I | .実践に当たって
・ | 4年生単元「生き物のくらし」で教材としてカブトムシとアゲハチョウを取り上げたが,ここではカブトムシを年間を通して飼育・観察をした教育実践を紹介する。 |
・ | 忘れ物が多いなど自立面でまだまだ不十分な子ども多いが,自然環境に恵まれていないせいか自然・特に自然の生命体に対して,新鮮な感動の表現をする。中でも,カブトムシには強烈なほどの興味・関心を示してくる。また,飼育活動をするに当たって,カブトムシは家族の理解・協力も得やすかった。 |
・ | 友達への関心が高まる4年生,カブトムシを協力して飼育する方途を探った。また,本年度は,「学年(3クラス)交換授業」を実践し,理科においては,学年で授業をすることになった。 |
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II | .教材(カブトムシ)の目指すもの。
1 | .五感による直接感動体験。
・ | カブトムシ幼虫のフンの手触り・匂い・形状・数量を観察しながら,人間のウンコのイメージを変える。 |
・ | 成虫を手や腕に止まらせたり,鈎爪に引っ掛かれた時の痛さから,野生の力強さ・激しさを体験する。 |
・ | 産卵後,数日たった卵のスーパーボールのような弾力性を確かめる。 |
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2 | .長期飼育の体験から,生命のサイクルを学習。
・ | 幼虫→サナギ→成虫→交尾→産卵→成虫の死→孵化(幼虫の誕生)→成長の変態の様子から,カブトムシの種族保存の過程を学ぶ |
・ | カブトムシの家族探検から,カブトムシが市内の里山(五月山)にも棲息することを知る。<発展学習> |
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3 | .地域の教育力で,校内に「飼育場」を開設。
・ | 地域ボランティアと子どもたちの協力で,「幼虫の飼育場」を新設する。 |
・ | 育た上げた幼虫は,次年度の後輩へ引き継いでいく。 |
・ | 幼虫のエサ(飼育マット)は,池田市の協力をいただく。 |
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II | I.教材の特徴
・ | 昆虫の王様と呼ばれ,児童(男女とも)に強烈な興味・関心をもたらす。 |
・ | 保護者の理解も得やすく,各家庭での飼育・協力も可能である。 |
・ | 日本(本州のみ)での最大昆虫であり,その変態の様子がダイナミックである。 |
・ | 卵・幼虫・サナギ・成虫の全過程の状態を手にとって観察できる。 |
・ | 里山の代表昆虫であり,人と自然の「共生」の学習へと発展できる。 |
・ | 採集は夜となり,家族ふれあいの場が持てる。<発展学習> |
● | 幼虫のエサ(腐葉土)が,大量に必要になる。 |
● | 幼虫(教材)確保のための「飼育場」が必要となる。 |
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IV | .教育実践
1 | .五月山から,カブト幼虫が来た
<昨年,五月山で生まれたカブトムシの幼虫(3齢)が100匹,神田小学校にやってきた>
『ぜったい せい虫にしてやる!』 N・M(男児)
◎ | ぼくは,初めてカブト虫のよう虫をもらって,ぜったいせい虫にしてやると思った。カブト虫のよう虫を育てる日々が始まった。きりふきで水をやった。ぜんぜん疲れない。めちゃくちゃ楽しい。 |
『カブトさがし』 K・H(女児)
◎ | よう虫なんとなくかわいい。小さなアゴ つるつるの体 すけて少し黒っぽく見える…今は弱い。だが,せい虫になるとツルツルのヨロイ「カチンッ」ツノもとてもりっぱに育つといいな…。そんな気持で育てようとしています。 虫一匹いっぴきの命。虫だっていたい。つらいんだもん。 ほりおこすと,わたしのよう虫が出てきた。そのとき,むねがワクワクした。 名前を『クリー』と付けた。クリーは,土にもぐるのがとても速い。クリー これからもよろしくね。 |
<初対面は,感動である!>
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2 | .やっと,サナギになりました!
<2~3週間の長い前よう(さなぎ)時期のあと,よう室の中でサナギになりました。>
『朝,学校に来てみると…』 Y・I(男児)
・ | ぼくは,ずっと前からカブトムシのよう虫をかっています。ぼくは,いっしょうけんめい育てています。ぼくは,朝学校に来てびっくりしました。なんとよう虫がサナギなっていました。とてもうれしかったです。また,これからもせい虫になるまで,いっしょうけんめい育てます。 |
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『体が シュワシュワ…』 A・H(男児)
・ | 今日,よう虫が皮を脱ぎはじめた。びっくりしていろんな人に聞いてみた。よう虫は, 体がシュワシュワで,(サナギ部屋の)角が伸びる場所があいていた。このカブト虫がサナギからせい虫になったら,ほかの人の(育てたメスのカブト虫)と結こんさせてまた育てます。 |
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3 | .成虫が羽化しています。
<子どもの目の前で,最後の変態が感動的に行われています>
『せい虫になったぞ』 S・I(男児)
・ | 一週間前,ぼくのカブト虫がせい虫になった。びっくりしました。おしりがまだ,ぜんぜん色がついていなかったです。でも,次の日カブト虫を見たら,おしりの方に色がついていたのでうれしかったです。そのまま見ていたら,白い物体がカブト虫のおしりの先から出てきたから,びっくりしました。それをにおったら,かなりクサかった。 |
『わたしは,虫が・・・』 M・K(女児)
・ | わたしのカブト虫は,少しちいさいけど,木などをがっしりつかんでとても強いです。わたしは,一度カブト虫を持ってみました。初めて持つカブト虫。わたしは,虫が大きらいです。でも,勇気を出して持ってみました。「やった!持てた!」と思いました。それいらい,カブト虫はさわれるようになったけど,やっぱり虫はきらいです。 |
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4 | .『かぶとのお宿』を造るぞぉ!
<校内2か所お宿(幼虫の飼育場)をボランティアのおじいちゃん達と造りました。>
『たまごを見つけた!』 S・S(女児)
・ | 今日は,松田君と育てたカブト虫のたまごを見つける日です。松田君が「ぼく達も(飼育ケースを)ひっくりかえす?」と聞いてきたので,わたしが「別にいいよ。」と言った。
ひっくり返した土をくずして,たまごをさがしてさがして,さがしまくったけど見つからなかった。
それで,松田君が「たまごが見つかりません。」と言いに行った。そしたら,西先生が「まだ,ケースの中の土が残っているでしょ。」と言った。それで,さがしたらたまごが一個見つかったのです。それで,さがしてさがして,さがしまくったら,全部で17個でてきた。 |
『よう虫のエサ運び』 Y・K(女児)
・ | 今日,軍手でよう虫のエサ運びをしました。土の中には,いろいろな虫がいました。土をとる時は,すごくこわかったです。二回目はK君に(土を運ぶ袋へ)入れてもらいました。虫は,ムカデ・ゴキブリ・アリ・ダンゴムシとか,いっぱいいました。男の子達は,『関係なし』 に土をとっていたけど,『こわくないのかな?』と思いました。 |
<カブト虫から土を知る>
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5 | .他校から『カブト虫ありがとう』
<池田市立五月丘小学校・3年1組のみんなに分けて,あげたカブト虫の幼虫が,見事に成虫になりました。>
『西先生・カブト虫ありがとう』 五月丘小学校3年1組文集より
カブト虫のよう虫をくださって,どうもありがとうございました。ぶじせい虫になりました。サナギが1ぴきとせい虫のメス3びきオス1ぴきです。オスは,まだ角がちゃんとなっていません。わたしは,カブト虫をちゃんとかわいがって育てていきます。
カブト虫は,こん虫です。こん虫の中でも,カブト虫はかっこよくて大すきです。オスとメスだから,たまごをうめるかもしれません。もし,たまごをうんだら,よくかんさつしていきたいです。そして,それも育てて,仲間を増やしていきたいです。
わたしは,生き物係なので(せい虫になったばかりの)カブト虫をさいしょに見つけました。「うわぁ。」先生と生き物係の4人は,びっくりしました。こんなに早くせい虫になるなんて知らなかったし,思わなかったです。
教室に持っていくと,「うわぁ。」っておどろいたり,「すごい。」と感心したりして見ていました。わたしたちは,カブト虫を大事に育ててたのしくしていきたいです。
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V | .交換授業の実践
交換授業で,多様な可能性の発見
・ | 神田小学校の4年生は,3クラスです。3人の担任が手分けして交換授業をしています。1週間に3時限ずつの授業です。 |
・ | ひとりひとり顔が見えるため,生活面での学年指導もスムーズにいきます。 |
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VI | .発展
A | .校内の学習花壇に手を加えて,“大型カブトムシ幼虫飼育場”を作りました。
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B | .地域との連携を強化するため,“地域ぐるみで,ふれあいセミナー”を開催しています。 (2002年秋まで6回を続けている)
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VI | I.児童の変容
<成果>
1 | .カブトムシの幼虫に触れなかった子どもも15~30分もたてば,喜んで手に持てるようになる。この体験学習は,小学校の3・4年生頃に一番,効果が上がるように思われる。 |
2 | .「人畜のウンコ」=汚い/臭いの先入観から,カブトムシのフンは「土の香り」で自然とのイメージチェンジを図る事ができる。 「フンは,自然循環の生成物」との認識に変容する。 |
3 |
.飼育体験から, | 卵…壊れやすい→弾力がある。(スーパーボールみたい) |
幼虫…気持ち悪い→プヨプヨ・フンをする。 |
成虫…かっこいい→ごつい・ツメが刺さって痛い。 |
と,「生き物の実体」を感じとるようになる。 |
4 | .里山で共生してきたカブトムシと人間,その営みに,『違いと共通点』があることに気付く。 |
5 | .小学校時代の″カブトムシ学習″は,子どもらの記憶に永く残り,大人になっても消えることはない。 |
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