これまで筆者は,内容言語統合学習法(CLIL)の要素を授業の中に取り入れ,他教科と協働しながら,いくつかの教科横断型授業を行ってきた。具体的には,①生物×英語 (土屋, 2017, 2018, 土屋&加藤2018),②古文×英語 (土屋, 2018),③世界史×英語 (土屋, 2019),④日本史×英語という形で実践したが,各授業後の生徒のフィードバックから,生徒の興味・関心の喚起や「主体的・対話的で深い学び」に関して確かな手応えを感じ,今回,新たに,家庭科×生物×英語の3つの教科を横断する授業を試みた。
・『Revised ELEMENTⅡ』Lesson 10 Euglena - A microorganism with “macro” potential -
・ユーグレナに関する英字新聞
高校2年生英語科21名 (男子5 名 女子16名)
本授業は,コミュニケーション英語Ⅱのトピックとして,ユーグレナ(ミドリムシ)を扱ったレッスンのPre-reading活動の一環として行った。
まず,導入として,英語教師が,味を表現する際に必要な英語表現を教えてから,生徒はユーグレナクッキーを試食し,感想を英語で言うことからスタートした。その後,家庭科の教師が,五大栄養素(図1)について,家庭科の授業での既習内容を英語で確認し,ユーグレナが人の栄養状態の改善に大きく寄与することを説明した。
(図1)
次に,展開として,生物の教師が,ユーグレナがミドリムシであり,動物と植物の2つの特徴を併せ持っていることを生物の観点から英語で解説した(図2)。
(図2)
また,photosynthesisの単語の成り立ちについては,英語教師が,英語で次のように語源的な説明をした(図3)。
(図3)
T: The word photosynthesis basically consists of two parts, “photo-” and “synthesis”. “photo-” means light. You know the word “photograph”, right? In this word, “photo-” means light. “graph” means record. So, photograph is a film of record using light-sensitive material. In the same way, “synthesis” consists of two parts, “syn-” and “thesis”. Can you give me an example of words starting with “syn-”?
S: “sympathy” “synchronize”
T: That’s right! You know “synchronized” swimming, in which swimmers perform simultaneously.
T: Also, do you know this electronic musical instrument? This is a synthesizer, which is an electronic musical instrument, producing a wide variety of sounds by combining signals.
このような生物と英語の両方の観点からの説明を行ったとき,生徒はかなりの気づきを得ていたようだ。これはまさに,生物の授業による既知情報と英語の授業で得た新情報が結びついた瞬間であろう。
その後,Reading活動として英字新聞の記事を読んで内容理解を行い,読み取った内容を基に英語でユーグレナを使った商品を描写するSpeaking活動を行った。具体的には,①ミドリムシヨーグルト,②ミドリムシラーメンについて,画像と3語程度のキーワードを提示し,これらの商品を知らない英語話者に説明するという状況設定のもとでペアワークを行った。この時の生徒の発話を観察すると,授業の前半で家庭科・生物・英語のそれぞれの観点から得た情報を踏まえ,表現しようとする姿勢が見られた。
具体的には,ユーグレナがさまざまな栄養素を含んでいるという描写の際に”contain”という単語を使用していた場面が見られたのは,特筆すべき事柄である。なぜなら,このcontainという単語の使用に関しては,たとえ英単語集で意味が分かる程度の表層的なレベルで意味を分かっていたとしても,具体的な使用場面に遭遇する機会は,そう多くはないと考えられるからだ。実際,このcontainは,家庭科・生物・英語の各教師が,例えば,How many nutrients for humans does euglena contain? など,問いかけや説明の際にかなりの頻度で使用していた。また,Reading素材の中にもこの単語は,数多く使用されている。このことから,良質なアウトプットを得るためには,特定のコンテクストの中で,インプットの質の高さや頻度が大きく影響していることが分かった。
このように,内容と言語を同時に学び,さらに具体的な使用場面を設定して目標言語を使用することが生徒の動機付けを高め,理解や定着を促進させることを再認識した。
最後にSpeaking活動で発話した内容をもう一度,正確さ(accuracy)に注意を当てながら,Writing活動を行い,この授業を終えた。
【Writing Task①の模範例】
This yogurt contains nutrient-rich ingredients from euglena. Euglena contains 59 nutritional elements such as amino acids, minerals, vitamins.
【Writing Task②の模範例】
This is a euglena hamburger steak, which is very healthy for people who care about their calories because euglena can decrease neutral fat.
(太字で下線を施した単語がキーワード)
授業の残り5分程度で,振り返りも行った。生徒の感想から,家庭科・生物との教科横断型授業が,英語学習に対する動機付けとなったと思われる主なコメントを以下に挙げておく。
【振り返りシートより】
これらの生徒の感想から判断すると,今回の家庭科×生物×英語による教科横断型授業の目的や意図は,概ね伝わったと考えられる。
今回,家庭科×生物×英語の教科横断型授業を実践してみて感じたのは,2年1学期に家庭科の授業で学んだ五大栄養素の内容や前年度1年時に生物基礎で学んだ単細胞生物の内容を2年3学期に英語の授業で応用したことで,個々の知識が結びつき,生徒の理解がさらに深まったことである。教科の枠を超え,適切な時期に,関連した内容を横断させながら指導することは,生徒に個々の知識が密接に結びついたと思える瞬間を与えることができると言えよう。さらに,それをきっかけとして,生徒は,ごく自然な形で「主体的・対話的で深い学び」へと向かうのではないだろうか。
謝 辞
本授業を行うにあたり,本校生物の加藤 礼先生,本校家庭科教員として在籍していた松本 有里先生には,授業当日の指導のみならず,指導案作成から授業実施に至るまでの打合せにおいて多大なるご協力をいただきました。
ここに心より感謝申し上げます。
◆参考文献・資料
池田 真 (2011),「CLILと英文法指導--内容学習と言語学習の統合」『英語教育』2011年10月号, pp.34-36(大修館書店)
和泉 伸一(2016),『フォーカス・オン・フォームとCLILの英語授業 生徒の主体性を伸ばす授業の提案』(アルク選書)
土屋 進一(2017) ,「入試問題を用いた教科横断授業(生物✕英語)」CHART NETWORK 83号2017年9月,pp.14-16(数研出版)
土屋 進一(2018),「英語の仮定法と古文の反実仮想による教科横断授業」CHART NETWORK 86号2018年9月,pp.11-13(数研出版)
Ball, P., Kelly, K., & Clegg, J. (2016) Putting CLIL into Practice. Oxford: Oxford University Press.
啓林館(2018),授業実践記録,土屋 進一 『ELEMENTⅠ』を用いた生物✕英語の教科横断型授業,
https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kou/english/jissen_arch/201804/(2018年4月公開)
啓林館(2019),授業実践記録,土屋 進一 ELEMENTⅠを用いたCLIL型授業(世界史✕英語),
https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kou/english/jissen_arch/201904/(2019年4月公開)
◆参考映像
土屋 進一・加藤 礼 (2018)「教科横断型授業:英語×生物~つながることのUMAMI~」Find!アクティブラーナー
https://find-activelearning.com/set/3184/con/3177