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子どもたちの活動欲求を満たし 解決欲求を強める | |
和歌山県A小学校 |
1.はじめに 啓林館の『ひと味工夫のわくわく導入』というワークシートつきの冊子を,みなさんはご存知だろうか?―これは,新しい単元に入るときに,私たち教師のもつ「子どもたちの興味・関心を引く課題はないだろうか」とか「単元全体の学習に対して見通しや必要感をもたせることはできないだろうか」といった思いに応えるべく作成されたものである。より効果的に活用できるように,子ども自身が課題を見つけ,深く学習を進められる課題設定の導入形式をとっているのも,その特長の一つである。 特に私は,表紙に“子どもの心をとらえる”と書かれたうえで銘打たれているところが気に入っている。もとより,子どもには,『活動欲求』や『解決欲求』といったものがある。それらの欲求を満たしてあげると,授業の中で“燃える場”をつくることができる。それこそが,子どもの心をとらえているときなのである。そんな瞬間を私たち教師は,なにも単元の導入時だけに限らず,常に求めていたいものだ。 今回は,『ひと味工夫のわくわく導入』(ホームページにも発信)にある「はかって調べよう!」の自転車の課題を発展的な問題にアレンジし,単元「円」の小単元「円周と直径」で研究授業として取り組んだ。 2.子どもについて ここ数年,子どもたちの様子を観ていると,好きなこと,興味のもてる対象であれば,意欲的に取り組むが,自分の感性に合わないもの,理解できないもの,意のままにならないものなどは,簡単になげすててしまう傾向にあるような気がしてならない。 そこで本小単元の学習では,元来,子どもたちがもっている活動欲求を充分に満たしながら,解決に向けての欲求も強めていくことにした。そして,意欲的に学習に取り組めるようになれば,自分なりの見方,考え方,感じ方をもって,ねばり強く探究を続けるようになると考えた。また,算数の本質的なおもしろさを感得すれば,自分の考えや思いを表現し,他者とのかかわりをもち,試行錯誤を繰り返しながら自己を形成していく。 つまり,子どもたちは,欲求の達成あるいは失敗の過程で次第にその子なりの感じ方,考え方,行動の仕方,学習スタイルなどを形づくっていく。その学びの姿は,多様な考え方や能力をもつ子ども集団のなかで,他者とふれあい,共通の目標に向けて協力し合ったり,意見を交換し合ったりする場において見られるということなのである。 3.小単元の目標 円周率の意味について理解すること。 [学習指導要領解説p.139 C(1)‐エ] ・円周の長さと直径の関係に着目し実測しようとする。 ・円周の長さと直径の間にきまった関係があることに気づく。 ・円周の長さは直径の何倍かを求めることができる。 ・円周率の意味がわかる。 4.学習計画(全7時間 本時5/7)と実際の学習活動のひとこま(写真) 第1次 円周と直径の関係を調べる。円周率を求める。 …2時間 ・円周と直径の関係,長さの測り方 ・円周の長さを実測により求める。
第2次 公式化『円周=直径×円周率』 …2時間 ・円の直径の変化に伴う円周の変化の関係
・およその直径を円周の長さと円周率を用いて求める方法を理解する。 ・円周率を用いた適用問題 ・おうぎ形の意味と円周部分の長さや周りの長さの求め方 5.本時の学習 (1) 本時について これまでの学年では,多くの作業的・体験的な活動を行ってきているのに,高学年にな るとそういった機会が少なくなってしまう。また,図形指導においては,基本的な図形の性質を教師の側から一方的に教え込むことを中心にしている授業もよくみる。ここでは,子どもたちの主体的かつ自由な活動をとおして,まず活動欲求を満足させる。もちろん,外的な活動には,内的な活動が伴うので,自然に既習事項や既有経験をもとに発展的に考えていこうとするであろう。その解決欲求がつのったところで,解決課題を提示する。 (2) 本時のねらい 既習事項や既有経験を生かして円について積極的にかかわり,円のもつおもしろさに気づき,課題に対しての解決意欲をもつ。 (3) 本時の展開
6.おわりに 算数科には教えるべき内容があり,教科書にもいい教材がある。それらの系統性を重視しつつも,なるべく子どもの世界や日常事象から素材を引き寄せ,算数の舞台にのせていきたいと考えている。そこで本時では,身近にある自転車を用いて算数的活動を行えるようにし,原理や関係を見出そうとする探究的な学習が展開できるようにした。 どうしても子どもによる実測には誤差が出る。しかし,活動課題に対して取り組む時間を充分にとり,タイヤの周りの長さを測定するための方法を考えさせ,工夫させた結果,子どもたちはかなり正確な測定値を得た。 解決課題に対しては,問題解決にあたり,問題を明確にとらえながらも,どのような要素がこの問題の解決に関係づけられるかといった見方・考え方をしながら学習ができた。 「個に応じる」を本当に具現していくのなら,それぞれの子どもの能力だけではなく,性格,今おかれている環境,その子の学ぶスタイル,その子の求めにまで応じなければならない。しかし,それは難しいことである。算数科の場合は,数理的な事象という対象が存在し,対象の背景となる知識の構造も存在し,それらが学習内容となり既成のものとして体系化されているからでもある。だから,まず私たちは,子どもたちに「やってみたいな」とか「やらなければ」といった,興味や必要感をもたせる,すなわち子どもたちの欲求を満たしながら自発性をくすぐることから始めるべきなのである。 | |||||||||||||||||||||||||||
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