数学Ⅲの授業で回転体などの体積を求める際にπが出てくることが多い。そのとき,生徒が
「πって円周率のことだから,πに3.14を代入すると体積の数値がでるんですよね?」
と質問してきたので,
「正確な値は出てこないよ。π=3.14ではなく,π=3.141592653589793… だからね。」
と答えると,生徒は次のように答えた。
「数字が不規則に並んでいる…目が回る…でも,そんな不規則な値をどうやって求めたんですか?」
私はこの質問に目を輝かせた。生徒がもった疑問を,生徒と一緒に考えていこうと思い,近似式を発展させ,より正確なπの値を求めてみることを授業に取り入れた。
数学Ⅲの微分法・積分法の内容が終わった後に,以下の流れで授業を実施した。
単元 | 内容 | 授業時数 |
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速度と加速度 速度と道のり |
速度と加速度 曲線の長さ,速度と道のり |
3時間 |
近似式 | 第1次・第2次近似式 テイラー・マクローリン展開,オイラーの公式 三角関数の逆関数 πの値 連分数 |
5時間 |
今回,近似式の4時間目にあたる「πの値」についての指導の内容,工夫を紹介する。
(使用したパワーポイントのスライドをPDFにしたものはこちら)
段階 | 学習事項 | 生徒の活動 | 指導上の留意点 |
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導入 5分 |
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展開 40分 |
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[問題]π>3.05 であることを示せ。
ものさし,コンパス,方眼紙,メジャー,円筒,正多角形,爪楊枝,長い棒,電卓などを用いて,6~7人の班でいろいろな証明を考える。 |
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整理 5分 |
本時のまとめ |
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(参考・引用文献)
今回の授業では,「円周率が3.05より大きいこと」を証明させたが,生徒たちが編み出した方法は本当にたくさんあった。実際ヒントとなるのは,こちらから準備した小道具だけであったが,円柱の筒の円周を測り円周率を出す者,方眼紙に円を書いて面積で円周率を出す者,正弦定理を用いて円周率を出す者,アークタンジェントを用いて円周率を出す者など,実に生徒の可能性が無限大であるかを示すようであった。しかし,それだけで終わっては授業の意味がない。そのたくさんの解き方をみんなで共有しあうことで,授業後に自分と違うやり方で実際に円周率を求めている生徒がたくさん見かけられた。
また,誰も思いつかなかった「ビュフォンの針」などを,あえて授業では細かく説明しないことで,後日「ビュフォンの針で円周率を求めてみました。」「ビュフォンの針でどうして円周率が求まるか,考えてみました。」など,自発的に生徒たちが活動するきっかけを作ることができた。
数学を学んで何の役に立つのかわからないという生徒が多いため,「実生活の中で,どのように数学が使われているか」を授業で取り扱うことがよくある。今回の授業計画では,近似式からテイラー展開や三角関数の逆関数などを取り上げ,今まで求めることができなかった三角関数やネイピア数,円周率の値をより正確に求めることを実践した。他にも,フーリエ変換と波,1・2階微分方程式,統計学,結び目理論,線形代数などを実施し,将来数学が何につながっているのかを生徒たちに見せている。先が見えることで,生徒たちが数学の有用性が理解できることに加え,今取り組んでいる数学の大切さを理解する,また大学入試問題の解法の広がりにもつながっていくと考える。
数学は解法や答えが1つしかないと思っている生徒はまだまだたくさんいる。今回はそういった生徒たちの視野を広げるため,「πが3.05より大きい」という問題の班ごとの解法,πを求める自分だけの公式を作ることを生徒たちに実践させた。生徒たちも自分だけの公式ができ,達成感があったようだ。
この授業後の授業展開として,今回は時間がなかったので実施していないが,自分たちの作った公式がどれだけ正確なπの値を求めることができるのかを競う大会を実施するもの面白い。また,本校は和算の「算額」を授業で取り扱っており,円周率は和算ととても関係深いことから,数学史について授業で取り扱うこと,それに加え,自分だけの算額を作って応募する「算額コンクール」に参加していくのも面白い。
今回の授業では,簡易電卓という身近なものでπの値を求めることに着手した。しかし,③で述べた「自分の作った公式がどれだけ正確なπの値を求めることができるのか」をより正確に調べるために,Excelを使用することが必要となる。また,Grapesを使ってグラフからπの近似値を求めることを実施してもよい。また,今回は時間がなかったので実施していないが,iPadを利用し,班で考えた「円周率が3.05より大きい」ことの証明をプレゼンさせることも実施したいと考えていた。
今回の授業では,生徒の興味・関心を高める,生徒たちの考えを共有,生徒の自発的学びを促すという目的は達成されたと思う。πについて興味を示した生徒の声から考えた授業展開であるが,そういった声をたくさん授業に取り入れることは,生徒の興味・関心をより高めることとなるので,とてもよかったと思う。それに私の成長にもつながった。授業研究すればするほど,知らなかった,あやふやに覚えていたことなどを理解できたことは,とても楽しかった。教師は日々いろいろなことがあり,とても忙しい。しかし,数学のセミナーにいったり,数学の本を読んだりする時間を日々少しでも持ち,今後も生徒たちと楽しめる授業を,生徒たちと一緒に作っていきたいと思う。