いわゆる,アクティブラーニングというものが話題になり,主体的に学ぶということが求められ始めた時,自分自身の授業スタイルも変えていかなければと感じた。今までの講義一辺倒で指名して質問したり,解答を板書させたりする授業スタイルを変えようと考えた。
ちょうど高校1年生の年度初めでもあり,最初の授業から班別学習に取り組もうと考え,教科書の要点を考えられるようなプリントを作成して授業に臨んだ。班の中で話をしながら教科書を確認して要点を班員で共有するというのが理想のプランであったが,見事に失敗した。いきなり何の指示もない中に放り出された生徒たちはプリントの意図を理解することもできず,ただただ彷徨っていた。私も初めてでありプリントの内容も伝わりにくかったかもしれないが,高校数学の知識がない中でどこに進んでいくのか目標を定められなかった。
高校の授業である限りは定められた時間の中で教科書を進んでいかなければならないので,一旦今までのスタイルに戻しながら機会を探した。前回の失敗から,知識不足の状態で何かをしようとしてもうまくいかないと感じ,逆に知識がある程度あれば問題を解くということに対しては話ができるのではないかと考えた。そこで,教科書の章末にある問題を解くことについて班別学習に取り組んだ。これはうまくいき,それぞれが自分の考えを話しながら問題の解決に取り組む姿が見られた。話し合いがうまくいった原因として,知識があったことも一つであるが,「問題を解く」という話し合いのテーマがはっきりしていたことが原因だと考えた。話し合いのテーマをはっきりとさせ,そこに対してある程度の知識があれば自分たちで話をして問題解決ができるという糸口をつかめた。
その後,章末問題に対しての班別学習を中心に,生徒が自分たちで学ぶ授業を展開するようになった。事前に話し合いの時間を予告しておき,自分たちで解いてきてその考え方を話すように指示をした。余裕があれば話し合いの時間の前に,問題についてアプローチの仕方を話し合う時間を設け,家で各自で解く方針を話し合うようにした。話し合いの時間に自分で解いてきていない生徒がいても,わからないことを話し合うことが大切であると伝えて,班別学習の時は手を動かさずに口を動かすことを重要視した。授業の後半に模範解答を配布し,模範解答を見た上でさらに話し合いを深めさせた。班員は3人~5人を試したが,3または4人班が話しやすそうな雰囲気であった。班編成はそのときの席の近い人たちで構成するようにした。
【班別学習の様子1】
【班別学習の様子2】
章末問題に対する班別学習の生徒たちの反応はよく,活発に話し合うようになり,自分の考えを話することで理解が深まったなどの感想を得られるようになった。生徒同士での話し合いであるため,わからないことへの質問も気兼ねなくできるようになり,全体的に問題に取り組む姿勢が良くなったように感じた。
生徒同士の方が質問しやすいということから,普段の授業の中で隣同士席をつなげた,ペアワークスタイルを取り入れるようになった。教師が前で説明をしているとき以外は,問題を解く時などに隣の人への質問をしやすくした。積極的に隣同士の会話を促し,問題を解く時には方針を二人で話し合った上で解き始めるように指示をして会話をすることが当たり前の状態を作った。さらに教師からの発問も指名して答えさせることをやめて,全体に投げかけて隣同士で発問に対する会話をするようにした。授業の中でポイントについて発問を行い,「さあ,どうぞ」で隣同士が会話をするという流れができるようになった。今までの1対1の発問形式であると教師と当てられた生徒だけの時間が過ぎることがあったが,隣との会話の形をとることで全員が発問に対する答えを話し合うことができるようになった。話し合いの時間をどの程度にするかは難しいが,生徒の会話の様子を見ながらできる限り時間を取るようにした。答えが明らかに出そうな場合は誰かに当てて答えさせたり,「せーの」で全員で答えたりすることもあった。答えが出にくそうな時や授業の流れによっては,教師が聞こえてきた会話の流れを汲み取る形で授業を進めた。指名した人との1対1の会話を避け,できる限り教室内全員が考え,発言し,授業参加できるようにした。
現段階では,通常授業はペアワークを通して話をし,章末問題など単元のまとめでは班別学習で理解を深めるような授業の形にすることができた。普段の授業の宿題などにしても,誰かに当てて黒板に板書させると,その時間がもったいなく,また待っている時間を持て余す。そこで,宿題の答え合わせも基本的に隣同士での確認という形のペアワークにした。確認させている間に模範解答を板書してポイントの説明を付け加えるような形をとることで時間のロスをなくした。
【ペアワークの様子1】
【ペアワークの様子2】
3生になって問題演習の授業になったときも,以前のやり方からの変化を試みた。以前はあらかじめ担当の問題番号を個人に割り振って,授業開始までに板書しておき,それをひたすら解説していくというスタイルであった。しかし普段の宿題と同様,板書の時間がもったいないことや,中途半端にしかやらない解答の手直しに時間がかかることが大きく問題となった。また,狭いスペースにたくさんの解答をかくため,とにかく見づらく前向きに授業を受けづらい形であった。
そこで,当時一緒に授業をしていた先生と相談して,まずは板書スタイルをとりやめ,解答作成シートという名の,問題番号のみがある白紙を配布して,そこに問題を解かせて事前に提出させた。授業前に添削をし,授業で説明する添削した問題をまとめてコピーして配布することで,板書の手間と見づらさを解消した。ここで添削した部分の解説で授業を行ったが,そうすると結局一方通行の授業になっていた。それぞれの生徒が作った解答を見るという良さもあったが,当てられた生徒もどこかから解答を探してきて書いて提出するという作業が行われるようにもなった。
教師が解説をしてしまうから,生徒は提出した時点で解答から手が離れるのが良くないと考え,次の世代では生徒が自分の解答を前に出て解説するというスタイルを試みた。必要であれば黒板を使ってもよいとも伝え,解説と質疑応答が終わってから補足を教師がするという形をとった。これで,その問題に対する生徒の責任感が生まれ,少なくとも解説と質疑応答ができるように準備してくるようになった。例え解答を見つけて写し,それを読むだけだったとしても,前に立つことの責任から周りの生徒に伝えようとする姿勢は見られた。この形はかなり好評であり,前に立って説明することで理解が深まったり自信がついたという感想もあった。ただし,何をしゃべっているかわからないであったり,結局先生の説明の方がわかりやすいという意見もあった。また,生徒個人の解答がわかりにくく模範解答がほしいという意見もあった。
次の世代では,あらかじめ当てるのではなく,その日説明する問題のうち,自分が説明したい問題を挙手して説明するという形をとった。解答はこちらで用意している模範解答をプロジェクターに写し,似ている解法であればそのまま説明し,違う解法であれば別解として紹介するようにした。最初は自分から名乗りでる生徒はいないのではないかと危惧したが,同じ人が何度説明してもよいスタイルをとったためもあり,意外とこちらが指名したりすることもなく,すべての問題を挙手して発表してくれた。ただし,誰が発表するかについて何の指示もしなかったので,何度も説明する人や,一度も説明しない人もいた。それでも,「この問題を発表しよう」と思ってその1問を全力で解いてきている生徒もいた。また,わからないことがあってもクラス全体で解決するように指示していたので,積極的に意見交換をしたり,質問を投げかける姿も見られた。1問に時間がかかることもあり,教師としては我慢が必要なときもあったが,全体的には生徒たちの成長が見られた試みだったと感じている。
さらには入試前の演習の時間においては,問題を与えておいて解いて来させて,班別学習を行ってすべて班員で解決するように指示を出した。途中で解答例を配布するが,教師が簡単な説明をするのは10分程度でそれ以外の時間はすべて生徒たちが自分たちで問題解決を試みた。このときは班員の構成をかなり考えて,5人の班員の中で議論が活発になるようにさまざまな特徴の生徒を組み合わせるようにし,また,2時間ごとに班編成を変えた。これは,生徒たちにも好評で,自分と違う考え方や解き方を知ることができるといった意見が多かった。
普段の授業のスタイルと,演習授業のスタイルの変化を求めて試行錯誤をしてきた。現段階では通常授業のペアワーク,章末問題などの班別学習,演習授業での発表や班別学習の流れが生徒の反応からも手応えを感じている。学校に来てクラス授業を受けているからには,学校に来ていなければできない授業をしたいと考えてきた。一番大切なことは「会話すること」ではないかと考える。ただ,問題を解くだけなら一人で家でできることである。その解法を相談したり,質問をぶつけたり,知っていることを教えたりと,会話をすることこそが学校でできることではないだろうか。授業の時間をできるだけ「会話」に使っていきたい。