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理科

脊椎動物の脳を題材とした解剖実習
~目で見て比べて考えさせる授業の実践~

北海道苫小牧南高等学校 山岡 景寛

1.はじめに

私が現任高に赴任して以来,年度当初に行うガイダンスで強く感じていることがある。理科が苦手という生徒の割合の高さである。生徒たちが生物分野を苦手とする理由は,覚えるべき専門用語の量と,それらを用いた説明を求められることへのハードルの高さにあるらしい。自然現象や事物に対する関心の低さや,学習の質,学校で与えられたテストや受験というハードルを超えるために覚えることが求められる従来の教育のあり方がこのような状況を作り出しているのは疑う余地もない。自ら考える時間をかけることを嫌い,すぐ目の前に答えが与えられなければ避ける傾向こそが,関心もさほどないことを覚え,考えることが求められる理科を嫌いにしてしまうのではないだろうか。インターネットを利用して,何でも手軽に調べられるようになった今,その傾向はさらに強まってしまっている。

このような状況だからこそ,学ぶべき対象を知り,実物に触れさせる授業の重要性はこれまで以上に増しているはずである。そこで,私は,教科書やインターネットで触れた事柄との違いを自らの実体験に基づいて学び,考えさせることを授業でいかに取り入れていくかということを課題として,授業を行うようにしている。今回は,脊椎動物の神経系を学ぶ授業の一環として行っている,脊椎動物の脳を比較する解剖実習を中心とした実践を紹介したい。

2.授業実践

(1)事前学習(座学)について

筆者は,板書時間の削減をしつつ,図を用いた説明を多用するために,日常的にパワーポイントを用い,生徒はプリントに重要事項と説明のポイントを記入する形態で授業を行っている。板書は,補足説明に用いるとともに,その時間内に授業の展開上繰り返し確認する必要がある重要事項の整理に用いるようにしている。

本実践は,脊椎動物の中枢神経系のしくみを学び,動物間の違いを実習により確認することで,その理由を考察することを目的としている。従って,事前にヒトの中枢神経系の構造と機能について学習して実習に臨んでいる。

(2)解剖実習について

①材料の準備

脊椎動物の頭部の解剖実習としては,鶏頭水煮缶詰を用いたものが広く知られており,多くの実践例が紹介されている。解剖用ではないため,品質が不安定という欠点があるものの,入手も比較的容易なこの材料を用いた脳の観察は,筆者もかなり以前から取り組んできた。しかし,国産品の製造中止に伴い材料の入手が困難になった時期に,これに代わる材料を模索した経緯がある。結果,安価でほぼいつでも入手可能な材料として,魚の頭部を用いた解剖実習を行うようになった。現任高では実習費がほぼない状態のため,食用として用いた魚の頭部を材料にできることはコスト問題の解決にも繋がっている。用いる魚種は,実施時期に合わせて入手しやすいものを選択しているが,経験上,イワシやサバなどの青魚が扱いやすいようである。

イワシで行う場合は頭部のみを30分程度,水煮したものを利用している。この程度の時間煮込んだ材料は,ピンセットだけではすべてを解剖することは難しいが,柔らかすぎず扱いやすいように思う。また,一部の作業に眼科用はさみを用いることで,比較的容易に頭骨を切断し,除去することが可能である。なお,煮崩れの心配がある場合は,ガーゼで包むとよいが,手間がかかるので通常,筆者は行ってない。

なお,生魚を材料に用いた場合,生理的に抵抗感が強すぎることと,限られた時間の中での実習故に,技術が高くない生徒たちが目的を達することは非常に難しくなる。そこで材料は,鶏頭と同様に水煮とし,主にピンセットを用いて解剖できるようにしている。

②授業の展開

解剖実習の展開は以下に示すとおりである。授業全体を通して,スライドを用いた説明を行っている。なお,解剖慣れしていない生徒が,これらの作業すべてを行うには配当時間2時間が必要である。時間の確保が難しい場合は,生徒のスキルに応じてどちらか一方を生徒自身によって解剖し,もう一方はあらかじめ頭骨を開くところまで解剖したものを準備することにより,一部手順を省略しつつ,現物の観察,とりわけ生物間の比較ができるようにすることに時間を割けるように配慮している。

図1 鶏頭の解剖手順説明用スライド(一部抜粋)

図2 魚頭の解剖手順説明用スライド

(3)スマートフォンを利用した観察の記録と情報の共有(写真撮影)

前述の通り,本時の目的は,実物の観察および比較である。一方で,解剖実習を行いながらの観察のため,一つ一つを詳細にスケッチしながら確認していくことは困難を伴う。そこで,観察対象物はしっかり目視,観察した上で,スマートフォンを用いて写真を撮影させながら進めるように指示している。スマートフォンのカメラは,拡大鏡代わりとしても秀逸であり,細部の観察にも有効である(図3)。本実習では利用していないが,スマートフォンのカメラはコリメート法による顕微鏡撮影に利用するなど,実験の記録を残すために大いに役立っている。

令和4年度から,勤務校では生徒たちはタブレットPCを学校で利用するようになっている。しかしながら,機器の活用が前述のように撮影が中心であること,タブレットPCよりスマートフォンの方が高いカメラ性能を持つうえに,機器も小型で狭い実験台上で場所をとらないため,今後もスマートフォンの活用を図っていく予定である。

撮影した写真データはクラウド上にアップロードして,グループで共有することでレポートの作成に活用させている。北海道の道立学校ではGoogle Workspace for Educationが導入されており,本校でもGoogle Classroom等を利用して授業を行っている。本実践もこれらを活用し,得られた情報の共有を図っている。

現時点では,撮影した写真の一部はスケッチに用い,他はレポートに添付させ,観察した内容,調べた内容等を書き込ませるようにしている。写真を用いることで,改めて細部も詳細に観察することが可能となり,また,机間巡視の際に,観察物を写真の記録とともに振り返りながら質問ができるなどのメリットがある。また,スケッチが苦手な生徒も後で振り返りやすくなり,レポート作成時の振り返りという観点でも有効である。

図3 スマートフォンによる撮影

左:スマートフォンは写真撮影用アダプターとスタンドを活用して水平に保持して利用させている。カメラ機能により,撮影だけでなく,観察を容易にする。現在は少人数で授業を行うことが多く,解剖しながら,観察をするためにもスマートフォンの保持は有効である。

右:スマートフォンで撮影した写真は,Google Classroomを利用して提出させる。クラウド上に保存された写真を共有し,レポート作成に活用させる。

図4 提出されたプリントの例

観察対象の一部は従来通りスケッチさせているが,撮影した写真も活用しながらまとめている。実習終了後,持ち帰って完成させるように指示しているが,スケッチが苦手な生徒でも,撮影し,共有した写真を見ながら,新たな気づきも得られる。

3.おわりに

本実習は,選択科目である生物の授業で実施しており,医療関係や農学・理学系を志す生徒たちが多くを占めている。従って,比較的学習意欲は高く,ともするとハードルが高くなりがちな解剖実習にも積極的に取り組んでくれている。中には少し抵抗感を持つ生徒もいないことはないが,実際に取り組み始めると,そのような生徒も多くの場合に意識が変わっていくことが,終了後に提出されたレポートから読み取れる。

こうした実習により,実物を観察する体験は貴重である。しかし,近年は,動物愛護の観点等からも,解剖実習は避けられる傾向にある。本事例のような,食料として利用しない部位をも用いた実習には一定の意味があると感じている。

スマートフォンが普及し,生徒たちも含めて社会全体がデジタルデバイスへの依存度を強めている現代,これまで以上に実体験が乏しくなっていることは否めない。このような状況だからこそ,イベント的に終わらせない,実験実習とそれを元に考える授業ではないだろうか。新しい技術を用いながら,こうした取り組みを今後も続けていきたい。