2年
生活に生かそうとする態度を育てるために 2年生の取り組み
神戸大学発達科学部附属明石小学校
都倉 功充

1.はじめに

 子どもたちが,数量や図形についての算数的活動を通して,活動の楽しさや処理のよさに気づき,確かな知識や技能を身につけていく。そして,そのことを進んで生活に生かしていこうとする態度を育てることが,算数では大切にされている。このなかで,子どもたちが生活に生かしていこうとする態度を育てるためには,子どもへの動機付けや場面の設定などの工夫が必要である。

 また,子どもたちの生活場面や興味関心を大事にしていく,算数という体系的な教科でさえ,ときとして単元の内容が修正されたり,思わぬ学びに驚かされてしまうことがある。それも,子どもと一緒に単元をつくっていく醍醐味であると考える。

 ここでは,そんな単元の一例を紹介する。


2.単元名

 買い物計算名人になろう


3.単元目標

 買い物場面の計算として,3位数同士までの加減の筆算,およその数の考え方や計算方法,電卓を用いた加減などを身につけ,買い物計算大会を楽しむ。


4.単元構造(全14時間)

買い物のときの計算方法について話し合おう(1h)
(1) 買い物に行ったとき,どんな計算をしているかを話し合う。
  ・一つ一つ頭の中で ・大体を ・けいたい電話の電卓を使って ・特に考えずに
   
(2) 買い物計算名人になるためについて話し合う。
  ・正確な計算 ・大体の計算 ・電卓で計算
   
買い物計算名人になろう(10h)
(1) いくつかの計算方法を身につける。
  ・正確な計算(2位数や3位数の筆算の加減)
  ・およその計算(1の位の四捨五入)
  ・電卓を使った加減
   
(2) 計算方法が身に付いているかを確かめる。
   
買い物計算大会を開こう(3h)
(1) 買い物計算大会の準備をする。
   
(2) 買い物計算大会を楽しむ。


5.単元の実際

子どもの事実
教師が考えたこと
【買い物経験を話し合う場面】

みんなは,買い物に行ったときどんな風に計算をしていますか。
 
かごに入れながら足していくよ。
 
そうそう,持って行ったお金が足りなくなったらこまるから。
 
オーバーしたら,返したらいいねん。
 
お母さんといっしょだったら,カードで買うからそんなの気にしないよ。
 
いろんな買い方があるけれど,どんなのが上手でかしこい買い方でしょうね。
 
C1 やっぱり,オーバーしないで,正確に計算できることかなあ。
 
C2 筆算でしたらいいねん。
 
C3 わたしのお母さんは,携帯電話の電卓を使って計算してるよ。
 
C4 でも,品物の数が多くなってきたら,大体で計算することが多いと思うけどな。
     
○もともとは,既習内容である筆算による2位数同士の加減を基にしながら単元構想を進めていたが,買い物という生活場面設定のなかでは,2年生といえども様々な計算方法が出されてきた。
<C1,2に対して>
「よしよし,やっぱり筆算がでてきたぞ」
 
<C3に対して>
「携帯電話の普及で,電卓も身近になっているなあ。加減程度なら電卓も使えるかなあ」
 
<C4に対して>
「そうか,概数か。どの程度の計算を思っているのかなあ。概数の考え方にふれる程度だったら取り入れられるかなあ」
【およその計算について話し合う場面】

これは,およそいくらだと考えればいいですか。
80円。
じゃあ,一の位が7だったら。
それも80円。

じゃあ,一の位が1,すなわち71円だったら。
それは,70円かなあ。
(0〜9の一の位を並べて)どこからどこまでが,70円で,どこからどこまでが80円だろうね。
4と5が分かれ目かなあ。
   
70,71,72,73,74, 75,76,77,78,79
   
70
← →
80
 
○学習指導要領では,概数の考え方や求め方については第4学年で,和差積商の見積もりは,それ以降に取り扱っている。しかし,第2学年の子どもたちの生活でも概数の考え方は日常化しているようだ。
○一の位を四捨五入して概数を求めたり概算したりしていくことは,十分可能である。(但し,どのような言葉を用いるかは,子どもに合わせていくべき)
【電卓を使って計算をする場面】


(電卓を使っての加減の操作手順を説明する)
 
(すぐに操作を始める)
うわあ,簡単にできる。
すごくはやい。
 
○電卓を用いるのは,学習指導要領では第4学年以降となっている。もちろん,そこでは,桁数の大きい数の計算を行い,計算の負担を軽減し,指導の効果を高めることが期待されている。

 しかし,電卓は年々子どもにとって身近になっているとともに,その便利さを味わうことは,第4学年まででも可能なことであることが確認できた。そして,どの子どもも,加減の操作を確実に身につけていった。
【買い物計算大会を楽しんでいる場面】

ちらし広告から問題作成
筆算をつかって計算
 
子どもたちは,これまで身につけてきた力を発揮していた。
 なかには,100円引きという凝った問題を作成しているところもあった。
電卓を使って計算
 
 
○互いに作成した問題を筆算や電卓で計算して解き合っていた。今回は,買い物場面での計算方法として身につけたい考え方や技能を子どもたちと確認し目的意識をもちながら進めてきたため,意欲も継続していた。
 
○ちらし広告のなかには大きな桁のものまであるので,制限を設けてあげるほうが,やりやすいようである。


6.おわりに

 学習指導要領には,目標の文末が「進んで生活に生かそうとする態度を育てる」という文言が記されている。これは,各学年の各単元で大事にしていきたいことであるが,そのためには,やはり単元の導入における意識付けや意欲付けが欠かせないと思う。つまり,単元を通して,授業でやっていることと日常生活や社会とが,できるだけつながっていることが重要なのである。

 そして,具体的な活動が単に「楽しいなあ」という活動に終わることなく,算数としての高まりを意図した算数的活動が組まれていくことが必要なのである。即ち,算数として何をどこまでしっかり身につけさせたり考えさせたりしたいのかを,しっかり持っておくのである。

 ただ,はじめからそのことだけに固執してしまうと,子どもたちの生活や興味・関心とずれてしまうことがある。各学年ごとで扱う内容とされていることは必ず育むべきではあるが,「その内容は,何年生で習うから今はやらないよ」「それは,中学からだからね」などということで,子どもたちの興味や力を規制してしまうことは,どこか変なところがある。「学習指導要領は基準である」わけなので,教師一人一人が子どもと向き合い,子どもの可能性を伸ばしていけるような単元開発を目指していきたいものである。

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