5・6年
発見の喜びを味わうことができるトピック教材の工夫
〜「サグラダ・ファミリア教会の魔方陣」の活用を通して〜 
愛知教育大学附属名古屋小学校
近藤 浩之
1.はじめに

 子どもたちが夢中になって考え,試行錯誤していく中で新しいアイデアを次々に発見していく。その喜びを子どもたちに味わわせたい。そして,発見したことの一つひとつの積み重ねを,振り返って見てみるとそこには数学的な考え方がひそんでいることに子ども自身が気づくことができる。そんな教材を開発したいと考えた。

2.バルセロナにあるサグラダ・ファミリア教会の不思議なプレート

サグラダ・ファミリア教会 魔方陣

 左上の写真は,世界遺産であるスペインのバルセロナにあるサグラダ・ファミリア教会である。そして,右上のプレートは,サグラダ・ファミリア教会の生誕の門の左脇にある,魔方陣である。

3.サグラダ・ファミリア教会の魔方陣の特徴

 サグラダ・ファミリア教会の魔方陣は,同じ数が使われていることにおいて,縦4マス横4マスの一般的な魔方陣とは異なっている。一般的に魔方陣は,縦,横,ななめの各列の和が等しくなり,縦,横が4×4マスの場合は,1〜16までの数が1回ずつ使われていて,どの列の和も34になっている。しかし,この魔方陣は,どの列をたしても33になっている。

 まず,この魔方陣を子どもたちに見せた時に「なぜ同じ数字が使われているのか」「なぜ34ではなく33なのか?」に注目させたい。そして,「この33という不自然な数字がどうしてここに使われているのか」を考えさせたい。

 「なぜ34ではなく33なのか?」という疑問に対して,子どもたちは,「ぞろ目だから」「教会に関係ある数」「だれか偉い人の年」と推理を広げていくであろう。さらに,子どもたちは,この魔方陣の中に同じ数が存在することにすばやく目を向ける。

 「12と16がない。」「10と14が2回ずつ使われている。」とつぶやき,この魔方陣が,普通の魔方陣と使われている数字が少し違うために,34が33になっていることを理解する。

 では,この魔方陣を実際に解いてみる。すると,縦,横,斜めのどの列の和も33になる。この足して和が33になるパターンは単純に10通りとか32通りと考えがちだが,実際には310通りにもなるのである。子どもたちの想像を大きく上回る数字である。以下のパターンがその例である。

魔方陣のパターン

 子どもたちがこの魔方陣に直面して,一つ目のパターンを見つけるまでに,少し考え込む。しかし,一つ目のパターンに気づくと,「あっ,ここでもできる」「横でもできる」と次々に新しいパターンを見つけ,気がつかないうちに子どもたちは『発見の喜び』を味わっている。

4.魔方陣を生かした授業づくり

 魔方陣を授業の中でどのように扱うとよいか,いくつかのポイントをあげてみると,次のようになる。
(1) 扱う学年・時期

 扱う学年は,第3学年以上がよいが,数学的な考え方に気づかせるためには,第5学年以上がよい。なお第3・4学年で扱う際は,一般的な魔方陣から導入していくとよい。
 トピックス教材として,学期のはじめの意欲づけ,単元と単元の間の授業,学期終わりの力試しとして位置づけると効果的である。


(2)

 準 備

 数字の入った4×4マスの魔方陣のプリント(1枚で30通り程度,記入可能のもの)を一人あたり数枚用意する。サグラダ・ファミリア教会の写真等があるとよい。


(3)

 導入段階

 パターンが何通りできるのかを予想させてから,課題に取り組ませる。
※ 縦,横,ななめ以外でも,4つの数字の和が33になればよいことを知らせる。


(4)

 見つける段階

 33を見つけたら,色鉛筆等でマークし,見つけたパターンが重複しないように気をつけさせる。

5.授業の実際(第5学年「サグラダ・ファミリア教会の魔方陣」の学習)

 魔方陣を提示した後,右の問題を提示する。


 「さあ,これが何か知ってますか。」


 「魔方陣!」


 「先生,魔方陣って聞いたことあるよ。」


 「たすと同じ数になるのでしょ。」


 「縦,横,ななめ,どこをたしても同じ数になるんだよね。」


 「3マス,3マスの魔方陣ならやったことあるよ。」


 「そうです。どの4つの数を足しても和が等しくなります。」


 「それでは,いろいろな組み合わせを試してみましょう。」

 子どもたちの反応<問題提示 直後の場面>

 「先生,見つけたよ。また,見つかった。もう4つ目だ。次から次へとどんどん見つかるよ。」とつぶやきながら子どもたちは目を輝かせた。
 しばらくは集中して,見つけたパターンを魔方陣のプリントに書いていった。最初のパターンから6つ目くらいのところで「数字は離れてもいいんですか?」という質問が子どもから出された。4つの数の組み合わせになればいいので,数字が離れる場合はよいことをクラス全体で確認した。

子どもたちが見つけたパターン

 <数学的な考え方を引き出す場面>

 ここまでに,子どもたちが個々に見つけてきたパターンを発表させていく。すると,子どもたちは,「ハーイ。ハーイ。」と全員が手を挙げ,次々と発言する。しばらくすると,「全部で何通りあるのかな。」「1つの並び方で4通りあるとすると,40通りは行きそうだ。」「いや60通りはあるんじゃないか。」と思い思いに考えながら,発表は続く。40通りあたりで,子どもたちは,数え方を工夫しないと数え切れないことに気づく。

 そして,「このままじゃ,いくつになるか分からないし,途中で間違えそう。」というつぶやきで,工夫しないと正確に調べることができないことを子どもたちは自覚する。ここで,子どもたちのどうしたら落ちなく正確に数えることができるかという思いをもつので,数学的な考え方に目を向けさせ子どもたちの『全部で何通りになるのか』という意識を持続させながら,この活動を進めたい。

 そこでまず,「では,発表されたパターンで仲間作りをしましょう」と問いかけ,同じものがいくつあるのかに目を向けさせる。
 「1つのパターンにつき,同じものが4通りできるものと2通りできるものがある」という子どもの発言によって,ここまでのパターンが仲間作りの結果81通りであることを確認できた。

 パターンの例<サグラダ・ファミリア教会で市販されているポストカード>


Temple de la Sagrada
Familia. A. Gaudi

Criptogama de Subirachs.
Sagrada Familia

6.授業を振り返って

 本時は,授業参観に位置づけ,実践した。その結果,子どもたちの感想は次のようであった。

  子どもたちの感想

 はじめは15個ぐらいしかないと思ったし,問題を見ただけで簡単そうに見えました。でもやってみると予想以上にたくさん見つかり驚きでした。みんなと一緒に考えていくのがとても楽しかったです。
(A男)

 私は,はじめて魔方陣をやりました。やりだすととても楽しくて,1つ見つけると,それに似ているものがどんどんでてきて,こんなにたくさんになるなんてびっくりしました。
(B子)

 この魔方陣を作った人は,どんなことを考えて作ったのかな。私も魔方陣を作ってみたい。
(C子)

 また,保護者も子どもたちの意欲的な学習の様子に感心し,保護者自身も夢中になって,パターンを探したり,授業参観後には子どもといっしょに家庭でもやってみたいので魔方陣のプリントがほしいという声が出たりしていた。

7.今後に向けて

 『サグラダ・ファミリア教会の魔方陣』には,子どもたちが知っている魔方陣とは異なる点((1)各列の和が34が33,(2)4つの数の組み合わせ)があり,そこがこの教材の面白いところである。

 子どもたちが次々に発見の喜びを味わうことができる教材として実践したが,パターンを見つけていく過程で数学的な考え方に気づかせることも可能な教材であるので,数学的な考え方に焦点を絞っていく指導も有効と考える。
 第6学年の「場合を順序よく整理して」で扱うと効果的であると考える。


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