平成23年度に大阪府のグローバルリーダーズハイスクール(GLHS)に指定された年から,本校の探究活動の歴史は始まった。翌年スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され理系に特化した研究活動を「探究チャレンジ」という名で行うようになったが,この頃は文理学科に指定された4クラス160名だけが行う体制であった。大きな転機が訪れたのはSSHの第2期の構想を練っていた平成29年,翌年から全クラス360名を対象として文理学科が設置されるということが決定された時であった。それまで行ってきた160名対象の理系特化型の探究活動カリキュラムでは施設・設備・教員数,いずれにおいても無理があり,360名が実施できるカリキュラムへデザインし直すことが求められた。そこで全校体制で探究活動に取り組むためのシステム作りと共に,探究活動,各種課外活動,日々の授業とを有機的に繋げることを目的に,新分掌としてGL部(グローバルリーダーズ部)が設立された。以降探究活動を牽引する役割を担っている。
折しも,その頃「課題研究メソッド」の初版が発売された。本校にはそれまでに蓄積された課題研究のノウハウはあったものの,理系の研究をベースにしたものが多く,より汎用性が高く基本的なことを学べる教材を探していたため採用を決めた。以降1年生・2年生の「探究チャレンジ」の授業の副読本として利用し続けている。
3年間を5期に分け探究活動の流れを繰り返すことで,自然と課題解決のノウハウを身につけることを目的としている。
入学前の春休みに個人で取り組む課題である。いつもの生活を違う目線から見ることで,課題発見の目線を学ぶ。「ケチャップが使いきれない」「冬の朝にカーブミラーが曇る」など身近な課題を見つけてきて,入学後にクラスで発表する。夏休みにはチームで解決策を考える活動へと発展していく。
本校SSHの第1期のテーマであった「エネルギー」をもとに,探究活動の基礎を学ぶ。担任・副担任が指導し,HRクラスで活動する。課題発見→RQ→仮説→検証→考察の流れを実際に体験しながら学ぶことで夏の活動へと繋げる。
クラス内でチームを作り,プレ探究活動のような身近な課題を1つ取り上げる。解決のための仮説をたて,検証を行いその結果をミニ論文にまとめる。3期の準備期として先輩の発表会や講演会を通し,自分が何に興味を持ちテーマとして来年度の研究としたいのかをじっくりと考えていく。
クラスを超えて興味関心で結びつく仲間を探し3人から6人のチームを作る。理科研究に特化したいチームは物理・化学・生物・地学・情報・数学のあるSS探究コースを選び(約60名),自然科学,社会科学,人文科学領域の研究をしたいチームは課題探究コースを選択する(約300名)。1年生で学習した探究活動の流れに沿いながら,自分たちの決めたテーマで探究活動に取り組む。2年生になるとテーマに応じて教室が割り振られて,2学年の教員と理科教員が担当者となる。例年SS探究コースが約15チーム,課題探究コースが70~80チームで活動している。
初めての発表会である中間発表会を9月に終えると,次の目標が見つけられないチームが出てくる。そこで新たに目標を設定することで,もう一周探究活動を頑張れるようにするのが科学者コース・技術者コースである。科学者コースは研究自体を深化させるものであり,技術者コースは研究をもとに実用化案を考えるものとなっている。新たな目標をチームで決定し,新たな
RQをたて研究を進めていく。
高校生活で取り組んだ様々なことを結びつけ,卒業後の進路を考えるきっかけとする。本校のSSHプログラムの「スパイラル」を元に,自分がどのような高校生活を送ってきたのかを振り返ると共に,将来の学びへどのように繋げるのかを専用のワークシートに記入していく。
ワークシート:探究チャレンジⅢ 「高校生活を1枚の図にまとめよう」
平成29年度より全ての生徒・全ての教員が探究活動に関わる形での取り組みを行っている。2年生SS探究コースでは3~4班に1~2人の理数教員,課題探究コースには6~7班に2人の学年教員が担当者として指導を行っている。1年と3年ではHR担任と副担が担当者となり,HR単位での活動を行っている。担当教員の経験により指導に大きな差がでないように,GL部が共通教材となる教員ノート・スライドを作成するとともに,定期的に担当者会議を開催し指導の注意点などを共有している。
資料:担当者が使用する共通スライド(教材の参照ページも記載している)
本校では基本的に生徒たちが取り組みたいテーマを自由に設定できるようにしている。但し,高校の研究では扱えないものや適さないものは「みんなのガイドライン*1」により規制している。生徒が自由にテーマを設定できるということは,指導側としては様々な専門外の研究を担当しなければならないため負担になる。しかし本校の課題探究コースにおいては生徒たちが自走するための教材を用いて,専門外の教員でも指導がしやすい体制を作ることで,生徒自らが興味関心をもつものをテーマとすることをより重要視している。
生徒が作成した論文やポスターは「TAルーム*2」に保管され,自由に閲覧ができるようになっている。多く利用するのはテーマを考えている1年生や,論文を書き始める時期の2年生である。また,TA(ティーチングアシスタント)として年間20名程度の卒業生が登録し,探究活動をサポートしてくれている(SSH活動費より支出)。TAは教材の準備・整理や発表会運営のサポート,プレゼン指導など幅広い分野で活躍してくれている。
*1 みんなのガイドライン
安全に探究活動を行うために本校独自のガイドラインを作成している。以下の3か条を柱とし,実験・調査を安全に行うための注意点が全4ページに記されている。
1.全ての活動は安全を最優先して行うこと
2.全ての活動は周りの人々や環境に迷惑や被害がかからないように行うこと
3.全ての活動について,担当教員へ報告・連絡を行い,承認を得ること
*2 TAルーム
本館の2F自習室の横にある小部屋をGL部で探究チャレンジの情報が得られる部屋へとリメイクした。過去の論文,ポスター,研究ノートや他校の探究活動の資料を見ることができる。TAがおススメする論文のコーナーもある。
TAルーム外観
過去のポスター
旧出席簿入れを利用した論文棚
GL部が新設された時の最初の課題は「いかに生徒の中の探究活動に対する価値を上げるか」ということだった。入試を見据えて教科学習に意欲的な生徒が多い中で,探究活動を「普段の学習に関係のない面倒くさいもの」と捉えられてしまっては,学校全体の士気が下がってしまう。そうならない為に,様々なアイディアを出し合い探究活動に様々な工夫を施している。
毎年1月に行われる成果発表会は2年探究チャレンジの集大成である。午前のプレゼンテーションの部と午後のポスター発表の部に分けて行なっている。720名を前にプレゼンを行うのは各領域から予選を勝ち抜いてきた研究チームであり,できる限り最高の舞台を作る努力をしている。「あの先輩のようになりたい」と思う1年生達を少しでも多く生み出すことができれば,翌年の探究チャレンジもよい流れで進めることができるからだ。
ポスター発表では,カラフルな付箋を用意しており,見学者は評価とコメントを書いて発表者に渡すことになっている。ポスターの周りにカラフルな付箋が貼られることで,会場は明るく華やかな雰囲気になる。課題研究アドバイザーなどの外部講師には「スペシャル付箋」を用意しており,これは!と思った研究チームに渡してもらうこともしている。2年生がかっこよく楽しそうに探究チャレンジに取り組む姿を1年生に見せることを意識して準備を行なっている。
成果発表会2部 カラフルな付箋を使った評価
閉会式を待つ様子
GL部が発行する探究活動の情報プリントであり,主に先輩からのアドバイスや探究活動における各種受賞者を掲載している。特に2年生達がチーム活動の終了時に,これからチーム活動を始める1年生に向けてのアドバイスを伝える号では,自分たちの失敗や苦労をもとに様々なアドバイスが掲載されており見応えがある。また,GL部に対しても様々な意見や提案が寄せられる。改善を求められてもできないことはその理由を,おもしろい提案は即採用する意志を紙面が許す限り掲載している。
校内の至る所に探究活動に関するものを展示することで,探究活動を身近に感じてもらう工夫を行っている。毎年成果発表会に向けて作成し配付する「探究NAVI」は「課題研究メソッド 2nd Edition」p.137の研究要綱の項目をA4半分の両面にまとめ,カラフルな用紙に印刷したものである。成果発表会後は人通りの多い渡り廊下に探究NAVIボードとして設置しており,気軽に手に取れるようになっている。また,各種発表会でポスター賞を受賞したポスターをはじめ,校内を歩けば至る所で研究ポスターに出会うようにしている。
探究NAVI
全チームの探究NAVIを展示した探究NAVIボード
探究活動は一生使える思考のサイクルを育ててくれる活動である。探究活動に取り組むことで論理的思考力が養われるだけでなく,Society5.0を生き抜く生徒達に必要な課題発見力,表現力,発想力,協働性のような様々なスキルが身につくのである。しかし,その本当の価値はまだまだ理解されていないように思える。答えのない問いに取り組むのが探究活動であるが,「その価値をいかに生徒,保護者に理解してもらえるか」こそが,本校が取り組むべき「答えのない問い」である。日々試行錯誤を繰り返しながら,教職員も生徒も協力して答えのない問いに挑み続けていきたい。