中学校では,酸化還元反応を酸素の授受として学んでいる。高等学校では,このことを基に,酸化還元反応を電子の授受としてとらえ,酸化剤と還元剤の反応へと続いていく。
「酸化還元反応と生活」の章では,酸化還元反応による化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出す装置として化学電池が扱われている。
本実験は,電子の授受としての酸化還元反応と化学電池のしくみを関連付けることに主眼をおいて行ったものである。
この操作は,酸化剤と還元剤の間の電子の授受が,試験管の中で直接おきていることを意識させるために行う。酸化還元滴定の実験を行ったときは,この実験は行わない。
一般的な酸化剤と還元剤の反応であっても,実験装置の工夫によって電子の授受を外部回路経由で行うことができることを実感させ,電池の反応は特別ではなく,既習事項であることを意識させる。
試薬Ⅰ | 試薬Ⅱ | |
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a | 0.02 mol/L-KMnO4 40mL | 5 %-H2O2 40mL |
b | 0.01 mol/L-K2Cr2O7 40mL | 1.0 mol/L-KI 40mL |
c | 5 %-H2O2 40mL | 1.0 mol/L-KI 40mL |
d | 0.02 mol/L-KMnO4 40mL | 0.5 mol/L-H2C2O4 40mL |
e | 0.1 mol/L-Fe(NO3)3 40mL | 0.5 mol/L-H2C2O4 40mL |
各組み合わせにおける検流計の針の振れ
以前は教科書を使って理論中心で進めていたが,最近は時間のかかる実験ではないので必ず行うようにしている。
この実験を行うようになってから,生徒が「酸化還元反応を電子の授受でとらえる」ということをより意識するようになったと感じている。
生徒には,この授業・実験を通じて次の点に気付かせたいと考えている。
次の実験は,静岡県理科教育向上研究会の中で話題となった「ダニエル電池の素焼き板を取り除くと電池として機能するか」の検証実験である。
ダニエル電池の素焼き板を取り除くと,「硫酸亜鉛水溶液と硫酸銅(Ⅱ)水溶液が混合し,銅イオンが亜鉛板の表面で直接電子を受け取ってしまい,外部回路を経由して銅板へ電子が移動しないので電池としては機能しない」,と考えるのが一般的であろうが,実際はそれと異なる実験結果であった。
素焼き板のように,還元剤から酸化剤へ直接電子が移動することを妨げる構造は,電池における絶対条件ではなく,あくまで酸化剤と還元剤の間の電子の授受を,効率よく外部回路経由にする役目ということであろうか。
素焼き板を使用せずにダニエル電池を組み立て,プロペラモーターが回るかを確認した。硫酸亜鉛水溶液は0.1mol/L,硫酸銅(Ⅱ)水溶液は1.0mol/Lの濃度のものを使用した。プロペラモーターは太陽電池専用モーター(使用電圧0.4V,回転数260rpm)のものを使用した。
今回の実験でもおよそ1日は電池として機能している。別の実験では2日以上放電していた結果もあり,「ダニエル電池の素焼き板を取り除くと電池として機能するか」という問いに対しては,「電池としては機能しない」とは言い難い。