徳島県立名西高等学校は,大正12年徳島県立名西高等女学校として開校して以来,令和5年度には100周年を迎える歴史と伝統を誇る学校です。全日制普通科・芸術科(音楽・美術・書道),定時制普通科を併設しており,多様な学びに取り組む生徒がそれぞれの目標の実現を目指し,校訓「誠実」の下,切磋琢磨しています。今回の実践報告では,最近何かと話題の生成AI「ChatGPT」を数学の授業や探究活動にどのように活用できるかを具体的な事例を交えて紹介します。
私の大学での専攻は統計学です。大学生の頃から,これからの時代,必ず統計教育の必要性があると考えていました。学習指導要領の改訂により,「情報Ⅰ」プログラミング分野の必修化や数学B「統計的な推測と確率分布」が令和7年度大学入学共通テストに出題される予定であり,その重要性は高まってきていると実感しています。数学の先生方と話しているとデータの指導は難しいというお声を伺うことがしばしばあります。それは,数学の授業では理論を教えることがメインであり,実データの分析にまで手が出せないため生徒も教員もどこかしっくりこない感じがしているからだと勝手に想像しています。やはり,自分で生データを見て,どのように処理して分析するかを考えることで初めて実感が湧き,教科書に書いてある内容がしっくりくると考えています。しかし,これまでデータの分析経験がない教員がいきなりRやPython,Excelを駆使してデータ分析に挑戦し,それを生徒に教えることには,大きなハードルがあると考えます。そこで,少しでもそのハードルを下げ,授業において知識の伝達だけでなく,その知識を活かしてデータから何を読み取れるのか?読み取ったことからどのような判断ができるのか?という探究活動に繋げたいと思い,この実践に取り組みました。
夜間定時制高校ということもあり,本校の教育課程では数学Bを履修していません。そのため,今回の報告では,数学Iデータの分析の相関関係の授業におけるChatGPTを使用する前後の授業の変容を紹介します。今回の実践にあたり使用したのは,GPT4です。一概にChatGPTと言っても無料版のGPT3.5,有料版(月額20ドル)のGPT4の2種類が存在します。今回は,公益財団法人日本教育公務員弘済会徳島支部の教育助成金事業IIという事業に申請をして得た助成金を活用して有料版のGPT4を使用しました。GPT4ではプラグインという機能を使用することができ,外部のサイトと連携したサービスを提供してくれます。今回は,「Noteable」というプラグインを活用しています。(詳細は後述)
※Noteableは現在サービスを終了しています。
時間 (分) |
学習活動 | 指導上の留意点 | 学習活動における具体の 評価規準 |
評価方法 |
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導入 (5分) |
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ワークシート |
展開 (30分) |
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行動観察 ワークシート |
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ワークシート | |
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行動観察 | |
まとめ (5分) |
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行動観察 |
この授業を振り返ると,相関係数を求める活動に時間がかかりすぎ,次回同じ授業を実施するときは,結果の解釈に時間を充てたいと感じていました。そのため,令和5年度の1年生の授業ではChatGPTを使用し,より多くの相関係数を一目で確認することのできる相関行列からどのようなことを読み取ることができるかに重点をおいた授業実践に取り組みました。
時間 (分) |
学習活動 | 指導上の留意点 | 学習活動における具体の 評価規準 |
評価方法 |
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導入 (5分) |
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ワークシート |
展開 (30分) |
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行動観察 ワークシート |
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行動観察 | |
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行動観察 | |
まとめ (5分) |
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行動観察 |
以下に,生徒とChatGPTとのやりとりを掲載する。あわせて解説も記述しています。
[生徒とChat GPTのやりとり]
ChatGPTの裏で実行しているNoteableのページを確認すると,以下の通りである。
このような授業実践を探究活動に発展させた例を紹介します。本校では総合的な探究の時間や課外活動として2年前よりデータ分析に取り組んでいます。それは,徳島県教育委員会が主催する「高校生ビッグデータ活用コンテスト」への応募がきっかけとなりました。今年度は意欲的な生徒が多かったため,夏休みを利用して,神戸大学が主催する「第3回中学生・高校生データサイエンスコンテスト」に応募することにしました。データ分析初心者の生徒たちのため,当然RやPythonを使った分析は難しいです。そのため,コンテストの応募要件上問題のないChatGPTを利用することにしました。(コンテストによっては,利用禁止のものもあるので,注意する必要があります。)当然,すべてをChatGPTに頼るわけにはいかないため,次の点に注意しながら活動を進めました。
結果の解釈にかなりの時間を要していましたが,努力の甲斐もあり,最終審査まで進むことができました。統計学的に怪しいところ(サンプルサイズが大きいことによる検定の検出力の問題etc)も何箇所かありましたが,見事優秀賞を獲得することができました。
今回の実践を通して,生徒も私自身も生成AIの可能性を実感することができました。何事も物は使いようです。上述のように間違いや怪しい結果を提示してくる可能性もあるため,注意深く対峙する必要性があります。そのこと自体が生徒の新たな学びにつながっているのではないかと感じています。今後も生徒の学びのためになるツールをこれからも私自身がどんどん試し,生徒が楽しみながら学べる環境を提供していきたいと思います。
【引用文献】