえる計算の方法(数理)を導き出すことができた。(資料1)また,新しい事象にあてはめ,共同解決活動(交流)を通して,その作り出した数理のよさも実感することができた。 (資料1 共同活動板書)
 このことにより,学習後の児童の記述にもある ように,最初の見通しからます図をつかって考え を作り出し(自力解決活動),交流を通して自分達の考えのよさを高めていき(協働解決活動),新たな事象に自分達が作りだした数理をあてはめる活動を通して,自己の数理を一般化した数理に発展させることができた。 (資料2) (資料2 子どもの感想)
今日は昨日の問題から,分子をわるという方法を考え,ます図をつかって確かめました。ですが,友達の考えを聞きながら,そんな方法もあるのかと考えが変わりました。また,次の問題にあてはめたときに,友だちと考えた方法が使えたのでうれしかったです。算数の授業がおもしろかったです。

 

6.授業を振り返って(成果と課題)

自己の見通しから作り出した考えを,協働解決活動(交流)で話し合ったことを根拠に見直し,新たな事象にあてはめる活動を通して考えを高め,他の事象に活用していく姿が見られた。

見通しを元にして自分達の考えを作り出す自力解決活動と,考えを出し合い高めていく共同解決活動を過程の中に設定したことにより,新たな事象に活用するという目的のもと,お互いの考えを高め合う姿が見られた。

子ども一人一人の数学的な考え方や知識・技能に応じた教材化を工夫しなければならない。

数理を一般化していく新たな事象と本時問題との関係をしっかりと分析しなければならない。


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