本校は完全中高一貫校の中堅校にあたる学校です。最難関大学を目指す者もいれば,最終的に私立文系を志望し,数学を受験で使わない生徒もいます。そんな中で,6か年一貫教育における数学指導について,私自身が意識していることと,指導実践の報告をさせていただきます。中高一貫校だからこそできること,段階的に学力をつける取り組みなどをご紹介します。以下では,中学1年生から高校3年生に至るまでの各学年での教育内容や取り組み,意識していることを紹介します。
◇週2回の朝テストによる基礎学力のチェック
中学1・2年生の2年間は,数学の基礎を習得する重要な時期です。そこで,毎週2回の朝テストを行い,学習内容の定着度を確認しています。朝テストでは,前回授業で学んだ内容を含む基礎的な問題が出題され,生徒は定期的に自分の理解度を振り返ります。不合格の生徒には,その日の放課後に再テストを行い,合格できない場合は,再テスト後に補習を実施し,できるまで徹底的にサポートします。この一貫したフォローアップ体制により,生徒が基礎力を安定して維持し,苦手な分野を放置せずに克服できるよう指導しています。
◇高校内容への橋渡し
授業では中学で学習する内容を扱いますが,高校数学を学習することも見据えた計算の工夫を習得したり,高校内容につながる分野であれば,その一部に触れたりすることで生徒の興味・関心を引き出して,概念理解につながる発問を意識的にしています。例えば,関数の分野では「直線がある点を通る」という条件でも,単にその座標を直線の式に代入するという作業に終始せず,なぜ代入して成り立つのかを考えさせます。また,なぜ2直線の交点の座標が連立方程式の解と一致するのかを考えることで,軌跡の考え方を導入します。このように高校内容に意識的に触れることで,生徒は早い段階から論理的な思考力を養い,次の学年での学びに向けた土台を築きます。
◇週末課題と復習の機会
週末には既習事項のランダム演習を行うプリントを配布し,定期的な復習の機会を提供しています。この課題では既に学んだ内容の理解度を再確認し,生徒が長期間にわたって知識を保持できるようにサポートします。さらに,思考力を必要とする問題も一部出題することで,じっくり考えたり,生徒同士が議論しながら問題に取り組んだりして,理解を深める機会を設けています。また,中学内容の学習がある程度進むと,希望者に対して思考力を有するやや難易度の高い問題を集めたプリントを配付し,取り組んだ生徒が提出した答案を添削したり,解からない場合は解決の糸口になるようなヒントを書いて返却したりしています。この時期にできるまでじっくり考える時間を取ることで,粘り強く思考する訓練になるかと思います。また,進捗状況を学年フロアに掲示して,競争心を掻き立てるといった,中学生が燃えるような工夫もしています。
◇授業内容の深化と「なぜ?」を追求する問いかけ
中学3年生からは,授業内容も高校レベルへと移行し,本格的に応用力の養成に取り組みます。ここで意識しているのは,生徒が解法を単に暗記するのではなく,その背景にある概念や理論を理解できるようにすることです。そのために,「なぜこの解法で問題が解けるのか?」といった問いを繰り返し投げかけ,生徒が自ら考え抜く過程を重視しています。よって,私の授業では頻繁に「なんで?」と発問します。そうすると,各クラスでいつも限られた生徒ですが,答えてくれます。中には「おっ!」と思うような鋭い考えを発表してくれることもあります。これを日頃から繰り返すことで,授業内でしっかり考える習慣をつけるようにしています。
◇Focus Goldの活用と応用問題の導入
今年度から中学3年生に啓林館の「Focus Gold」を持たせ,授業や長期休暇の課題として取り入れています。この教材は基礎から応用まで多様なレベルの問題を含んでいるので,意欲的な生徒にはどんどん応用問題に取り組ませることで,早い時期から実戦力の養成も図ることができます。後述するように,復習テストにも活用するので,生徒は受験までに何度も開いて復習することになります。
◇終礼テストと補習による定着度の向上
中学3年生からは朝テストではなく,15分間の終礼テストに切り替え,授業で学習した内容の定着度を確認するために,基礎から応用まで幅広い内容を出題しています。また,それと並行して既習分野の復習テストも実施しています。初学時,長期休暇,終礼テストと繰り返し復習する機会を与えることで,少しずつできることを増やしていきます。不合格者には翌週に復習プリントを解かせる補習を行い,理解できているか一人ひとりに発問して,考えさせることで,生徒が理解できるまで繰り返し取り組めるようにしています。補習中は生徒同士での議論や教員への質問を奨励し,互いに学び合う環境を提供しています。
◇中堅私大レベルの入試問題への挑戦
さらに,終礼テストによる復習と並行して,私立中堅大学レベルの入試問題(啓林館の精錬にあたるレベル)を集めた冊子を課題として課しています。Focus Goldで学んだ解法を入試問題でどう活用するかを考える訓練を通じて,生徒は応用力と実戦力を養います。復習を繰り返しながら扱う問題のレベルを少しずつ上げることで,スパイラル型に実力を向上させています。
◇数学学習会による生徒個別対応
高校1年生の春から高校2年生の冬にかけて,年3回の「数学学習会」を実施しています。この勉強会では,入試標準レベルの問題を扱います。数学科の教員がフル動員され,生徒一人ひとりの質問に丁寧に対応します。生徒は勉強会の期間中,じっくりと入試問題に取り組み,わからない部分については教員と対話を通じてヒントを得る形式を採用しています。解き方や答えをすぐに教えるのではなく,生徒自身で考え抜く過程を尊重し,思考力や問題解決力の育成に重きを置いています。勉強会で生徒が教員から受けるヒントは,多角的に問題を捉える練習になります。これにより,生徒は問題を解く方法を一つに固定するのではなく,複数の視点から解決策を見出す力を養成できます。こうした取り組みが,生徒にとって入試本番で活用できる総合的な学力の向上につながって行くのだと考えます。
数学学習会の様子
◇文系と理系の取り組みの違い
高校2年生では,文系生徒と理系生徒に応じた異なるアプローチでの演習を行っています。文系生徒は,入試まで2年間演習できるため,1年目にあたる高校2年生では,基礎から標準レベルの演習を重ね,既習事項の定着に重点を置きます。
一方,理系生徒は数学ⅢCを学習しながら,終礼テストや課題で数学ⅠAⅡBの発展問題に取り組みます。さらに,2学期後半からは数学ⅠAⅡBの演習授業も入り,実戦的な問題への対応力を磨く機会が増加します。演習授業を通じて,解法を理解するだけでなく,どう応用するかを考える力も鍛えています。
◇最難関大レベルの問題への取り組み
文系では,高校3年生では演習レベルを引き上げ,最難関大学でも通用する思考法や問題の攻略法を習得する訓練を行います。ここでは,典型処理で解決できる問題にとどまらず,複数の事項が組み合わされた問題に対してどう問題文や条件を読解して身につけた考え方や解法に結び付けていくのかを試すことを意識させます。
理系では,数学ⅠAⅡBと数学ⅢCの演習授業を実施し,典型問題の確認をしながら,応用問題に当たっていきます。ⅠAⅡBの演習に比べるとⅢCの演習量は足りていないため,標準から応用レベルの問題が掲載されている問題集を使用しています。
◇放課後講座や長期休暇講座の活用
放課後には,志望大学のレベルごとに講座を開講しています。また,長期休暇中には共通テスト講座や分野別講座を開講し,それぞれの生徒の現状に合った講座を選択させます。また,個別試験対策として添削も行っています。
◇共通テスト後の志望校別講座
共通テストが終わると,そこから大学別の対策講座に切り替わります。学年の数学教員以外も講座を担当し,志望校の傾向に合わせた演習講座や添削を実施しています。個別試験本番ギリギリまで講座をしているため,最後の最後まで合格に向けてサポートし,最後の後押しをして少しでも自信をもって受験できるようにしています。
6年かけて段階的に数学に対する理解と実戦力を深めていけるのは,中高一貫校だからこそできることだと思います。数学指導に関することを書いてきましたが,必ずしも順調に進むわけではありません。いわゆる「中だるみ」で勉強に前向きになれない時期もありますし,いつやる気スイッチが入るかは生徒によって様々です。そんな中でもこれだけは譲れないというこちらのラインを示し,徹底的にサポートするという姿勢を示すことで,一人また一人と前向きに取り組んでくれるようになります。実は数学の指導法なんかよりも,そちらの方が大切であったりするのですが,それも踏まえながら6年かけて生徒たちが最終的に自走できるためのサポートを徹底して行っています。何度も書いてきたように「なぜ?」を大切にし,自分で考えたり他者と議論をしたりして,単なる知識の習得にとどまらず,生徒一人ひとりが主体的に問題に取り組む姿勢を身につけ,入試本番でも自信を持って解答できる力をつけるために,悩みながら試行錯誤する毎日です。最後までお読みいただき,ありがとうございました。