高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
 探求活動(課題研究)

課題解決型授業シナジータイム
~自分で未来を切り拓く~

育英西中学校・高等学校 長谷川 成実

1.はじめに

2011年に,ニューヨーク市立大学教授のキャッシー・デビッドソン氏が,ニューヨークタイムズ紙のインタビューで「アメリカの小学校に入学する子どもたちの65%が,現時点では存在しない完全に新たな職種に就くことになる」との予測を述べた。それから12年が経ち,世界中で新型コロナウイルス感染症が広がり,不可逆的な変化が世界・社会で起こっており,また海の向こうでは戦争が起こり,キャッシー・デビッドソン氏の発言は現実味を帯びてきたように思う。
そんな現代における「正しさ」とは何か。それが分からない時代になっていると私は考える。「正しさ」を求めるのではなく,お互いが歩み寄れる関係性を作り,そのような社会で活き抜き,「自分らしく輝く」生徒を育成したいと私は考える。

社会に出る準備期間である中高生の時期に身に付けなければならないことは,従来のような大学受験のための知識ばかりでなく,知識を活用する力,自分から学ぼうとする力など多岐に渡ってきている。すなわち,学校は多様な学びを支援する場所であるべきだと考える。そこで,本校では,設定科目「シナジータイム」を2012年から導入し,現在は,高校3年生まで実施する本校のコア科目となった。今回は,高校特設Ⅰ類コースで3年間実施した実践例を紹介する。
本校は,奈良県にある全校生徒758人の中高一貫の女子校である。中学校は,国際バカロレア(MYP)を2018年から導入し,2020年に認定校となった。高校においては,2019年に,文部科学省の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」グローカル型推進校に認定された。高校は立命館コース・特設Ⅰ類コース・特設Ⅱ類コースと3つのコースに分かれている。

2.シナジータイム

シナジータイムとは,課題を発見し主体的に取り組み協働して問題解決に向かう力を養う時間である。また,さまざまな教科での学びに応用されるよう,「学びの方法を学ぶ時間」でもある。本校独自の設定科目であり,2012年度中学で実施し,2018年度から高校1年生特設Ⅰ類に導入し,2023年度高校1年生は6期生である。高校から入学する生徒が多いので,仲間作りを大切にしながら,「行動」することの大切さに気付くことが目標である。また,高校シナジータイム1期生が,タイに訪問した際,タイの元商工会議所長である高木さんから社会課題やタイでの課題,合計10の課題(図1参照)を頂き,このテーマをこのコースで引き継いで5年目となる。高校1年生では,この10の課題をチームで協働して考えることも目標である。

【高木さんから頂いた課題10】

3.シナジータイム特設Ⅰ類コース~3年間の実施の流れ~

<高校1年生>

1学期

“シナジータイム”とは何かを知る。(知る・協働)

2学期

社会貢献とは何かを考える。(視野を広げる)

3学期

思いを形にする。(挑戦・行動)

<高校2年生>

1学期

自分にとって“良いプレゼンテーション”とは何かを知る。(知る)

2学期

「Thai課題受け継ぎ会」後輩へ受け継ぐ。(視野を広げる)

3学期

思いを形にする。(挑戦・行動)

<高校3年生>

1学期

自分自身の行動の意味付け“探究したいこと”とは何かを知る。(知る)

2学期

大学進学する理由をまとめ,思いを形にする。(挑戦・行動)

図2:ワークシート①

図3:ワークシート②

4.授業を実施して

生徒たちが,生徒たち自身で自分の成長を実感できる機会が増えた。この授業を通して少しでも生徒たちの自己肯定感が上がっていたら嬉しい。自分にできることやできそうなこと,協力すればできることやできそうなことを自分たちで見つけ,社会に貢献することの楽しさが少しでも伝わっていればいいと思っている。
また,社会貢献や探究の楽しさを生徒に伝えるためには,教員側の情熱が必要だと実感している。生徒も教師もワクワクすることを,生徒たちと共に実施することが必要ではないだろうか。

生徒アンケートの一部を紹介いたします。

問1.シナジータイムで面白かったこと・楽しかったことは何か。

  • プレゼンの内容を発表したときにわかりやすいと言ってもらえることに達成感があり,その部分が面白いと感じました。
  • 自分の知らない世界を教えてくれたこと。
  • 班でのグループワークでそれぞれの意見に耳を傾けながら,自分自身の考えを深められたこと。
  • みんなの前で話すスキルが高い人は,お手本としてみんなの前で発表した。それをみて,自分との差を感じ私も上手くなりたいとモチベーション維持につながったこと。
  • 協働学習をしたこと。
  • たくさんの人達と交流することができたこと。
  • 沢山の人の経験や話から学びを得られたこと。

問2.シナジータイムで苦しかったこと・苦労したことは何か。

  • 初めてのことにチャレンジすることが多く,勉強と違いパターンが決まってないこと。
  • グループで普段話さない人と話し合ったり,自分だけでなく内容を聞くまで知らない人もわかりやすいようにプレゼンのスライドを作ったりすることが苦労しました。
  • 答えがない問題について考えることが多かったので行き詰ってしまったときに大変だった。
  • タイの貧困について自分で調べ,解決策を探す授業。解決すると思った案が解決していなかったりして,むずかしかった。
  • 前で発表すること。しかし,このおかげで緊張しにくくなり,成長できました。
  • 自分の意見はしっかり持っているけれど,それを言葉にして発表することにすごく緊張しました。

問3.シナジータイムを通して身に付いたなと思ったことは何か。

  • 主体性,協働性,行動力だと思います。答えのない問題に自分たちなりの考えで,解決策や問題点を導き出し,実際にそれを実践するためにオンラインでタイの現地校と交流したり,ボランティア活動をしたり,行動力も身についたと感じています。
  • 自信,コミュニケーション能力,笑顔
  • 突然の出来事に対応する力や,ひとつのことを徹底的に調べ発表する力,他人と協力して何かを成し遂げる力が着きました。
  • 傾聴力,プレゼンスキル。
  • 自分を分析するスキル。
  • 伝え方や細かいところまで調べる探究心。
  • 自立女子。

問4.シナジータイムで身に付いたことを今後どのように生かしていきたいですか。

  • 前に立つことや自分が周りを巻き込んで行動を起こしたい。
  • 社会人になった時に,自分のことばかりではなく,周りのことを見ることの出来るようなコミュニケーション力。
  • コミュニケーション能力を活かして,海外の人と繋がりたい。情報収集力を活かして,世の中のさまざまな問題に対して視野を広くし情報を見極める能力を身につけていきたい。
  • 日本と世界の架け橋になるという将来の夢に向けて,大学でも積極的に興味のあることを貪欲に学び,私の長所である主体性や行動力で視野を広げていきたいと思っています。
  • 常に疑問を持ち社会につながるような行動ができるようにしたいです。

問5.考え方や自分自身の幅が広がったシナジータイムの授業や印象的な場面があれば答えてください。

  • クラスメイトの発表を見るとき。
  • タイの学校とZoomで話した授業で幸せの考え方が変わった。
  • 最後の授業の長谷川先生のプレゼン。
  • サステナブル国際会議2020横浜に行けたこと。
  • キャビンアテンダントの方の話を聞いた際に夢は追い続けていいときいて私の将来についても夢をもって前向きに進もうと思えた。
  • 一年かけて取り組んだタイの課題解決型授業では,何回も班で話し合いをして,何回もプレゼンを練って試行錯誤した印象があります。インターネットや本を駆使して,タイの現状や貧困,教育,労働などの問題点を学び,解決策を考えました。
  • 将来何をしたいか,何になりたいのかを考える授業。進路のことについて先生と話したときに,自分の思いをどのように伝えるべきなのかを教えていただいた。そのことが大学の面接で活かすことができた。

問6.授業の受け方や取り組み方について後輩へのアドバイスがあれば記入してください。

  • 遠慮しないで自分の意見をはっきりと周りに伝えることが大切だと思います。
  • 自分の意見を持つこと。
  • シナジータイムは真剣に取り組めば,倍になって自分を成長させてくれます。だから,班の人が何もしてくれなくても率先して自ら行動することが大切だと思います。
  • 自らこれをしてみたいと思うことがあれば積極的に動けると自分の将来に役立つことが多い。
  • たったの45分で週一回の授業だけど,それを何気にこなすのではなく,全て自分のために,将来のためにと思いながら授業を受けることで,また違った見方ができると思う。自分で何事も行動するのが大事だとわかった。そして,何事も,チャレンジしてみないとわからないことがたくさんあるのだなと思った。
  • 何より大切なのは,積極的に自分から動く事と何事も楽しむ事。後は,恥を捨て去ることも時には必要。

5.今後の課題

時代に合わせて,教師が課題の設定や考え方をアップロードしていかなければならないと私は考える。そして,社会での問題や課題に目を向け研鑽を積むべきである。また,生徒がワクワク・ドキドキするような学びになるようにファシリテートするのは教師の役割である。そのためには,教師同士や教師のコミュニティを広げ,切磋琢磨できるような機会が必要である。

今回は,新興出版社啓林館にこのような機会を頂き感謝申し上げます。
「未来を切り拓く」生徒たちが,ワクワクしながら大人になれるために,教員のみなさまをはじめ,多くの方に今後もご教示いただきたいです。