4年
生命との感動体験
〜カブトムシと共感して〜
大阪府池田市立神田小学校
西 義史
活動目的
1
.カブトムシとかかわる直接体験を通して,人と自然が「共生」してきた里山でのくらしを考える。
2
.四季の変化に応じて,変化するカブトムシのライフサイクルを観察する。
3
.自然界におけるカブトムシの役割を知る。
地域の自然的・社会的環境
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大阪府池田市神田地域は,中国縦貫高速自動車道・阪神高速11号池田線の平走地点であり,大阪空港への離着陸機の騒音や排ガス公害の影響をまともに受けている。また,西方には市営ゴミ焼却場が,東方にも市営下水処理場などがあり,自然環境は少なく,自然といえば,八坂神社などの社寺林がわずかに残されているだけである。猪名川の氾濫原のため,土質は豊かで畑でホウレンソウ栽培が行われているが,大雨による冠水の心配もある。
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神田地域では「地の人」がいろんな地域行事を中心的に執り行っている一方,都市化が進む中で,人の出入りが激しいところでは,地域行事への関心は少ない。また,最近のマンションの急増で「核家族」が多くなり,くらしや地域に対する考えも多様に入り混じってきている。しかし,総じて神田地域の子は人なつっこく,大人たちは人情が厚く,地域の教育力を集めて,神田小学校を文化の拠点とすることは可能である。
I
.実践に当たって
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4年生単元「生き物のくらし」で教材としてカブトムシとアゲハチョウを取り上げたが,ここではカブトムシを年間を通して飼育・観察をした教育実践を紹介する。
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忘れ物が多いなど自立面でまだまだ不十分な子ども多いが,自然環境に恵まれていないせいか自然・特に自然の生命体に対して,新鮮な感動の表現をする。中でも,カブトムシには強烈なほどの興味・関心を示してくる。また,飼育活動をするに当たって,カブトムシは家族の理解・協力も得やすかった。
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友達への関心が高まる4年生,カブトムシを協力して飼育する方途を探った。また,本年度は,「学年(3クラス)交換授業」を実践し,理科においては,学年で授業をすることになった。
II
.教材(カブトムシ)の目指すもの。
1
.五感による直接感動体験。
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カブトムシ幼虫のフンの手触り・匂い・形状・数量を観察しながら,人間のウンコのイメージを変える。
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成虫を手や腕に止まらせたり,鈎爪に引っ掛かれた時の痛さから,野生の力強さ・激しさを体験する。
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産卵後,数日たった卵のスーパーボールのような弾力性を確かめる。
2
.長期飼育の体験から,生命のサイクルを学習。
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幼虫→サナギ→成虫→交尾→産卵→成虫の死→孵化(幼虫の誕生)→成長の変態の様子から,カブトムシの種族保存の過程を学ぶ
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カブトムシの家族探検から,カブトムシが市内の里山(五月山)にも棲息することを知る。<発展学習>
3
.地域の教育力で,校内に「飼育場」を開設。
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地域ボランティアと子どもたちの協力で,「幼虫の飼育場」を新設する。
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育た上げた幼虫は,次年度の後輩へ引き継いでいく。
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幼虫のエサ(飼育マット)は,池田市の協力をいただく。
II
I.教材の特徴
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昆虫の王様と呼ばれ,児童(男女とも)に強烈な興味・関心をもたらす。
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保護者の理解も得やすく,各家庭での飼育・協力も可能である。
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日本(本州のみ)での最大昆虫であり,その変態の様子がダイナミックである。
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卵・幼虫・サナギ・成虫の全過程の状態を手にとって観察できる。
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里山の代表昆虫であり,人と自然の「共生」の学習へと発展できる。
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採集は夜となり,家族ふれあいの場が持てる。<発展学習>
●
幼虫のエサ(腐葉土)が,大量に必要になる。
●
幼虫(教材)確保のための「飼育場」が必要となる。
IV
.教育実践
1
.五月山から,カブト幼虫が来た
<昨年,五月山で生まれたカブトムシの幼虫(3齢)が100匹,神田小学校にやってきた>
『ぜったい せい虫にしてやる!』 N・M(男児)
◎
ぼくは,初めてカブト虫のよう虫をもらって,ぜったいせい虫にしてやると思った。カブト虫のよう虫を育てる日々が始まった。きりふきで水をやった。ぜんぜん疲れない。めちゃくちゃ楽しい。
『カブトさがし』 K・H(女児)
◎
よう虫なんとなくかわいい。小さなアゴ つるつるの体 すけて少し黒っぽく見える…今は弱い。だが,せい虫になるとツルツルのヨロイ「カチンッ」ツノもとてもりっぱに育つといいな…。そんな気持で育てようとしています。
虫一匹いっぴきの命。虫だっていたい。つらいんだもん。
ほりおこすと,わたしのよう虫が出てきた。そのとき,むねがワクワクした。
名前を『クリー』と付けた。クリーは,土にもぐるのがとても速い。クリー これからもよろしくね。
<初対面は,感動である!>
2
.やっと,サナギになりました!
<2〜3週間の長い前よう(さなぎ)時期のあと,よう室の中でサナギになりました。>
『朝,学校に来てみると…』 Y・I(男児)
・
ぼくは,ずっと前からカブトムシのよう虫をかっています。ぼくは,いっしょうけんめい育てています。ぼくは,朝学校に来てびっくりしました。なんとよう虫がサナギなっていました。とてもうれしかったです。また,これからもせい虫になるまで,いっしょうけんめい育てます。
『体が シュワシュワ…』 A・H(男児)
・
今日,よう虫が皮を脱ぎはじめた。びっくりしていろんな人に聞いてみた。よう虫は, 体がシュワシュワで,(サナギ部屋の)角が伸びる場所があいていた。このカブト虫がサナギからせい虫になったら,ほかの人の(育てたメスのカブト虫)と結こんさせてまた育てます。
3
.成虫が羽化しています。
<子どもの目の前で,最後の変態が感動的に行われています>
『せい虫になったぞ』 S・I(男児)
・
一週間前,ぼくのカブト虫がせい虫になった。びっくりしました。おしりがまだ,ぜんぜん色がついていなかったです。でも,次の日カブト虫を見たら,おしりの方に色がついていたのでうれしかったです。そのまま見ていたら,白い物体がカブト虫のおしりの先から出てきたから,びっくりしました。それをにおったら,かなりクサかった。
『わたしは,虫が・・・』 M・K(女児)
・
わたしのカブト虫は,少しちいさいけど,木などをがっしりつかんでとても強いです。わたしは,一度カブト虫を持ってみました。初めて持つカブト虫。わたしは,虫が大きらいです。でも,勇気を出して持ってみました。「やった!持てた!」と思いました。それいらい,カブト虫はさわれるようになったけど,やっぱり虫はきらいです。
4
.『かぶとのお宿』を造るぞぉ!
<校内2か所お宿(幼虫の飼育場)をボランティアのおじいちゃん達と造りました。>
『たまごを見つけた!』 S・S(女児)
・
今日は,松田君と育てたカブト虫のたまごを見つける日です。松田君が「ぼく達も(飼育ケースを)ひっくりかえす?」と聞いてきたので,わたしが「別にいいよ。」と言った。
ひっくり返した土をくずして,たまごをさがしてさがして,さがしまくったけど見つからなかった。
それで,松田君が「たまごが見つかりません。」と言いに行った。そしたら,西先生が「まだ,ケースの中の土が残っているでしょ。」と言った。それで,さがしたらたまごが一個見つかったのです。それで,さがしてさがして,さがしまくったら,全部で17個でてきた。
『よう虫のエサ運び』 Y・K(女児)
・
今日,軍手でよう虫のエサ運びをしました。土の中には,いろいろな虫がいました。土をとる時は,すごくこわかったです。二回目はK君に(土を運ぶ袋へ)入れてもらいました。虫は,ムカデ・ゴキブリ・アリ・ダンゴムシとか,いっぱいいました。男の子達は,『関係なし』 に土をとっていたけど,『こわくないのかな?』と思いました。
<カブト虫から土を知る>
5
.他校から『カブト虫ありがとう』
<池田市立五月丘小学校・3年1組のみんなに分けて,あげたカブト虫の幼虫が,見事に成虫になりました。>
『西先生・カブト虫ありがとう』 五月丘小学校3年1組文集より
カブト虫のよう虫をくださって,どうもありがとうございました。ぶじせい虫になりました。サナギが1ぴきとせい虫のメス3びきオス1ぴきです。オスは,まだ角がちゃんとなっていません。わたしは,カブト虫をちゃんとかわいがって育てていきます。
カブト虫は,こん虫です。こん虫の中でも,カブト虫はかっこよくて大すきです。オスとメスだから,たまごをうめるかもしれません。もし,たまごをうんだら,よくかんさつしていきたいです。そして,それも育てて,仲間を増やしていきたいです。
わたしは,生き物係なので(せい虫になったばかりの)カブト虫をさいしょに見つけました。「うわぁ。」先生と生き物係の4人は,びっくりしました。こんなに早くせい虫になるなんて知らなかったし,思わなかったです。
教室に持っていくと,「うわぁ。」っておどろいたり,「すごい。」と感心したりして見ていました。わたしたちは,カブト虫を大事に育ててたのしくしていきたいです。
V
.交換授業の実践
交換授業で,多様な可能性の発見
・
神田小学校の4年生は,3クラスです。3人の担任が手分けして交換授業をしています。1週間に3時限ずつの授業です。
・
ひとりひとり顔が見えるため,生活面での学年指導もスムーズにいきます。
VI
.発展
A
.校内の学習花壇に手を加えて,
“大型カブトムシ幼虫飼育場”
を作りました。
B
.地域との連携を強化するため,
“地域ぐるみで,ふれあいセミナー”
を開催しています。
(2002年秋まで6回を続けている)
VI
I.児童の変容
<成果>
1
.カブトムシの幼虫に触れなかった子どもも15〜30分もたてば,喜んで手に持てるようになる。この体験学習は,小学校の3・4年生頃に一番,効果が上がるように思われる。
2
.「人畜のウンコ」=汚い/臭いの先入観から,カブトムシのフンは「土の香り」で自然とのイメージチェンジを図る事ができる。
「フンは,自然循環の生成物」との認識に変容する。
3
.飼育体験から,
卵…壊れやすい→弾力がある。(スーパーボールみたい)
幼虫…気持ち悪い→プヨプヨ・フンをする。
成虫…かっこいい→ごつい・ツメが刺さって痛い。
と,「生き物の実体」を感じとるようになる。
4
.里山で共生してきたカブトムシと人間,その営みに,『違いと共通点』があることに気付く。
5
.小学校時代の″カブトムシ学習″は,子どもらの記憶に永く残り,大人になっても消えることはない。
●さらに,詳しく知りたい方は下記へ連絡を下さい。
<問い合わせ先>
563-0043 大阪府池田市神田2−4−1
神田小学校 西 義史
TEL 0727-53-1060 FAX 0727-53-1042
▼自費出版の資料もあります
I
自然保護ボランティア総括誌
『輝け!クワガタ探検隊』
II
〃
『輝け!クワガタ探検隊ii』
III
〃
『輝け!クワガタ探検隊iii』
IV
〃
『輝け!クワガタ探検隊IV』
V
〃
『輝け!クワガタ探検隊V』
VI
創作自然絵本『コクワの冒険』