勤務校である山口県立高森みどり中学校・高森高等学校は,山口県内では唯一の公立の併設型中高一貫教育校である。中学校の略称が「みどり中」,高校の略称が「森高(もりこう)」で学年は3クラス,内1クラスはみどり中からの進学者で構成される特進クラス(1組)である。なお,みどり中は学年2クラス(50人)である。
中高一貫教育校の取組の一環として,毎年11月初旬に教科の輪番制による「中高一貫教育授業発表会」を行っているが,他高校や他中学からの参加者が少ないとか,授業と並行して行うため校内の教員でさえ参加できないという問題点があった。平成30年度は数学が授業発表担当となり,事前検討会議(8月)の中で発表会当日(発表は午後の5,6限)の授業は午前中のみとして,全教員(中・高とも)が参観できるようになった。なお,授業発表会のテーマは「生徒の表現力を高める授業づくり~主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)の実践を通して~」(2年目)である。
年度頭初の中高合同数学科会議で,今年度教科として担当となっている「授業発表会」の発表担当者についての協議があった。中高各1名の教員が担当するが,高校の教員は常勤6名,中学校の教員は常勤2名である。私は再任用2年目であるが,せっかく「併設型中高一貫教育校」に配属されたので,これまでの実践的研究の経緯から手を挙げ,併設型中高教育一貫校の意義やよさをアピールする意味も込めて,高校の教員が中学校で授業し,中学校の教員が高校で授業することを提案して了承された。これまでの個人的経緯と提案理由の背景は次の通りである。
本校は山口県唯一の公立併設型中高一貫教育校であるため,個人的ではあるが,その特性を活かした数学教育を実践し,有意義な成果が得られることが求められていると判断した。私はこれまで山口県公立高校数学教員として,「数学学習における理解」に関わる研究と実践1)を行ってきたが,中高連携教育に関しては(1)岩国市立通津中学校での出前授業と,(2)岩国市教育センター主催夏期講座「小学校・中学校[数学科]」研修講座での講師経験が挙げられる。
(1)は平成19年2月2日と9日に岩国市立通津中学校3年2クラスを対象に行ったものであり,その目的は高校数学への円滑な橋渡しや進路選択の一助とすることであり,内容は高校入学直後に学習する「たすき掛けによる因数分解」であった。なお,授業タイトルは「高校数学にチャレンジ!~ちょっと複雑な因数分解~」で,パワーポイントとプリントを使って「わかって,できる」授業を展開し,事後アンケートでは生徒から高い評価を得た。また,その実践は第7回啓林館実践教育賞で審査員特別賞を受賞した。
(2)は岩国市教育委員会からの依頼で,平成19年8月8日に小・中学校の教員(中学校は数学教員)を対象に,『算数・数学学習における「理解」の構造~小中高連携教育のためのコンセンサス~』という講座名で行ったものである。
(1)では,当時の勤務校である岩国高校に進学した受講者から,高校の授業ではパワーポイントを使った授業やグループ学習による授業がないことの指摘を受けたこと(理数科では「数学探究」(現在の「数学探究」とは別)という夏季休業中に行う本校独自の行事でこれらを行った。)や,(2)ではグループ協議の中で小・中・高の算数・数学教育において核になる「小中高共通算数・数学アイテム」の整理を行うことで岩国地区の児童・生徒の算数・数学の能力向上を図ろうという共通理解を得たが,その後進展に至らなかったという残念な経験がある。
これらの改善や継続は,現任校の中高一貫教育校では実現可能である。特に,高校進学をみどり中学からの進学者のみにすれば中高一貫教育が一層充実すると期待される。(「連携」よりも「一貫」の方がより推進力がある。)本校は,中高一貫教育校であるにも拘わらず,高校の数学教員が中学校で授業をする機会は少なく,逆に中学校の数学教員が高校で授業をする機会は皆無である。積極的に高校の教員が中学生を教え,その生徒が高校に進学しても教えること,逆に中学校の教員も高校に進学した生徒を教えることで生徒理解の深化と数学力の伸長,さらに教員の教育力の向上が期待できる。そのためには「中高共通数学アイテム」の整理を行ない,大学入試にも活用できて将来に亘っても有益な真の数学教育が実践できるシステム構築が必要であるが,併設型の中高一貫教育校ではそれが可能であると判断し,その第一歩として,今回の数学の中高一貫教育授業発表会では,高校の教員が中学校で,中学校の教員が高校で授業をするというスタイルをとってみることを提案したのである。
1)教育学修士(広島大学),第55回読売教育賞(算数・数学部門)優秀賞受賞,第4回武庫川教育賞優秀賞受賞,第7回啓林館教育実践賞審査委員特別賞受賞,第58回読売教育賞(算数・数学部門)最優秀賞受賞,山口県メダル栄光(文化賞)受賞,岩国優秀文化賞受賞,日本学術振興会科学研究費補助金による研究3回,著書「数学学習における「理解」の構造」等10冊,スーパーサイエンスハイスクール数学分野担当(岩国高H15),全国理数科教育研究発表大会発表(H16)
中学校までは数学が好きで得意であった生徒でさえ,高校で学ぶ数学の内容の高度さやその多さ,授業の速さなどにうまく適応できず,数学がわからない,できない,興味・関心が持てないなどで悩むことがよくある。
ゆとり教育時に中学校から先送りされた内容も元に戻され,長年行われたマーク式だけのセンター試験に代わる「共通テスト」ではマーク式に加えて記述式の試験も行われる。
試行テストにもみられるように,会話式の問題構成,現実的な題材からの問題,選択問題では複数の正解を求める形態になったり,これまで主流であった誘導形態の問題構成にも変化があったりと,今後は従来要求された数学的能力はもちろんのこと,より一層「思考力」,「判断力」,「表現力」の育成を図らなくてはならないが,その礎は中学校の数学教育にかかっているといっても過言ではない。
今回の数学における中高一貫教育授業発表会では高校数学の内容を題材にして,数学の特性の一つである「拡張」がその根底にあり,高校数学の基礎の一つでもある因数分解が「わかって,できる」体験を通じて高校数学に興味・関心を抱かせ,今後とも「わかって,できる」数学学習を目指すことを中学生3年生に意識させることをねらいとしている。
そのため,授業の前半でパワーポイントを使ってわかりやすい解説(言語的,視覚的)を行った後,後半では学習の主体者である生徒がグループで,さらにはクラス全体でも主体的・対話的に「因数分解」について深く,楽しく学べるように支援する。つまり,グループ学習形態を中心にアクティブラーニングを行う。
中学校で学習する因数分解の方法を拡張し,「たすき掛け」による因数分解を学習させる。その中でどう考えたらよいか,なぜそうすればうまくできるのかという「考え方」と「方法」についての理由とともに,試行錯誤による発見の楽しさやできる喜びを体験させる。つまり「わかって,できる」体験をさせる。
また,数学には「拡張」があることに気づかせ,中学校の学習内容と高校のそれとの関係や中学校での学習の大切さを認識させる。
中学3年で学習した因数分解は,和がχの係数,積が定数項になる2数を見つけることでできることを確認する。
具体例:χ2+3χ+2=(χ+1)(χ+2) 公式:χ2+(●+■)χ+●×■=(χ+●)(χ+■)
これまで扱った2次式の因数分解は,χ2の係数が1の場合だけである。
そこで,χ2の係数が1以外の場合にはどう対処すればよいかを段階を経て説明する。
[1] 2χ2+7χ+3=(χ+●)(2χ+■)として考えさせる。
この形にした理由を展開して示すと同時に●と■の関係に気付かせ,その積1×■+●×2=7,●×■=3にあてはまる2数●と■を試行錯誤で見つけさせる。
先に,●×■=3にあてはまる2数から考えた方が効率的であることを知らせる。
[2] 2χ2+7χ+3=(2χ+●)(χ+■)として行ったらどうなるかを考えさせ,因数分解は因数が同じであればよく,掛け方の順番は問わないことにも触れる。
χ2の係数が6の場合,2つの因数のχの係数は1と6,2と3という2つの場合がある。つまり(χ+●)(6χ+■)型と(2χ+●)(3χ+■)型がある。
χの係数2つ,定数項2つの計4つを効率的に見つけるため,次の展開式を活用する。
係数比較から,○×□=6,○×■+●×□χ7,●×■=2となる4つの数○,●,□,■を見つければよいが,効率的に探すために「たすき掛け」の方法を紹介する。
文字式に抵抗感がある生徒のために,○,●,□,■を使い,白の○,□はχの係数,黒の●,■は定数項を表すことで,視覚的に「たすき掛けによる因数分解」の構造が見えやすくなるように工夫した。
また,「たすき掛け」という名前の由来について紹介し,印象付けることにも努める。
班別に「たすき掛け」を使って,あてはまる4つの数を探して因数分解する。
(1)超基本問題 (2)アと同レベル (3)ウと同レベル(ただし,負数が入る) (4)χ,yについての2次式の因数分解(発展問題:yを係数とみる)の4問
3~4人の班のいずれかに結果を発表させ,できたことの確認をする。
この方法は,これまでの積と和から2数を見つけることの拡張になっている。
高校の数学は,新規に学習することもあるが,中学校で学習したことの拡張や一般化もある。結果だけを求める学習ではなく,基礎・基本を大切にし,「わかって,できる」学習を心がけること,また,繰り返し考え,自分で手と頭を使って,時間をかけて数学することを身につけることが,高校数学への条件であることを伝える。
なお,これらは数学Ⅱの第1章 式と証明・高次方程式 第2節 高次方程式 3 2次方程式の解と係数の関係の中の「2次式の因数分解」で扱う内容である。
高校数学にチャレンジ!
~ちょっと複雑な因数分解~
(PDF参照)
この授業の指導案は次の通りである。
数学科学習指導案
平成30年11月2日(金) 中学3年1組
5校時3年1組教室 指導者 西元 教善
1.題材名 因数分解(数学Ⅰ 第1章 数と式 第1節 整式 3 因数分解)
2.主眼 たすき掛けによる因数分解の意味がわかり,因数分解ができるようになる。
3.準備 パソコン,ワイヤレスパワーポインター,テレビ,プリント
4.学習過程
学習内容・学習活動 | 予想される学習者の反応 | 教師の支援 | |
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導入 | 1 因数分解の意味の復習,展開と因数分解が逆であることの確認 |
○展開や因数分解についての理解が不十分な生徒がいる。 |
○パワーポイントで説明し,思い出させる。既習事項の確認をする。以後の支援はパワーポイントを使って視覚的に行う。 |
展開 |
2 χ2の係数が2である2次式の因数分解の考え方 |
○掛けて定数項,たしてχの係数になる2数を見つけることが因数分解と考えている生徒が戸惑う。 |
○2つの因数の1次の項がχ,2χであることから2つの因数の定数項を●,■として展開したときの係数比較からどのようにすればよいかを丁寧に説明する。 |
2χ2+7χ+3の因数分解をどのように考えて行うか。
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3 χ2の係数が2である2次式の因数分解 |
○試行錯誤で求めることにわかりにくさを感じる生徒がいる。 |
○先に積から候補を考えさせる。失敗しても諦めないよう支援する。 |
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6χ2+7χ+2の因数分解をどのように考えて行うか。
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4 たすき掛けによる因数分解~χ2の係数が6である2次式の因数分解を通じて~ |
○複雑さに嫌悪感を抱く生徒が出てくる。 |
○2次式は長方形の面積,因数は長方形の縦横の長さという例えで,χ2の係数が2以上の場合の因数分解の公式を○,●,□,■を使って,その構造がわかる説明をする。 |
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2次の係数が2以上の2次式の「たすき掛け」による因数分解
~理解と遂行~ |
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5 たすき掛け |
○たすき掛けの由来に興味を持つ生徒がいる。 |
○○,□はχの係数,●,■は定数項という表し方でたすき掛けの構造を理解させる。 |
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6 たすき掛けを使って問題を解く。 |
○たすき掛けのやり方に馴染めない生徒がいる。 |
○例として直前に扱った2次式をたすき掛けで,失敗例,成功例を通じて馴染ませる。 |
|
7 班別に4問解く。 |
○一人ではできなくても協働して解ける生徒がいる。わからない生徒に教える生徒がいる。 |
○机間巡視で適切に助言する。 |
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8 解答 |
○問題(4)ができない班がある。 |
○パワーポイントを使って,生徒の解答を確認する。理解のブラッシュアップを図る。 |
|
まとめ |
9 本時のまとめと高校数学への心構え |
○まだ「たすき掛け」を理解し切れていない生徒がいる。高校数学に不安を抱く生徒がいる。 |
○今後の高校数学に向けての勉強を促進させる助言をする。 |
5.評価
[1] 2次の係数が2以上の整数のときの2次式の因数分解の意味が理解できたか。<知識・理解>
[2] たすき掛けを使って,2次の係数が2以上の整数のときの2次式を因数分解できるか。<技能・表現>
板書は一切しないで,テレビ画面にパワーポイントのスライドを映し出し,パワーポインターで操作した。板書を写すことも理解を促進するが,それがメインにならないように配慮した。また,スライドの内容は生徒用配布プリントに載せてある。
なお,授業対象生徒とは今年度末に中学校数学教員と数学Ⅰのティームティーチングをするが,この授業が初顔合わせである。
中学2年で因数分解を学習しているが,忘れている生徒もいるかもしれないので復習から入った。
たして1次の係数,かけて定数項になる2つの数を見つける方法の確認をさせた。
指名し答えさせ,スライドで順に確認した。
「できますか?」という問いかけで以外の文字を1次の係数や定数項に含む場合の因数分解とこれから扱う「2次の係数が2以上の整数の2次式の因数分解」について考えさせた。
2次の係数が2のときの因数分解の考え方として,2=1×2として(1χ+●)(2χ+■)と因数分解されるとして2χ2+(1×■+●×2)χ+●×■と因数分解したい式の係数を比較して1×■+●×2=7,●×■=3を満たす●と■を見つけることを理解させる。
掛け算の方からの候補を見つけ,さらに1×■+●×2=7も満たしているものを見つける。
2次の係数が6のときは1×6,2×3,3×2,6×1といろいろ考えられるときは,面倒になることを感じさせ,うまい方法を考える必要性をわからせる。
(1χ+●)(2χ+■)=2χ2+(1×■+●×2)χ+●×■のように(○χ+●)(□χ+■)についても展開式を考える。
(○χ+●)(□χ+■)=(○×□)χ2+(○×■+●×□)χ+●×■は複雑に思えるだろうから,その式の持つ図形的意味でその等式の理解を促進する。
6χ2+7χ+2を因数分解するにはをどのようにして求めたらよいかを理解させる。
○×■+●×□=7,●×■=2の関係から,○,●,□,■をうまく求める方法を紹介する。
うまく求める方法は「たすき掛け」と呼ばれる。
どうしてそのように呼ばれるかについて説明する。
たすき掛けで因数分解する。
失敗例と成功例を紹介する。
たすき掛けによる成功例は2つあるように見えるが,因数分解としては同じであることを理解させる。
最初,□には何も数字が入っていない。
クリックしながら数字を出現させ,興味・関心を引く。
最初個人で数分間考えさせ,3~4人の班を作ってアクティブラーニングをする。
各班に指名して結果を発表させる。
最初,□には何も数字が入っていない。
数字を出しながら答合わせをする。
負の整数を考える必要のある因数分解
文字yを含む因数分解である。
yが抜けることが想定される。
早くできた人,班では因数分解をさせる問題作りをさせ,展開と因数分解の逆操作をより理解させる。
中学校の因数分解は○=1,□=1の特別な場合であることを理解させる。高校では因数分解をまだまだ深く追究することをわからせ,具体例で興味・関心を起こさせる。
やらされる数学,やり方を覚える数学,答が出ればそれでよいとする数学から脱却し,「楽しく,わかって,できて,記述できて,活用できる」数学を目指させる。
黒板は一切使用せず,テレビ画面に映し出すパワーポイントのスライドで授業を進めた。生徒の視線が一斉にテレビ画面に注がれる。
近隣の3~4人が机を寄せ合ってアクティブラーニングをする。教えたり,教えられたりの相互活動で主体的・対話的で深い学びが可能になる。
参観教員(他中学若手数学教員)も指導に加わる。
参観教員(他中学ベテラン数学教員)と本校高校教員(数学以外のベテラン教員)による指導。
本校校長(中央上)も参観中である。
多くの教員が参観している。右端は指導助言者。
因数分解の答合わせの場面(班の代表者が答える。
●授業についてはよく練られていて提案性のあるものだったと思います。西元先生,徳光先生の数学に対する情熱が感じられてすばらしかったと思います。生徒も幸せだと思いました。
●高校の先生が行われる授業は専門的だな,さすがに高校数学だなと思いました。
●プリントを配り,あらかじめ作成したプレゼンテーション画面を使用しての授業は,生徒が先生の話を集中して聞くことが出来,大変良い進め方と思いました。私たちの若い頃はノートをとるのに汲々としていましたが,生徒がずっと先生に注目していますから,先生のプレゼンテーション能力が必要と感じました。
●5・6限の授業を同じ教室で行ったので,校外から来られた先生方にすればとてもよかったと思います。
●中学校教諭と高等学校教諭がお互いに授業を参観することにより,お互いのよい面を認め合って活かしていけると思った。今後教えるであろう生徒と関わりを持てたり,すでに教えた生徒がどのように成長したかを教員が見る場があったりして今後自分自身の課題も見えてくるので良いと思った。
●授業者の先生方のICTの活用に驚かされました。また,身近な興味のわく課題設定で大変勉強になりました。
●高校教諭が黒板を使わずに授業をされて斬新でした。課題提示が素晴らしかった。
●中高連携をテーマとした授業(それぞれ意図が異なっている)を拝見させていただき大変勉強になりました。
●本校では,お互いの授業を参観し,授業改善に繋がる十分な取り組みがありません。良い刺激となりました。
私は,山口県の公立高校を平成29年3月に定年退職して,再任用で現任校に勤務している(2年目)。大学では数学を,大学院では数学教育を学び,その後「数学学習における「理解」の理論的研究と実践的研究」に長年取り組んできた。
教員生活のほとんどは県内の5~7番手の進学実績のある高校に勤務し,個人的に頑張ってきたが,生徒の数学力向上は個人だけで取り組める問題ではなく,さらには一高校の数学科や一高校だけでもなく,地域や県,ひいては全国の小・中・高の連携で数学力を向上させるべきであると考えている。また,そうでないと本当の数学力向上は実現できないであろう。
小学校と中学校,中学校と高校はそれなりに交流,連携があるかもしれないが,小学校と高校はきわめて希薄であると思う。
しかし,私がメタ理解教育で実践したアンケートでは生徒から次のような意見が出て,小中高連携教育の必要性が痛感された。
「今思えば,自分は*用具的理解が大部分を占めていたように思われる。もっと小さな時から「*関係的理解」で算数・数学をやってくればよかったと思う。小5,小6,中1の頃,そんなことを考えるはずもないので無理というものであるが…。「何かが違う」そう思い始めるのが中2頃からで…(中略)…この「わからない」は,もっと小さいころからの「用具的理解」で算数をやってきた結果であり,・・・(中略)・・・高校に入学しても同じことを繰り返す。小5,6から続いているものなら一体どのあたりまで「関係的理解」のために引き戻ればよいのであろうか?」
「関係的理解に達する教育をしていない。否,しているつもりだが,一部の生徒にしか理解できない教え方をしている数学教師にも責任があると思う。…(中略)…今一度,関係的理解を教師自身が深め,はっきりと生徒に伝えることを行うべきだ。」
これは,生徒の勉強法の不適切さを指摘し,修正できない数学教師や関係的理解をさせることができない数学教師の責任を問うものである。
小学校の頃は「答えが求められて正解」=「わかっている」という誤解があり,当座は誤魔化して乗り切れるがそのうち当人も気付くように「やり方の暗記による用具的理解」に限界を感じる。気付いても改善の道を切り開く力がないことが多い。そこをサポートするのが数学教員の役目であるが,その教員自体が「数学学習における「理解」」をよく知らない,その指導法も知らないではその生徒を救済できない。「数学が「わかる」とは?」を学ぶ「メタ理解」教育の時間が中高の数学の時間に,また教員研修のためにもあればよいと思うのであるが…。
フルタイムで勤務できるのもあと3年しかないが,せっかく併設型中高連携教育一貫校に勤務しているのであるから,これまでの理論的研究と実践的研究と経験を活かして中高生に一層の数学理解力をつけさせると同時に今後を託す数学教員を育てたいと思う。
*)詳細は西元教善 『理解の壁~数学がわかるとは~』平成22年11月, 太陽書房参照