兵庫県立三田祥雲館高等学校は開校13年目の単位制普通科の高等学校であり,当初から探究活動を行ってきた。探究活動の内容は少しずつ変化しているが,生徒自身が課題を見つけ,それを解決するために探究し,その成果を論文としてまとめるという大筋は変わらずに現在に至っている。しかしその一方で探究活動の時間を確保するために教科の授業時間は余裕のないものになっており,受験に向けて効率よく教えることを目指してきた。そのため,理科系の探究活動と教科(理科)の授業で同じ理科を扱っているにもかかわらず,相乗効果が十分に得られていないように感じていた。そこで,本格的な探究活動が始まる前の1年次を対象として,探究活動と教科を接続するために,生徒が主体的に学習するように指導することと,教科の授業に探究的要素を取り入れることにした。
酵素活性に関する実験を例に紹介する。この実験の目的は,実験を通して酵素活性を理解させることではなく,実験計画の立て方,実験の進め方,観察の仕方,レポートへのまとめ方を身につけさせることとした。
指導の流れは次の通りである。
生徒の実験計画書と実験レポート
実験計画
実験レポート
実験計画やレポートはまだまだ不十分ではあるが,初めてにしては,よく頑張ったと思っている。今後,2年次で探究活動を指導する際には,実験計画の立て方等をレベルアップさせたうえで,統計的なデータ処理の方法,図表の作成方法,ポスターの作成方法及び,口頭発表の仕方を指導していく。
今回の実験に要した授業は約4コマぶんであり,多くの時間を割くこととなった。このような取り組みができたのは,年度当初に予習の仕方・授業の受け方・復習の仕方を教え,生徒自身で勉強するように指導したからだと考えている。最初は,教科の内容以外に勉強の仕方を教えたり,生徒の学習内容をチエックしたりしながら授業をしていたため,授業進度はかなり遅かったが,徐々に早くなり後期には1つの実験に5コマ使える余裕を持つことができた。また,生徒が自ら実験や観察を行うための準備もおこなった。顕微鏡観察の前に顕微鏡の構造や使用方法,ミクロメータを使用したサイズの測定方法,スケッチの仕方について課題を与え調べさせた。
課題を添削し,間違いや不十分な部分について指摘し必要に応じて再提出させた。次に,顕微鏡実習を行った。顕微鏡を安全に使用するための注意をした後,各自が調べた方法によって観察を行わせた。特にミクロメータの使用については,添削の段階で理解できていないであろう生徒をピックアップしておき,その生徒たちに注意を払いながら指導した。ミクロメータの使用については2コマ使用し,最初の時間に自分で理解できた生徒は次の授業時間にミクロメータ使用の復習と新たな観察課題を与え,各自のペースで観察できるようにした。最初の時間に理解できなかった生徒は次の時間に自己申告させ,初めから説明し全員がミクロメータを使用できるようにした。実験後にはレポートの書き方を指導し,レポートを提出させた。授業のノート,まとめ用のノート,レポート等は生徒間で閲覧できる機会を作り,他の人の良いところを積極的に取り入れてブラッシュアップするように指導した。
このように,学校での授業時間だけを使うのではなく,家庭での学習も効果的に利用することで,実験のための時間確保ができた。また,生徒自身で実験・観察する練習をさせてきたことで,今回の実験が実施できたと考えている。
実験の工夫については,目的を達成でき,成功していると考えている。しかし,現在は私が受け持つ生物のみで実施しているため,まずは物理・化学でも同様の取り組みができるようにしていきたいと考えている。そのためには,2つの解決すべき問題があり,1つは膨大な量の課題やレポートの添削の負担をどのように軽減するか,もう一つは実験のための時間をどうやって確保するかである。レポートの添削については,いくつかの改善策を考えているが,実験のための時間の確保については,授業の仕方を変えるなどの工夫が必要となるため,現時点では難しいように思う。
授業の工夫については,主体的に学習するように指導してきたが,生徒は受け身の学習になれており,時間をかけて指導しても主体的な学習に移行できない生徒が一定数いる。予習や復習ができていなければ授業についてくることが難しくなるため,授業の工夫や生徒への働きかけも行ってきたが十分な効果を上げることができなかった。ただ,普段の座学では受け身の生徒も,班活動で実験計画を立てたり,発表したりする時には積極的に活動できていた。まだ具体的には考えることはできていないが,教師対個々の生徒での授業ではなく,生徒で数人のグループを作って,グループ内での活動を通して学習する仕組みを作ることができればさらに主体的な学習につなげることができるのではないかと考えている。