5年
確かな理解へとつなげる指導方法の工夫・改善            
〜指導内容の順序を視点に〜              
広島県廿日市市立廿日市小学校
小島 史子

 

1.はじめに

 5年生の単元「もののとけ方」の学習について,教科書(啓林館)には,4つの実験を行うようになっている。

1 とけたもののゆくえについての実験
2 ものが水にとける量の限界の実験
3 ものをたくさんとかす方法の実験
4 とけたものを取り出す実験
 そして,それぞれの実験に対して食塩とミョウバンを平行して実験をするのである。

 しかし,今まで授業をしてきて,この流れでは,学習内容を理解させるのに難しいと感じることが2点あった。

 1点目は,最初に行う,とけたもののゆくえについての実験,いわゆる質量保存の法則についての実験から始めると,「ものがとける」現象について混乱してしまい,「ものがとけるとは,どういうことか。」「水溶液とは何か。」「何が保存するのか。」ということがあいまいになってしまう児童が多かった。

 2点目は,食塩とミョウバンの2つの物質について平行して実験を行うと,それぞれの特徴が整理しにくく,ちがいが分かりにくいということがあった。

 

2.指導方法の工夫改善

 そこで,上の2点を改善する方法として,

A 実験順序の入れかえ
B 食塩,ミョウバンの実験の分離
を考えた。

 Aについては,
1 「とける」とはどういうことか
2 ものが水にとける量の限界の実験
3 ものをたくさんとかす方法の実験
4 とけたもののゆくえについての実験
4 とけたものを取り出す実験
という順序とした。

 Bについては,の実験を食塩で行った後,同じ実験をミョウバンで行い,の実験は食塩で,の実験は,食塩とミョウバンで行った。

 

3.改善の成果

実験の順序を入れかえたことで,児童の思考の流れがスムーズになった。
 「もののとけ方」で児童にとって一番身近な経験は,「ものをどれくらいまでとかすことができるか。」である。

 「ものが水にとける量の限界の実験」を最初に行うことで,児童の生活経験と「もののとけ方」のきまりが結びつきやすかったのではないかと思う。

 実際,この実験後,

「では,どうやったらこの限界の量を変えることができるだろう。」
 水の量を変える,水の温度を変える

「とけたものはどうなっているのだろう。」
 目に見えない小さな粒となり,水の中にある

「水の中にあるということをどうやって確かめるか。」
 顕微鏡で見る,なめてみる,重さを量る

「水の中にあるということは,どうやったら取り出すことができるだろう。」
 冷やす,水を蒸発させる

という 発問→予想 で実験を行ったが,どの実験も前の実験で分かったことからさらに思いついた疑問で実験をつなげていくことができ,予想もスムーズに出てきた。

食塩とミョウバンの実験を分けたことで,もののとけ方のきまりが整理しやすかった。
 「ものがとける量の限界」の実験を,まず食塩で一斉に行った。

 食塩は児童にとって身近な物質なので,予想も立てやすく,また,一斉に行うことで,実験手順や実験技能を指導しやすかった。

 次の「ものをたくさんとかす方法」の実験でも,ふだんの生活経験から量と温度の意見が出,特に,温度の実験では,予想に反して量が増えなかったので,もののとけ方についての興味関心が高まった。

 よって,次に行ったミョウバンの実験では,実験手順,技能が定着した状態で実験を行うことができ,また,「他の物質はどうだろうか。」という疑問を持って実験を始めることができたので,ミョウバンのとけ方についての関心が高く,食塩と違うとけ方をする部分については,特に印象に残ったようであった。

実験手順,技能の定着を図れた。
 の工夫は,実験手順,技能の定着にも役に立った。

 同じ作業を何度もくり返すことにより,最初は時間のかかったメスシリンダーの量の調節や,器具の扱い方,ものをとかすコツなど,実験の最後には9割の児童がひとり一人で作業を行うことができた。

 業者によるペーパーテストでも,技能面に関して7割の児童が9割以上の点数をとった。

 

4.取り組みを通して

 この単元についての教科書の指導順序は,「もののとけ方」についての概念を先に理解させるものとなっている。「ものがとけるとは,どういうことか」という概念を理解させた後,そのきまりについて詳しく学習していくのである。

 確かに,理論的にはその方がいいのだろうが,最初に学習する質量保存の法則は「水溶液自体の重さは増える」ということは理解しやすいが,そこから「とけたものの重さはとかす前ととかした後では変わらない」と考えることが児童は難しいようである。

 そこで,児童の実態や生活経験を考えると,まずはものがとける際の具体的なきまりから学習に入った方がもののとけ方になじみやすく,また,児童の生活経験の差を埋める手立てにもなるのではないかと思う。

 この単元の指導を通して,科学的な概念と児童の実態とのバランスをとりながら指導することが,より科学的な見方や考え方が身につくのではないかと感じた。

 

5.参考文献

資質・能力をはぐくむ小学校理科の単元展開と評価 角屋重樹 監修・著
ドラマを生む 向山型理科の展開 小学5年 TOSS向山型理科研究会 編著

 


前へ 次へ


閉じる