本校では高校2年生で「地学基礎」3単位,高校3年生で「理科基礎演習(学校設定科目)」3単位(生物基礎と地学基礎で3単位)を開設している。高校2年生で文系を選択した場合,「物理」「化学」「生物基礎」「生物」「地学基礎」の中から1つ選択することができ,生徒の進路志望や興味・関心に応じて自由に選択できるのが本校の特徴である。しかし,「地学(標準単位数4単位)」の開設はしておらず,大学等の理系学部を志望している生徒で「地学基礎」を選択することはできない。
平成30年告示高等学校学習指導要領には,地学基礎の目標として「日常生活や社会との関連を図りながら,地球や地球を取り巻く環境に関わり,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,科学的に探究するために必要な資質・能力を育成すること(文部科学省,2018)」と記載されている。これからますます変化の激しい時代の中で生き抜くためには,自ら課題を見つけ,それを解決するために必要な資質・能力の育成が教科指導の中でも求められている。
探究的な学びを授業に導入するにあたって,私は教員の予備実験の過程に着目した。私はこれまで,多くの実験・実習の授業を行う際に,予備実験に多くの時間をかけてきた。教員は生徒実験を考える際に,「どのようにしたら良い結果が得られるか」,「そのためにどのような実験方法,実験器具,試料を使うのが適切か」ということを考える。これこそ「探究活動」ではないかと考えた。課題に対して,解決する手段を考え,実際にやってみて失敗し,改善していくことこそ探究するために必要な資質・能力であり,このような能力を測ろうとしているのが,大学入学共通テストの問題であると感じている。このような理由から,生徒自身が実験を計画し,その結果だけではなく,実験方法についても適切であったかを考察させる授業を実践した。
なお筆者は,教員6年目とまだまだ経験が浅いため,様々なご実践をされている先生方からご指導いただけると幸いである。
地学基礎においては「(1)地球のすがた(ア)惑星としての地球 イ 地球内部の層構造」で扱う内容である。地球内部の層構造は地殻・マントル・核の三層構造になっており,層構造の要因は,先カンブリア時代冥王代のマグマオーシャンによるものと考えられている。
図1:マグマオーシャンによる地球の層構造の形成(啓林館「高等学校 地学基礎」より)
地球の内部構造をその成因と関連付けて理解するためには,地球の内部の物質ほど密度が大きくなっていることに気付かせる必要がある。よって,地球内部の物質の密度測定を行うことの意義は大きいと考える。
このような理由から,地学基礎の授業では毎年この実験を行っている。しかし,密度(質量と体積)を求める方法はいくつかある。そこで私は,それぞれの方法について予備実験を行い,より正確な値が出る方法や生徒が失敗しにくい方法を吟味した。このとき,この予備実験の過程こそ探究活動ではないかと考えたのである。よって生徒には3つの方法とも行わせ,それぞれの実験方法はどのようなメリット・デメリットがあり,どのような試料に有効な方法かを考えさせてみようと考え,以下の授業を実践した。
授業は2時間構成で行い,1時間目に以下の3種類の実験方法を,実験器具の使い方とともに説明した。
まず,電子天秤で試料の質量(m)をはかる。次に,ビーカーに試料が十分につかる程度の水を入れ,水とビーカーの質量(M)をはかる。さらに,試料を輪ゴムまたは糸で結んでつるし,ゆっくりビーカーの水に沈め,ビーカーの質量(M')をはかる。増えた質量(M'―M)は,アルキメデスの原理より試料が押しのけた水の質量に等しく,また水の密度は1.0 g/cm3なので,水に沈めた試料の体積(V)にあたる。求めた質量と体積の値から試料の密度を計算する。
まず,測定する岩石の重さ(m1)をばねばかりではかる。次に,同じ岩石の水中での重さ(m2)をはかる。アルキメデスの原理より,浮力(m1―m2)の大きさが体積(V)にあたる。求めた重量と体積の値から試料の密度を計算する。
まず,岩石全体が浸かるくらいの水を入れ,その時の体積(V0)をはかる。次に,糸でつるした岩石を水の中に入れ,その岩石が押しのけた水の体積(V1)をはかる。(V1―V0)より,岩石の体積を求める。質量は電子天秤ではかり,求めた質量と体積の値から試料の密度を計算する。
次に実験で使う試料を見せた。
図2:実験で使用した岩石の一部
その後,各実験班に分かれて実験誤差が最も小さくなる方法について,使用する実験器具や試料とする岩石を踏まえて議論させた。
2時間目に各実験班で3種類とも実験を行わせ,測定の誤差やそれぞれの実験方法に適した試料について評価させた。なお,今回の授業で使用したレポート(資料①)を掲載する。
生徒の感想を共起ネットワーク図にしたものを次に示す。この図は,生徒の感想のテキストデータの中から,1つの文章の中で同時に出てきている言葉をグルーピングして表したものである。
図3:密度測定における生徒の感想の共起ネットワーク図(KH Coderによって作成)
生徒の感想を分析すると,「メスシリンダー」,「電子天秤」が同時に用いられている感想が多く,計測した密度の値は概ね一致したと回答した生徒が多く見られた。しかし,図3の黄緑・ピンク色で示されているグループでは,「ばねばかり」,「測定」,「誤差」,「大きい」が同時に用いられる感想が多く,調べてみると,ばねばかりによる誤差が大きかったと回答した生徒が多かった。ばねばかりは,使用するものによって試料の大きさや重量の選定が難しく(水に入れたときの差が大きいものが良い),生徒実験では上手くいかなかったグループが多かった。このように,実験器具や実験方法によって適している試料が異なるため,どのような試料が適切かを考えさせ,考察させた(実験プリントを参照)。
今回の2時間の授業によって,実際にやってみると上手くいかないこともあることに気付き,実験を計画することの難しさを見出すことができたと考える。さらに,地球の内部の物質ほど密度が大きくなっていることに気付き,地球が固体のまま成長したのだとしたらこのような層構造にはならないことを自ら見出した生徒もいた。このような観点からも今回の実践は生徒にとって有意義なものになったのではないかと考える。
地学基礎においては「(1)地球のすがた(イ)活動する地球 ア プレートの運動」及び「(2)変動する地球(ア)地球の変遷 イ 古生物の変遷と地球環境」で扱う内容である。
児童生徒にとって身近な素材を用いて地層をつくり,断層(逆断層)を作る実験には,クッキーを用いるもの(磯﨑ほか,2011)や石けんを用いるもの(平賀,2013)などがあるが,今回は生徒に思考しやすいものが適していると考えたため,スライドフィルムケースと小麦粉などを用いるもの(岡本,1999,2000)を少し改良して実験を行った。
生徒は,地層を水平方向から圧縮の力を加えることで逆断層や褶曲ができることを学習する。しかし,予備実験をしていると,褶曲を作るためには,圧縮する力をゆっくり入れる必要があり,地層を固め過ぎると割れて断層になった。また,真ん中の層(ココアパウダーの層)が薄過ぎると,少しの粒のずれが割れているように見えてしまい,明瞭な褶曲ができなかった。このように,褶曲を作るためには,様々な要因が関わっていることが分かった。そこで今回は,ケースの中の小麦粉とココアパウダーの地層における褶曲ができやすい条件について考えさせた。なお,生徒には今回はあくまでの小麦粉とココアパウダーで作った地層におけるモデル実験なので,実際の地層の場合は,他にも様々な要因がある(変数が多い)ため,今回の結果と同様のことが実際の地層に当てはまるとは限らないということは授業の最初で伝えている。
授業は1時間で行った。まず,断層の種類について説明した。その際に,地層に加わる力についても説明した。その後,小麦粉とココアパウダーで作った地層に圧縮の力を加える演示実験を行った。ここで,「同じ圧縮の力を加え,逆断層になるものと褶曲になるものでは何が違うのか」という発問をし,班でその答えを見つけるための実験方法について議論させた。変数は多いが,対照実験の基本「変えるものは1つだけ」ということを意識させ,答えは分かっていないので自由に考えるよう伝えた。その後,それぞれの班で決めた実験方法で地層をつくり,圧縮の力を加え,その後の地層のようすを観察させた。データの量は大事だが,今回の実験は「科学的に考える」ことがメインであるため,あえて回数を制限し(4回),他の班の結果を参考にしながら褶曲ができる条件を考えて実験をプランニングするという活動にした。1回終わるごとに他の班と結果を共有させ,各班でさらに実験方法について協議させた。回数を制限させることによって,生徒は成功させたい(褶曲を作りたい)という思いが強くなり,積極的に他の班の行った実験の条件と結果を共有していた。次の図4は今回使用した透明ケースである。
図4:実習で使用した地層を作るケース
結果的には2つの班で褶曲を作ることができた。逆に「断層が美しくなる(生徒の感想から抽出した言葉)」条件を見出した班もあった。以下の図5と図6は生徒が作った断層と褶曲の写真である。
図5:生徒が作った断層
図6:生徒が作った褶曲
なお,今回使用した授業プリント(資料②)には,啓林館の教科書の図を使用させていただいた。
生徒の感想を共起ネットワーク図にしたものを次に示す。
図7:断層と褶曲における生徒の感想の共起ネットワーク図(KH Coderによって作成)
生徒の感想を分析すると,図7の青色のグループは「褶曲」,「断層」,「難しい」を同時に用いており,調べてみると,きれいな断層や褶曲を作るのが難しいと述べている生徒が多かった。また,赤色のグループは「小麦粉」,「ココアパウダー」,「量」という言葉を同時に用いており,ココアパウダーの配分(層の厚さ)についても言及している生徒がいた。他にも力の入れる速さや地層のかたさにも着目しており,変数の着眼点としては意図したものが出てきていた。さらに,他の班から情報を集め,的確に実験計画をし,褶曲を作ることのできた班もあった。しかし,「きれい」や「美しい」など科学的ではない言葉も感想の中に多く見られたため,次の授業時に,「きれいな地層」「美しい地層」という言葉を使うためには,「きれい」「美しい」の定義をする必要があると指導した。このように,科学的な見方・考え方という観点ではやや不十分な部分もあるが,一定の成果は得られたのではないかと考える。
本実験は,小麦アレルギーの生徒への配慮や食育の観点からも今後さらに検討する必要があることを末筆ながら記載しておく。
地学は,物理・化学・生物に比べて履修率が低い(吉田,高木,2020)。しかし,4つのプレートの境界に位置し,大陸と海洋に囲まれ,四季に富み,様々な地質からなる日本列島で生きる私たちにとって必要な知識を得ることができる重要な学問であると考えている。是非,全国の学校で「地学基礎(標準単位数2単位)」と「地学(標準単位数4単位)」の開講を前向きに考えていただきたいと思う。今回の実践報告が,その一助になれば幸いである。
※なお,筆者は2024年4月より東京学芸大学附属国際中等教育学校に勤務している。