6年
水よう液の性質         
大阪府高槻市教育センター
久保 正明
1.はじめに

 「水よう液の性質」の単元では,
(1)水溶液には,金属とはたらき合うものがあること
(2)水溶液には,酸性・中性・アルカリ性のものがあること
(3)酸性の水溶液とアルカリ性の水溶液をまぜると,別のものができること
(4)水溶液には,気体が溶けているものがあること

の4点を理解させることがねらいになっている。いろいろな水溶液を使って,今まで学習してきたことを基に考えたり,自分の五感を使って調べたり,実験をして調べたりする活動が中心となっている。

 ここでは,ふだんあまり接することがない塩酸や水酸化ナトリウムという薬品を使っての実験をするので,子どもたちは緊張しつつも,期待を持って学習をスタートさせる。しかし,実際に学習を進めていくと,薬品の名前,実験の結果,酸性・中性・アルカリ性の3つの分類,リトマス紙の色の変化など覚えなくてはいけないことがたくさんある。

 また,実験によって仲間分けした水溶液の性質はそれぞれバラバラで,整理された決まりや法則としてとらえきれない部分がある。これでは,「それぞれの実験は楽しかったけど,覚えることが多くて,難しかった」ということになりかねない。身近な存在として水溶液をとらえられるようにしたいものである。

2.なぞの水溶液を調べる

 前にも書いたように,この単元では水溶液の性質を調べていくことが中心になっているので,「どんな水溶液なのか,その性質を調べてみたい」という意欲を持って学習できるように,単元の最初に取り上げるのは,何が溶けているのかわからない未知の水溶液を使ってスタートしてみた。

 最初から正体がわかっていて「これは,塩酸です。これからみんなで塩酸の性質を調べてみましょう」という形で始めるよりも,正体がわからない水溶液が目の前にあって,何が溶けているのかを予想し,みんなで調べる方法を考え,そして実際に実験して調べるというプロセスを大切にすることで,より興味を持って実験に取り組めるのではないだろうか。

●なぞの水溶液(水5tにクエン酸2gの割合で溶かしたもの)を用意する

●なぞの水溶液に溶けているものを調べる方法を考える

色を調べる
においをかいでみる
なめてみる
ふってみる
ろ過してみる
蒸発させてみる  など
●実際に調べてみる

 子どもたちが考えた方法をできるだけ取り上げて,実際に試してみる。たいてい,「なめてみる」という考えが出てくるので,なめても安全なクエン酸を使っている。
もちろん,「その液が何かわかるまではなめてはいけない」ということもしっかりと押さえておく。

●なぞの液に,チョークを入れてみる

 小さく割ったチョーク(炭酸カルシウム)を入れると,小さな泡をたてて溶ける。

●なぞの液を銅板につけてみる

 ガラス棒でなぞの液を銅板(表面が黒っぽくなっているもの)につけると,黒っぽい汚れのようなもの(表面の酸化銅)が溶けて,ピカピカになる。

 このあとで,なぞの水溶液の正体(クエン酸)を明らかにし,さらにいくつかの酸性の水溶液を使った実験をすることで,「なめると酸っぱい味がして,チョークを溶かしたり,金属のさびを溶かしたりする性質がある」という酸性の水溶液の共通の性質をつかませていく。

3.銅板をピカピカにするもの

 なぞの水溶液を使った実験の発展として,学校や家庭など身の回りにあるものを使って,表面が黒っぽくなった銅板をこすったり,磨いたりしなくても,液をつけるだけでピカピカにすることができるものをみつけるという活動ができる。

 小さく切った銅板がたくさん用意できたら,それぞれの家庭に持って帰らせて,宿題として,台所などにあるいろいろなものにつけて調べてみるということをすることもできる。
 実際にやってみると,醤油やソース,ポン酢,梅干しなど,銅板をピカピカにするもの(酸性のもの)をたくさんみつけることができる。「こんな宿題なら楽しくていい」という感想が出てきたりして,これも興味を引く実験となる。

4.生きてはたらく水溶液

 塩酸や水酸化ナトリウムなどの薬品は,その名前は聞いたことがあっても,ふだんの生活の中ではほとんど接することはない。「何かおそろしそうな薬品だ」ということで,わくわくして実験に取り組めるという部分もあるが,自分たちの生活とは関係のない薬品を使っての実験では,生活とかけ離れたものとしてとらえられかねない。

 水溶液は,私たちの身の回りにいろいろな形で存在していて,いろいろな場面で役に立ったり,生活と結びついたりしている。先ほどの「銅板をピカピカにするもの」でもそうであったように,できるだけ日常生活で使っていたり,接したりしている水溶液を取り上げるようにしていきたい。

 その時に,たいへん参考になる本が『算数と理科の本11 自然のなかの酸とアルカリ』(岩波書店,中川 直哉:文,村田 道紀:絵)である。この本では,「酸性の土 アルカリ性の土」「植物の酸とアルカリ」「酸性食品 アルカリ性食品」「からだの酸性・アルカリ性」「酸をつくる工業 アルカリをつくる工業」など,興味深い話題がたくさん取り上げられ,わかりやすく説明されている。大人でも楽しめる科学読み物として取り上げることができる。

 群馬県の草津温泉は,強い酸性の温泉です。町を流れる「湯川」も青リトマス紙を真っ赤にするぐらいの強い酸性の水が流れる川です。
 酸性の強い液は,鉄やコンクリートを溶かしてしまいます。川にかかっている橋と言えば,このごろは木でできているものはあまりなくて,ほとんど鉄やコンクリートでできています。草津温泉の湯川は強い酸性の川でしたが,湯川にかかっている橋は溶かされてしまわないのでしょうか?

  【予想】
  ア.コンクリートでできた橋げたのまわりを酸に強いプラスチックで囲んだり,鉄でできた橋げたには厚くペンキを塗ったりして防いでいる
  イ.コンクリートや鉄の橋はすべてやめて,木や石を使った橋を使っている
  ウ.他の川から大量の水を湯川に取り入れて,酸性を薄めるようにしている
  エ.酸のはたらきを弱める薬を川にまいている
  オ.橋はなくして,木でできた渡し船を使っている
  カ.その他(          )

 この本で取り上げている話題の1つを,上のようにかんたんにまとめて問題として子どもたちに与えてみた。湯川には川の水を中和する「中和工場」というのがあって,石灰を細かく砕いて水とまぜ,白い乳液を作って,それをパイプで湯川に流し込んでいるという答えを紹介すると,子どもたちはたいへん驚くとともに,人々が酸やアルカリをうまく利用しながら暮らしてきたことから,酸性・アルカリ性,中和ということを生活と結びついてとらえることができてくるように思う。

 こういうスケールの大きい話のあとで,ハチに刺されたらアンモニア水を塗る話などの話題も紹介していくと,より身近なものとなるように思う。さらに,環境問題が深刻化している今,「酸性雨」の問題についてもこの単元の関連でぜひ取り上げていきたい。

 またこの本には,教科書でも取り上げているムラサキキャベツや花の絞り汁を使って,酸性・アルカリ性を調べる実験についても,くわしく紹介されている。リトマス紙の色変化は赤と青だけなのではっきりしていてわかりやすい。一方,花やムラサキキャベツの絞り汁を使った実験では,酸性からアルカリ性まで少しずつ色が変化する。身の回りの材料を使っての実験で,結果も出やすいので,生活に結びつけるという意味でもぜひ取り上げたい実験である。

 【参考にした本】
  『算数と理科の本11 自然のなかの酸とアルカリ』(岩波書店)
  『理科実験・工作100 U 化学の実験A,B』(遊学舎)
  『子どもが生きる授業 理科六年』(小学館)
  『理科教室』(bT04,新生出版)
  授業プラン『生きてはたらく水溶液』西田 隆(高槻・柱本小学校)


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