新たな生徒実験の開発や実験材料の検討には,計り知れない時間と労力が費やされる。そのための十分な時間が用意されていない我々教員にとって,既存の優れたプロトコルを利用することは,生徒への効果を考えても十分意義のある方法であると考える。
ここでは,市販のキットを用いた非常に効率的で生徒にも人気のある実験を紹介させていただく。
バイオテクノロジー分野の実験は,設備や費用,準備,時間などの面から実施には大変な困難が伴う。プロトプラストの作製についても通常数時間を要し,また,無菌操作や試薬の調整といった作業が生徒実験の実施にとって大きな壁となっており,以前は図表等を利用した説明で終わっていた。
『遺伝(2002年7号月)』に掲載された「50分間でプロトプラストをつくり観察する」は,上記のような問題を全て解決した画期的なプロトコルであり,実験キットも安価で入手できるため,5年ほど前から3年生の理数科および普通科理系の生物選択者に実施している。
このプロトコルは,「プロトプラストの迅速単離キット」(甲南大学バイオテクノロジー教材開発チーム)を使用する。キットの主な特徴は,①減圧処理により1~2時間で完結する,②無菌操作なしで行う,③試薬は調整済み,④果皮等の有色部分を使うため視覚的にも感動,等である。
本校は平成15年度よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に継続指定されている。そのSSH事業のひとつ,成果の普及活動として行っている実験講習会で,平成23年度は本実験の紹介をした。県内より26名の参加者があり,アンケート結果からも大変好評であった。
①説明 → 材料の調整 | (10分) |
②減圧処理 | (5分) |
③酵素反応 | (15分) |
④プロトプラストの観察・スケッチ | (15分) |
⑤細胞接着 → 細胞融合の観察・スケッチ | (10分) |
⑥片付け・まとめ | (10分) |
本校は65分授業なので,余裕を持って進めることが可能である。実際には,通常の50分間授業での終了は難しい。例えば,あらかじめ酵素処理までしたものを準備しておけば50分授業でも十分可能であろう。
本校で用意した実験プリントである。
※細胞の写真はキットのCDに収められているものである。
生徒は自分の見たい資料を各自用意することで実験の意欲が駆り立てられるようである。また,減圧処理中の反応液の沸騰も生徒の関心を高める。さらに,酵素処理後の反応液の有色は検鏡を促す要因のひとつである。視野に広がる色鮮やかなプロトプラストはまさに幻想的であり,細胞接着,細胞融合に至っては実験室の至る所から歓声が沸く。
スケッチは有色体や液胞の区別の勉強にもなる。プロトプラストの直径測定はミクロメーターのよい復習になる。その他にも,浸透圧の関係や酵素の働きなどといった考察事項が盛りだくさんあり,大変内容の濃い生徒実験である。
なお,今回の掲載に際して,甲南大学バイオテクノロジー教材開発チームの承諾を得て紹介している。