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理科

缶詰みかんの製造法
(多糖類の加水分解および有機化合物の塩の水溶性)

鹿児島県立鶴丸高等学校 江口 智

1.はじめに

天然高分子化合物の単元で,多糖類の加水分解を説明する際に,デンプンの加水分解では,時間経過ごとのヨウ素デンプン反応の色が青から赤紫,褐色に変化し,最終的には色が消える,といったものが教科書や図説に記載されている。他に身近な話題として何かないか考えたところ,以前,生徒に「缶詰みかんの薄皮は,どうやって剥いているか」と質問したことを思い出した。当時は,ほとんどの生徒が「大人数で,手で剥いているのではないか」と考えていた。化学薬品を用いて溶かす方法を紹介すると,全員が関心を持ってその話を聞いていた。

缶詰みかんの製造法は,インターネット上でも多く掲載されているが,その多くが安全性を考慮し,クエン酸や重曹を用いたものである。今回は,短時間(全行程で30分以内)ででき,加水分解および塩の水溶性を確認するために,塩酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いた缶詰みかんの製造法を紹介する。

2.実験概要

準備

操作1 みかんの皮を剥き,300mLビーカーに入れた1%塩酸200mLに浸す。
操作2 操作1のビーカー内の塩酸を,途中で数回かき混ぜながら,約40℃で5分間加熱する。
操作3 操作2で加熱後のビーカー内のみかんを取り出し,水道で十分に水洗いする。

操作4

別の300mLビーカーに1%水酸化ナトリウム水溶液を入れ,操作3で洗ったみかんを入れて,途中で数回かき混ぜながら,約40℃で5分間加熱する。
操作5 操作4で加熱後のビーカー内のみかんを取り出し,水道で十分に水洗いする。

3.実験経過

操作1
みかんは外の皮をむき,1房ずつ分ける。白い部分を無理にとる必要はない。(この白い部分を溶かす実験である)
ハウスみかん
写真① ハウスみかん
むいた状態
写真② むいた状態
塩酸に浸す
写真③ 塩酸に浸す
操作2
ここで,セルロースとペクチンの一部が加水分解される。写真④,⑤から,薄皮が少しずつ剥がれ落ちているのが分かる。
加熱中
写真④ 加熱中
上から見た図
写真⑤ 上から見た図
操作3
加熱後,水洗いすると,ある程度の薄皮が取れている(溶けている)感じになる。(写真⑥)
水洗い後
写真⑥ 水洗い後
操作4
加熱していくと,溶液の色が黄色くなってくる(写真⑧)。加熱をしすぎると,みかんが「さのう」までバラバラになってしまう。
加熱前
写真⑦ 加熱前
加熱後
写真⑧ 加熱後
操作5
水できれいに洗うと,缶詰みかんのできあがり。
できあがり
写真⑨ できあがり

4.考察

みかんの薄皮に含まれているペクチンの主成分は,ガラクツロン酸(図1)が互いにα-1,4-結合したポリガラクツロン酸の6位のカルボキシ基がメチルエステル化されたもの(図2)である。

ガラクツロン酸
図1 ガラクツロン酸
ペクチンの主成分の構造
図2 ペクチンの主成分の構造

塩酸との加熱により,細胞壁の主成分であるセルロースとともにペクチンも加水分解される。ポリガラクツロン酸の糖鎖が加水分解されて分子量が小さくなるとともに,6位の炭素のメチルエステル部分も加水分解されてカルボキシ基となり,その後の水酸化ナトリウムとの反応で,この部分が中和され塩になること(図3)が,薄皮の部分が水に溶ける理由であると考えられる。

6位の加水分解と中和

6位の加水分解と中和

6位の加水分解と中和

図3 6位の加水分解と中和

操作4で,溶液の色が次第に黄色くなったのは,さのうが破れて中の果汁が出たためではなく,薄皮の白い部分が溶けたためである。実際に,薄皮の白い部分のみを水酸化ナトリウム水溶液に加えて加熱したところ,溶液は黄色に変化したことからも確認できた(写真⑩)。

薄皮の反応
写真⑩ 薄皮の反応
左:水酸化ナトリウム水溶液のみ
右:水酸化ナトリウム水溶液+白い薄皮

5.おわりに

私の前任校である岐阜県立恵那高等学校は,SSH指定校であり,今回の実験は,その事業の一環で行う「出前講座」で行ったものである。これは,高校生が地域の中学校に出向き,実験の指導を行うものだが,水酸化ナトリウムなど危険な試薬を用いるときのゴーグル着用の必要性や,火を使う際に立って実験するなど,実験を行うときの注意事項を高校生に理解させるとともに,中学生に指導することで,周囲に気を配り,安全に実験を行うことを常に意識させることができた。

化学と日常生活との関わりに,なかなか気づかない生徒も多く,そのため,化学は覚えるだけの科目と考え,興味を持たない者もいるのが実情である。少しでも身近なものや事象に化学が関わっていることを実験を通じて紹介し,化学を楽しみながら理解する科目と気づいてもらえるよう,今後も多くの題材を実験テーマにしたいと考えている。