ICTを活用した授業実践
静岡県立浜松北高等学校 大村 勝久
1 はじめに
ICT先進校を訪問し衝撃を覚え,ICT教育に取り組み始めたのは今から6年ほど前のことである。いろいろ実践をする中でICTのよさとして「わかりやすい」「繰り返しできる」「いつでもどこでも」「時間短縮」「ポートフォリオ」の6つを体感した。現在,新学習指導要領,大学入試と学びの変革が求められている。ICTを活用した主体的・対話的で深い学びをどう実現したらよいのか試行錯誤しているところである。
2 実践をする上で考慮したこと
(1) 学習指導要領
「数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考えているか。」をまず挙げる。今回の見方・考え方は多くの学者による歴史的な変遷を経てまとめられている。見方・考え方を踏まえた授業展開を試みたい。次に注目した点は育成する資質・能力の一つとして「学びに向かう力・人間性等」がある。そこには4つの視点があるが2つ目の視点である「粘り強く考え数学的論拠に基づいて判断しようとする態度」として解決の糸口を見いだすことが大切であるが,これが容易でないことが多い。それゆえ,より分かりやすい具体的な問題に置き換えたり,類似の問題に当たったり,具体的に多くの場合を書き出したり,コンピュータを利用してシミュレーションをしたりして試行錯誤をすることになる。とある。私は,この試行錯誤することが本校生徒には特に必要であると感じている。その理由の一つに数学を暗記で取り組んできた・いる生徒に思考の楽しさを味わって欲しい,かつ,大学進学後求められている教育活動を考えたからである。
(2) 思考力育成とICTの活用の留意点について
泰山裕(2018)によれば,思考力育成について次の留意点があげられる。特に教師に求められる力として子供にどんな力を身につけさせたいかを具体的にイメージする問題解決のプロセスやその必然性のある状況を作り出す力があげられている。
- ①正解があるわけではない。
こどもの状況や学校の設備,学習目標によって異なる
- ②問題解決のプロセスが充実するようにICTを活用する。
何のためにどのような機器を活用するのか十分検討する
- ③ICTを使えば思考力が育成できるわけではない。
ICTも含んだ多様な学習環境の中で行われる豊かな問題解決の過程が大切
- ④教師に求められる力
子供にどんな力を身につけさせたいかを具体的にイメージする
問題解決のプロセスやその必然性のある状況を作り出す力
3 授業実践例
(1) 単元名 平面上の曲線
(2) 単元の目標
・平面上の曲線がいろいろな式で表されることについて理解し,それらを事象の考察に活用できるようにする。
(3) 本時の指導と評価の実際
①本時の目標
- 放物線の軸に平行な光線が反射したときに焦点の方向に進むことを理解し,証明できる。
- 放物線上の異なる2点における引いた接線l1,l2が直交するとき,l1,l2の交点の軌跡は,準線になることを理解し,放物線の方程式が与えられているときに,準線の方程式を導くことができる。
②身につけさせたい力や姿勢・態度
- 粘り強く考える力
- 教科書の大切さを知る
- 数学の奥深さを知る
③ICTを導入するための3つの視点
視点1 興味を深めるためのICT活用
- 粘り強く思考するために教材に興味を持たせることは大切であると考えた。
視点2 既存教材(フリーソフトや動画)の活用
- 自分一人では作りきれないプログラムや学校現場では再現できない実験動画の活用を試みた。
視点3 学習プラットホームの活用
- 思考の共有化や学習内容の定着・理解を深めるために活用した。
- 学びに向かう力を育成するために,授業後にも粘り強く考えたり復習したりするためにクラウド上に教材を保存している。
(4) 授業の流れ
導入
今までの授業で学習した二次曲線のまとめを振り返り,二次曲線の性質をさらに深く学ぶことを確認する。
展開1 放物線の焦点の性質
- ① 放物線の軸に平行な光線が反射する方向を予想させて,解答はアンケート機能を利用してクラス全体で共有し興味を持たせる。
- ② 解答は,NHK for school動画(みんなここに集まってくる)で確認して興味を深める。
・跳ね返ったピンポンは焦点の方向へ進むことを動画で確認させる。
- ③ 放物線に正の方向からx軸に平行な光線が放物線に反射したときに焦点F(P,0)を通ることを証明する課題を提示する。
- ④ 苦手な生徒が多い図形の証明は,タブレット上の図形にペアで対話しながら書き込み証明に取り組む。
- ⑤ 深い学びになるように本単元で学習内容(①焦点までの距離AFと準線までの距離AHが等しい。②点Aにおける接線)と繋げて証明に取り組む。
- ⑥ 考えるヒント図形を配信し,ペアが必要に応じて利用する。
- ⑦ 代表者に証明させる。
- ⑧ 楕円や双曲線の焦点の性質を楕円ビリヤードの動画や無料アプリで紹介をする。
展開2 放物線の準円の性質
- ① 問題演習で扱った楕円の準円について,アプリを用いて復習する。
- ② タブレット上の放物線の準円を予想しながら描かせて提出させる。
-
③ 放物線の2つの接線の交点P(X,Y)の軌跡の求め方をクラス全体で共有する。
・[1] [2]の二式から判別式Dが0となる。
・2接線が直交するので傾きの積が-1になる。
-
④ 一人一人がノートに計算をする。
入試問題の構成として約70%が計算と言われている。そのため先を見通した計算力が必要と捉え,計算は各自のノートに取り組ませる。
[1]を[2]に代入しxについての方程式として計算すると煩雑になるが,
[2]を[1]に代入しyについての方程式として計算すると計算が簡単になる。先を見通した式の必要性を学ぶ。
- ⑤ 放物線の準線になることを解説する。
- ⑥ 発展的内容として,射影幾何学の考えを取り入れれば半径無限大の準円であることに触れる。
- ⑦ アプリを用いて,双曲線の準円について紹介する。
まとめ
- 放物線の焦点の話は教科書に掲載されており,放物線の準線は数Ⅱの図形と方程式で扱ったことを確認する。
- 中学校時代から一番なじみのある放物線は簡単に扱うことも可能であるが奥深い性質が潜んでいることに触れる。
- アンケート機能を用いて感想を回収する。
課題
今回の実践を踏まえてのさらなる深い学びにするためには
(1)数学について
- 数学そのものの専門性を高める必要がある。高い見地から教材を見直すと全く異なるアプローチが可能となる。
- 大きく変わろうとしている新学習指導要領の熟読が必要である。
- 受験で求められる力の分析。今回は計算力を挙げたが,もちろん計算力ではない。
- 深い学びを実現するためには,目標の焦点化が必要である。
(2)ICTについて
-
深化・進化するICTについて,知る・使う・わかる
- いろいろ試すことでICTの活用法が見えてくる。
逆に,日々の授業の中でICTの活用を考えながら授業に臨むことでよりよい授業を創造できる。
- ICTだから育成しやすい力
- ペーパーベースでは扱いにくい試行錯誤できる教材開発が求められる。
授業後の感想
生徒の授業感想からは,二次曲線の性質,計算方法の必要性,教科書の奥深さを感じた,など肯定的な感想が多かった。
展開1の二次曲線の焦点の性質は,本校使用の教科書のコラムに掲載されている内容である。教科書によっては例題として扱われている場合もある。
教科書は,高い見地から編集されている。高校生に理解してほしい高度な内容を抽出してわかりやすく書かれている。
教員は数学の教科書の奥深さを理解したうえで,ICTを活用してわかりやすく,深く広く数学の世界へ生徒を誘うことができる。そのためには,小中高大の取り組みを研究する必要がある。今後デジタル教科書が普及する中でデジタルだからこそできる思考問題が扱われることを期待している。
※上記PPTのシートは,候補を挙げただけです。ほかのシートもあります。
引用文献
泰山裕(2018)「第3章 思考力の育成とICT」『主体的・対話的で深い学びの環境とICT~アクティブ・ラーニングによる資質・能力の育成~』久保田賢一・今野貴之編著,東信堂