高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

古箪笥の引き出しから

松商学園高等学校 遠藤 正孝

1.はじめに

筆者は長野県の県立高校・私立高校で地学教育に携わり40年程になります。この間,本県でも生徒数の減少にともない教員定数が減る中で,いわゆる地学分野を専攻した(地学分野を専門とする)理科教員の割合が「地学(地学分野の科目)」を履修する生徒数に比して過少な事態が続いており,これを補うために他分野を専攻した教員が「地学」を担当せざるを得ない状況が常態化しています。その結果,経験者には周知の実験や,かつては特に意識しなくても日常的に受け継がれてきた先輩諸氏の豊富な経験・授業実践などが,次の世代に伝承されないまま途切れつつある現状を憂慮しています。特に,一人で初めて「地学」を担当することになった先生が,指導に苦労されているといったことも増えていると感じます。
そこで,以前から知られているものも含めて筆者がこれまでにおこなった授業の中から,容易に実施できて多くの生徒が興味を持った実験・実習や,「地学」を指導する上で感じてきたことのいくつかを,思い付くまま書き留めてみました。

2.「地学」の年間指導計画について

ⅰ) 地学って何の役に立つの?

「地学」は地球や宇宙に関わる事象を広く扱い,身近で有用な履修科目であることは言うまでもありません。ところがあるとき生徒から「先生,地学って何の役に立つの?」と無邪気に問われて驚きました。また,例えばフェーン現象の計算問題はできるのに,今日暑い原因がフェーンであることに思いが至らない生徒も少なからず,というような場面にもしばしば遭遇し,反省させられました。それ以来,年間指導計画に従った授業展開を原則にしつつも,個々具体的な地学現象(大きな地震や火山活動,災害につながりそうな台風・豪雨等の気象現象,メディアで報道される天文現象や宇宙探査に関わること等々)が発生した場合は,できる限りタイムリーに授業で取り上げるよう努めてきました。時には猛暑で生徒がぐったりしているような日に氷河の話をする,というようなこともあります。これを一時間の授業の途中に割り込ませると,生徒はいわゆる"雑談"と捉えてしまうので,基本その時間をフルに使ってなるべく一話完結となるように扱い,その時間の学習内容は既習事項ですから以後の授業では省きます。そのために私は一時間のテーマごとに教科書の内容をまとめ直し,必要事項を補ったプリントを用意して,教科書と併用しています。全て合わせれば,ほぼ教科書の項目が網羅されるというしくみです。なお,このようなやり方は,その科目を複数人で担当する場合なかなか実施しにくいですが,生徒には概ね好評です。
近年は各社の教科書とも単元の配列に大きな違いが無くなってきました。発行者も減り,全国模試の出題範囲との整合性など様々な理由からかと思われますが,かつての高校地学の教科書は,いきなり「太陽の構造」から始まるもの,「身近な地質や岩石」といった地質分野から始まるもの,「地球の形と大きさ」など固体地球を扱う地球物理分野から始まるものなど,各社それぞれ特徴があり単元の配列に決まりはありませんでした。これは,高校の基礎的な地学の内容は単元同士の関係が並列的なものが多く,あまり重層的な構造になっていないことによります。もちろん各単元それぞれが関係し合っていて総合的な理解が重要なのは当然ですが,物理や化学などに比べると指導計画の自由度は高いと思います。テーマごとにページ単位で内容をまとめてバインダーで綴じ合わせ,必要によって自由にページを入れ替えられる教科書なんてあれば面白いと思いますが・・・。

ⅱ) 夜間の天体観測を年間指導計画に組み入れるには

「地学」の年間指導計画に天体観測を組み入れる場合には注意が必要です。太陽の観察などを除くと夜間の実習になるので,一般の生徒を対象にするのはかなりハードルが高くなります。放課後の時間を使い19:00頃までには終了して生徒を帰宅させるには,日没時間が早くなる11月~12月がベストです。それ以降になると受験シーズンや寒さの問題で,ますます実施しにくくなります。月齢も重要で上弦を過ぎてしまうと明る過ぎ,月・惑星以外の星座などを観察するには不適です。月を諦めれば満月過ぎの期間も可能ですが,せっかくのチャンスに望遠鏡で月も観察させたいということになると,三日月から2,3日のうちが狙い目です。日没後間もない薄明中の17:30頃から始めて,まず望遠鏡を月面に向けクレーターや地球照などを観察します。次は望遠鏡をその時に見えている惑星(木星・土星・金星など)に向け観察します(2025年には土星環の消失が起こるので,普段と違う輪の無い土星なども観ることができます)。全員が惑星の観察をし終わる頃には月が西に傾き,あたりは暗くなり,沈んでいく夏の星座から秋の星座,星雲星団などを観察できます。学校における以上のような内容の天体観測は,実施可能な期間がごく限られてくることがおわかりいただけると思います。さらに定期考査などの学校行事の制約もあるので,なるべく早めに予定を立てて校内や保護者に周知しておかないと,適期を逸することになります。
なお,昼間でも観察できる日食や内惑星の日面通過はここしばらくありませんが,授業中の太陽面観察は安全に配慮すれば容易におこなえます。太陽投影板に投影する方法が一般的ですが,近年は水素のHアルファ線を用いて彩層を観察する太陽望遠鏡なども普及し,太陽のダイナミックな現象を手軽に観察できるようになりました。校内に機材が無くても,近隣の学校同士で融通するのも一法かと思います。プロミネンスなどを自分の眼で直接観るという体験は,生徒に大きなインパクトを与えます。

写真1:ドーム脇の屋上で部分日食の観測中
後ろに写っている望遠鏡のようなものは,生徒が手作りしたピンホール式の太陽投影装置

写真2:部分日食中の太陽投影像
ドーム内の天体望遠鏡に太陽投影板を取り付けて,部分日食中の太陽投影像を撮影

写真3:太陽の投影像をスマートフォンで撮影する生徒たち

写真4:金星の日面通過
太陽面右側の小さな黒い丸が金星。その他太陽黒点もいくつか写っている。薄曇りの中で撮影したため光球面に靄のような濃淡が見られる。

3.岩石・鉱物にまつわる意外な実験

ⅰ) 水に浮く?岩石

基本的に岩石の密度は水よりも大きいので,内部に気泡を含む軽石などを除き,水に浮くことはもちろんありません。この実験は,古くから良く知られている「重液」に岩石を浮かせて,密度の違いを実感させる実験です。教科書に出てくる火成岩のうち,超苦鉄質岩として知られる「かんらん岩」の密度は約3.3g/cm3,珪長質岩の「花こう岩」の密度は約2.7g/cm3ですから,密度2.89g/cm3の「ブロモホルム(CHBr3)」を重液としてビーカーに入れ,かんらん岩を浸すと底に沈み,花こう岩を浸すと浮き上がります。ブロモホルムは無色透明の液体なので,あたかも水に浮いているように見える花こう岩に,生徒は一様に驚きます。
そこで種明かし,というわけですが,この実験にもちょっとした注意が必要です。多くのかんらん岩の密度は約3.5g/cm3程ですから問題はありませんが,花こう岩の平均密度は2.75g/cm3程で2.80g/cm3くらいのものもあり,かつブロモホルムにも2.6g/cm3程の製品もあり,花こう岩が沈んでしまうことがあります。重液を購入する際には密度を確認し,必ず予備実験をして,確実に浮かぶ花こう岩を選んでおくのが大切です。またブロモホルムは毒性・揮発性・環境残留性があるので,実験は慎重におこなう必要があります。ブロモホルムは高価な試薬ですが,きちんと管理すれば繰り返し使えます。
なお,ダイヤモンドカッターなどで岩石を切断することができれば,かんらん岩と花こう岩をほぼ同じ大きさに成形し,それぞれ両手に持たせて,重さの違いで密度の違いを体験させることができます。誰でもはっきり違いが感じられると思います。また,水を入れたメスシリンダーに入れて体積を測定し,さらに質量を量って各岩石の密度を求めることもできます。

ⅱ) 磁石に付く岩石

鉄の酸化鉱物である「磁鉄鉱」が磁石に付くことはよく知られています。では安山岩,玄武岩,斑れい岩,蛇紋岩などの岩石に磁石を近づけるとどうなるでしょうか?多くの生徒は,磁性を持つ金属は磁石に付くけれど,岩石は金属ではないから磁石に付かないと予想します。実はネオジムなどの特別な磁石でなくても,これらの岩石はほとんどが磁石にくっ付きます。
火成岩には生徒がよく知っている主要造岩鉱物以外に,少量の「その他の鉱物」が含まれます。この中には偏光顕微鏡で観察したとき光を通さない不透明鉱物があり,磁鉄鉱もその一つです。このわずかに含まれる磁鉄鉱が磁石に反応していたのです。一般に苦鉄質岩のほうが珪長質岩より磁鉄鉱の含有量が多めなので,蛇紋岩や斑れい岩などは特に良く付きます。この意外な結果から,生徒は主要造岩鉱物以外にも目を向けるようになり,また,「火成岩の残留磁気」の理解にもつながっていきます。

ⅲ) 鉱物をストーブに載せると・・・

最近は学校の暖房もファンヒーターやエアコンなどが主流になりましたが,かつてはダルマストーブなどといわれたポット式の石油ストーブでした。その熱くなった上面に金色をした六角板状~柱状の鉱物を載せると劈開面の層間がニョキニョキと開いて伸び,もとの数倍~10倍以上になります。この鉱物が「蛭石」です。伸びる様子が吸血するヒルのようだということでこう呼ばれていますが,この鉱物は花こう岩が風化した真砂(マサ)によく見られる風化した黒雲母で,園芸用土のバーミキュライトとしてホームセンターなどでも販売されています。今時はなかなかダルマストーブもありませんし,手軽とはいえこの方法は少々過激であまり行儀がよくありませんから,バーナーで熱した鉄板を用いるのが良いと思います。
同様な方法で「蛍石」を熱してから教室の暗幕を引いて室内を暗くすると,蛍石がボーッと青白く光っているのが観察できます。「ラピュタの飛行石」のようだと生徒が喜ぶこの実験も,蛍石の「熱ルミネッセンス」と呼ばれる周知の現象ですが,大きな結晶を熱するとパチパチと爆ぜ,その欠片が発光しながら飛び散る様子は舞飛ぶ蛍を思わせるというのが名前の由来です。このように蛍石は加熱によりしばしば割れることがあるので,形の良い大きな標本ではなく,割れても構わないものを用いることと,顔を近づけるなどして跳ね飛んだ欠片が当たることがないよう注意してください。
このようなちょっとした演示実験のいくつかで,個性溢れる鉱物の世界に興味を持ってもらえればしめたものです。

4.地磁気を実感してみよう

普段はあまり意識することはありませんが,私たちは地球を取り巻く強い磁場の中で生活しています。この「地球磁場」だけで簡単に軟鉄棒を帯磁させ,磁石にすることができます。この実験も特別な装置などは必要ありません。
まず軟鉄棒を用意します。私は先程触れたかつてのポット式ストーブが大量に退役した時期に,一緒に廃棄されたストーブ付属の火掻き棒(長さ約60㎝,パイ5㎜)を2,3本いただいてきてそのまま使っていますが,予備実験をして上手くいけば何でも構いません。市販のパイ5㎜くらいの鉄棒を切っても良いでしょう。この場合は棒の両端の形状が同じですから,見分けやすいように油性ペンなどでどちらかにマーキングしておきます。あともう一つ,伏角計(地学に無くても物理にあるかも)を準備すれば,最低限これだけで実験は可能です。普通の方位磁石では小さすぎて上手くいきませんので注意してください。
始めに伏角計を用いて教室内の偏角と伏角を測定し,教室内の地磁気の磁力線の向きを生徒に説明します。松本では偏角は西へ約7°,伏角は北から下向き約50°です。あとは軟鉄棒をその方向に平行(そんなに厳密で無くても大丈夫)にして,20㎝位のストロークで軽く(鉄棒の自重+アルファくらいの力で)トントンと30回くらい床に打ち付けます。打ち付ける時に鉄棒を動かす方向は,あくまで磁力線に平行になるように気を付けてください。ただこれだけです。これで軟鉄棒は帯磁して磁石になりました。国内では軟鉄棒の下側はN極,上側がS極に帯磁しているので,伏角計を偏角測定時のように水平にもどして,軟鉄棒のN極側をゆっくり伏角計の磁針のN極に近づけていくと,磁針は軟鉄棒から逃げるように遠ざかります。今度は軟鉄棒のS極側をゆっくり伏角計の磁針のN極に近づけていくと,磁針は軟鉄棒に近付くように動きます。これだけでは,軟鉄棒が最初から帯磁していたかも知れないので,軟鉄棒の上下を逆にして同じ実験をします。この場合,すでに軟鉄棒が帯磁しているので,1回目より少し多めにトントンした方が良いかと思います。そして先程のように軟鉄棒の先をゆっくり磁針に近づけると,軟鉄棒の極性が先程とは逆転していることが確かめられます。とても簡単ですが,地球磁場を実感できるよい実験だと思います。
実施する上での注意点を列挙します。軟鉄棒を床に打ち付けると書きましたが,実際にこれをやると教室の床にダメージを与えたり大きな音で他の教室の授業を妨げたりするので,私はまず床に雑巾を数枚敷き,その上に諏訪の鉄平石(板状摂理の発達した平板状の安山岩)を置き,さらにその上に雑巾を数枚敷いておこなっています。鉄床などを用いるとそれが帯磁しているのではと疑う生徒もいるので敢えて金属を使いません。トントンの回数は,鉄棒など実施者の装置の違いなどで変わるので,予備実験で最適な回数を得ておいてください。また,大人数では磁針の動きがわかりにくいので,実物投影機などを用いて伏角計を上から撮影し,TVモニターや電子黒板などに映すと良いでしょう。

5.太陽系の広がりを廊下で体感する

太陽系(ひいては宇宙)の広大さは,知識として知っていても大きすぎてなかなか実感しにくいものです。そのために太陽系をスケールダウンして,例えば地球と太陽の距離を1mとすれば冥王星までは40m程になる,というような話が地学の授業でよく使われますが,これをもう少しアレンジするとなかなか面白い体験的な実習になります。
生徒に,太陽,水星,金星,地球,火星,ケレス(小惑星),木星,土星,天王星,海王星,冥王星の各天体に関する1実直径(㎞)2地球の直径を1㎜にしたときの直径(㎜)3太陽からの実距離(㎞)4太陽からの距離(au)5地球の直径を1㎜としたときの太陽からの距離(m)を示した表を配ります。このうち,下線部1,3,4の数値(地球の直径は12760㎞,太陽-地球間の平均距離は1.50×108㎞=1auなど 本稿では以下省略)はあらかじめ入れておき,2,5は空欄にして生徒が各自で求めます。ここで重要な「比」の概念がきちんと理解できていない(このことが,例えば化学反応の量的関係やmolの概念などにつまずく原因にもなっているのですが)生徒には,この機会に並行して比例式や分数式の復習も加えます。
表が完成したところで,いま求めた数値を使って校内に地球をパイ(直径)1㎜の球としたときの太陽系を作ります。太陽の直径は109㎜ですから紙にパイ109㎜の円を描き,色を塗って黒板に貼ります。そこから4.54m先にパイ0.38㎜の水星が,8.46m先にパイ0.95㎜の金星が回っていることになります。普通の教室ではここまでが限界。地球の位置は教室からはみ出てしまうので,廊下に出ましょう。校内の長い廊下の端の壁面に先程のパイ109㎜の太陽の絵を貼り直し,さて地球は?というと太陽から11.8mのところに位置してパイ1㎜。当然ですが,この位置から壁に貼った絵の太陽を見たときの大きさ(視直径)は普段私たちが見ている太陽の見かけの大きさと同じ(角度約30′)です。火星は太陽から17.9mでパイ0.53㎜,ケレスは32.4mでパイ0.071㎜,木星は61.0mでパイ11.2㎜,校舎内ではここら辺が限界ですね。お互いに動いている中でパイ1㎜の地球から約50m先にあるパイ1㎝位の木星に探査機を送る困難さが,あらためて実感できますね。このスケールで隣の恒星(ケンタウルス座アルファ星)までは3200㎞程になります。
なお廊下の各天体の位置は,一度測ったら廊下壁面の下部にでも小さくバミリテープを貼っておくと毎年使えます。あまり目立つとイタズラと間違えられて真面目な先生に剥がされてしまいます。

6.地域地質と地史・堆積岩などに関することでは・・・

ⅰ) 河原の礫と地域の地質

現在の学習指導要領では地史の単元で日本列島の成り立ちが扱われますが,「地学」を学ぶ生徒には多少とも地域地質に関する内容を何らかの形で伝えたいと思っています。このテーマは地域ごとに地史も地質構成も異なるので,他地域での実践がすぐに使えるというわけではありませんが,「地質図」をもとに展開した実習の一例をご紹介します。
松本盆地には多数の河川が流入しますが,流出する河川はやがて信濃川となる犀川ただ一つです。かつて勤務していた学校はこの川のほとりにあり,まさに盆地から流れ出る地点に位置していたので,授業で河原に出ては「河川による地形」,「流水の作用」,「河川性堆積物」など様々な観察ができました。その帰りに生徒がそれぞれ自分の気に入った礫を一つずつ拾って帰校するところから始まります。次の時間は各自の礫を分類し,詳しい岩石名を同定します。次はその岩石の後背地を考察するため,簡略化した長野県の地質図(地層や岩体の境界だけが入った白地図)を配り,色鉛筆で地層や岩体を塗り分けていきます。生徒はその過程で糸魚川静岡構造線の東側と西側の明瞭な色の違いに気付きます。東側は黄色や茶色で塗られた新生代の地層や火山岩類が占め,西側は中・古生界や花こう岩などの灰色や赤色,さらに中央構造線との間には変成岩の緑色などが目を引きます。ここで,東北日本・西南日本内帯・西南日本外帯という日本列島の地質区分を説明し,この全てが本県に分布していること,さらに北アメリカプレートとユーラシアプレートの境界が松本盆地を通る糸静線付近に想定されていることなどを学びます。そんなわけでこの学校裏の河原から拾ってきた礫には,外帯を除く様々な岩石が含まれることがわかり,互いに議論しながら各自の礫のルーツを探していきます。生徒の中には通学で毎日このプレート境界を行き来している者もいて,あらためてこの地域の地質の面白さに興味を持つ生徒が増えました。学んできた多様な知識を総合して考察し理解する力をつける上でも,意義のある実習だったと思っています。

ⅱ) 級化構造を作る実験が少し気になる話

以前,タービダイトの砂岩などにしばしば見られる「級化構造」を作るという実験を見かけたことがあります。メスシリンダーなどに不淘汰な砂まじりの泥水を入れて懸濁させて静かに置いておくと,大きな粒子から順に沈殿して級化構造ができる,というものです。これはストークスの法則(粒径が小さな粒子ほど沈降速度も小さい)を示すもので,その通りの結果になりますが,実際の級化構造がこうしてできるわけではありません。なぜならば,多くの場合堆積物は静水中に上から落ちてくるものではなく,混濁流などの流れによって運搬されてくるものだからです。級化構造は,流下する混濁流が粗粒な頭部から細粒な尾部へと順に通過しながら堆積する過程で形成されます。この実験を級化構造のでき方の説明には用いない方が良いと思います。

7.おわりに

今の学校は忙しすぎます。先生はみな目の前の自分の仕事を片付けるのに精一杯で,教員同士がゆっくり教科や授業について語り合うことも難しくなりました。でも,良い学校を作るのにこれは必要不可欠なことです。同じ失敗を誰かがくり返さないために,時にはマイナスの経験を伝えることも大切です。古箪笥が壊れる前に引き出しの中身を記しておこうと書き始めた取り留めのないこの文も,ここで紙幅が尽きました。これらが少しでも日々の授業のお役に立てば幸いです。