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子どもたちの“ | |
和歌山県A小学校 |
1.はじめに 算数科の学習では,抽象的形式的な概念や原理を身につけていくことが行われる。しかし,子どもたちにとって,それらの概念や原理はとても難しいものなのである。そのため多くの授業では,教師サイドで学習材料を用意して,体験的活動を取り入れた学習活動によって内容をよりよく身につけさせようとする。 ところが,こちらから与えた材料であるかぎり,その活動が単なる体験で終わってしまったりして,知識を教え込むための方法という域を脱せない。やはり子どもたちにも活動の目的が明確にとらえられるようにすることによって,学習内容を体験的に生かせるようにしければならない。 また,今回の学習には指導者側のねらいとして,体験的活動を行うことによって次のような“察る目”の芽を育てることもあった。 2.本単元での体験的活動の意義 ・体験的活動をとおして,算数学習における察る目の芽を培える。 ・体験的活動により,知識・技能の裏付けができる。 ・解決の過程で考えたことの表現を体験的活動が補ってくれる。 3.単元目標と学習計画 ◎単元目標
◎学習計画
4.授業の実際
身体測定で,身長の測定も行った。その直後の話題は 「ぼくの身長は,てるまさくんより高いよ。」 「今までは,きしこちゃんより身長が低かったけど,少しだけ高くなったよ。」 「おおたにくんがいちばん身長が高いよ。」 というように,測定で得られた結果(数字)をもとにした自分の身長と友達の身長の比較に集中している。 そこで,子どもたちに 「みんな身長についてははっきりわかったようだけど,グループのなかでいちばん腕の長さが長いのはだれかな。」 と投げかけた。すると,さっそく 「みきちゃんがいちばん背が高いから,腕もきっといちばん長いよ。」 などと言いながら,腕の長さを比べはじめる。しかし,どこからどこまでを比べればいいのかわからず,まずそれが問題となる。比べるという行為を行うためには“長さ”のきちんとしたとらえが必要となる。ここで,長さは起点と終点の距離であるということが,無意識のうちに意識され,長さに対する認識を増すことができる一つの場面となる。 明らかに長さのちがう場合は,子どもたちが自然にとる方法―からだの中心(鼻と鼻,胸と胸)を合わせるやり方―が,ほとんど全員に見られたが,その差が微妙になってくるとよりはっきりさせたいという思いが強くなり,片方の指先を壁に当ててそろえたり(左の写真),黒板に基準線を引き,そこに片方を合わせてもう片方をチェックしたり(右の写真)という姿も見られはじめた。 【推察力・考察力の芽】 起点と終点が決定すると,もう一度腕を合わせて長さを比べる。子どもたちは,長さの比較は,伸ばした状態で行わなくてはいけないことをこれもまた無意識のうちに感じ,ピンと伸ばして腕を重ねようとする。しかし,互いの身長の差が大きかったり,腕が曲がっていたりすると正確に比べることができない。が,しばらくすると,傍らに置いてあった紙テープやひもを利用して測りとろうとする。 【観察力・洞察力の芽】 子どもたちは,『うでのながさくらべ』のなかで必要に迫られて媒介物を使い出す。そこには,少なからず,「工夫しなければ!」とか「役に立つものはないかな。」などの思いがあり,それが自らの察る目の芽を培う肥料になっていく。また,このような体験をとおすと自然に間接比較をし,その比較方法のよさも感得している。 この学習中によしひろくんが再三言っていた「ねぇ知ってる? 背の高さと腕を伸ばした長さって同じなんだよ。」が,次時の学習課題となった。 【第3時】 しんちょう vs うでをひろげたながさ こんどは,自分の身長と腕をひろげた長さを比べることになった。やはりテープなどを活用する子。同じくらいの身長の子同士がグループになって,自分の腕をひろげて友達の身長に合わせようとする子。…,活動そのものを十分たのしんでいる1年生ではあるが,ちらほらと,次の問題がではじめる。 【省察力の芽】 「ぼくとゆうきくんの身長は同じだけど,腕の長さはちがうから,ぼくの腕をひろげてゆうきくんの身長と比べてもダメだ。」 「テープを持ってなかったらどうすんの。」 これらの声を全体にひろげると,他のグループから,手の大きさを基に身長や腕をひろげた長さを数値化する方法が紹介された。 腕をひろげた長さと身長の類似性に着目して,長さの間接比較の必要性を図った。ここでもまた,腕をひろげた長さや身長を見取ろうとすると,ピンと伸ばした長さを選定しなければならいということは,より学習を充実させた。さらに,この比較ではどうしても友達の協力が必要となることがあり,学びの共同性を高めることにもなった。 【第4時】 せがひくいこはおおきいの? 前時に出された手の大きさを基に測る方法でみんなの身長をもう一度比べる活動からスタートした。子どもたちはそのちがいまで数値化できることをよろこびながら,やっている。そして1年生の活動は次第に大きくなる。他のグループに出張する子や,「センセーもやってみてよ。」と私を仲間にいれてくれる(?)子まででてくる。 測定結果から,2人の子の数値を取りあげた。
ところが,上の2人では,明らかにともひろくんの身長の方が低いのである。 基準とする手の大きさが大きければ数値が小さくなり,手の大きさが小さくなれば数値は大きくなっていることがわかる。実際に比較するという体験をとおしてこそ,それぞれが自分の単位で測ってしまったのでは,基準がちがうために数値化したものを比べられないことを納得できるのである。そして,単位をそろえなくては比較できないことがわかり,共通の単位を設定していくことになる。 手のようにからだの一部を任意単位としてしまうと,子どもたちそれぞれのからだの大きさがちがうので共通の単位にはなり得ない。そこで,みんなが持っているものの長さを単位にしようということになる。こうたくんが算数セットのなかから数え棒を取り出し,それが適当であることを説明した。 さっそく,みんな数え棒を使って測定していく。初めは,直接からだに当てていくやり方をしていたが,どうにも測りにくい(床に寝そべって測ったりもしていたが…)し,正確ではなさそうだという声がでる。そこで,いったんテープに測りとり,そこに数え棒を置いて鉛筆で印をつけながらいくつ分あるかを調べる子が増えてきた。そして,全員の結果を黒板に示し,みんなの腕の長さを比べた。 みんなが持っているもので単位を設定しようとしたことが,こうたくんの察る目の芽に水を与えることになる学習となった。 【第5時】 しんたいそくていをしよう! この時間は,グループや友達同士で,足の長さ,首まわり,…,などなど,からだのいろいろな部分を比較した。 からだの部分は湾曲しているところが多いため,これまでの経験を生かして,テープで測り数え棒でいくつ分か数えて比較する手順で行った。しかし,何回か測っていると,数え棒を使ってうった目盛り入りのテープを利用すれば簡単に数値がわかることに気づいてくる。正に,ものさし利用への入り口である。子どもたちは不便さを解消しようとする過程で,察る目の芽をはたらかせながら,ものさしの便利さを身をもって体験している。 さらに,このテープものさしに数字を書き入れ,数値がすぐによみとれるようにしたグループも出てきたことを書き加えておく。 5.おわりに 結局,子どもたちは,自身がもつ生活経験に後押しされて,第1時は直接比較からはいった。そして,私は,間接比較の必要性をもたせるために学習課題を仕組むことになる。―それでも,1時間1時間の子どもたちの活動に取り組む様子を見ていると,そのなかで1年生なりのコミュニケーションが成立していることが捉えられる。また,それぞれの“一生懸命さ”も伝わってくる。 第5時しんたいそくていをしよう!では,かぞえぼうテープでからだの部位を測るにとどまらず,「わたしの首のまわりの長さって,水筒と同じくらいかも。」とか,「同じに思っていたみんなのランドセルの大きさも少しずつちがってるよ。」などと,まず予想してから自分の(自分たちの)量感を試すような活動も出てきた。学ぶよろこびを実感している子どもたちはどんどん追究の触手を伸ばす。そんな子どもたちから,今回もまた,エネルギーをもらった。 これまでの生活のなかで,意識し経験してきた長さや長さ比べは,視覚的・感覚的に捉えられたものが多かったであろうが,今回の学習をとおして,子どもたちは,長さの概念・測定のしかたをたのしく確かに体得した。また,“察る目”の芽生えも見せてくれたのである。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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