高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

Vision Questを用いた授業実践

兵庫県立東播磨高等学校 上田 慎志

1.はじめに

ずいぶん昔ですが,「教科書を使うことの是非」というテーマで議論をしたことがあります。教科書を使うと授業が組み立てにくいという意見もあり,そのため独自の教材をたくさん作られる方も見受けられます。

私は,生徒に持たせているからには教科書はきっちり使うべきであり,その教科書に沿っていけば一定の活動を含めた授業が成立するというのが理想であると考えています。

ここでは"Vision Quest English Logic and Expression II Hope"(啓林館)とその関連教材(啓林館)を用いて私が行っていることについてお伝えします。

2.授業の流れ

教科書とワークを併用して授業を行っています。「Warm up」で各生徒に質問しながらテーマに対する意識づけを行い,「Topic Introduction」で各レッスンが取り上げている文法項目が文の中でどう使われるかを確認し,「Example bank」「Try it out!(大問1)」とワークの問題で定着を図ります。その後,「Try it out!(大問2,3)」や「Expressing」を用いて話す活動を取り入れています。

3.予習・復習

授業での説明をできるだけコンパクトに収めるために自宅学習として「参考書を読んで理解を深めておくように」という指示を,Libryを通じて出しています。

Libryのオリジナル課題には「ノート」機能があるため,そこに自身が学習した形跡を残させることで主体的な学習の評価にも繋げられると思っています。画像は実際に生徒がノートに提出したメモです。

4.Example bankの活用

授業始めには,教科書example bankの例文を用いた暗唱を,段階を踏みながら行っています。生徒は暗唱シートを使って,①日本語が見える状態で英文を音読,②穴埋めをしながら音読,③和文英訳までをペアで行い,その後,④教師が日本語を言い,生徒が英訳するという活動を行っています。英文を何度も口にすることで記憶に残る実感を持たせています。

5.ICTの活用(意見の共有)

和文英訳や,自分の意見を書く問題を解いた後に,クラスメートがどのような文を書いているかを見るのはいい勉強になると思っています。これまでは,黒板のスペースや時間の都合もあって1つの問題につき1人の解答しか扱えず,もったいないと感じていました。しかし,生徒が全員タブレットを持ち,ネットワーク環境も整ったことで,意見の共有はよりしやすい状態となりました。私の授業では主にPadletやCanvaを用いて生徒に英文を投稿させています。

Padletでは生徒の意見が1ページで掲示板のように表示されるところが良いと感じています。画像はLesson6 Try it outの大問3を参考に,日本の世界遺産について説明させたものです。いくつかの投稿についてフィードバックしていきながら,文法ミスに関するクラス全体の傾向について指摘することができました。(このクラスはwhereの使い方について見直す必要がありました。)

また,投稿に対して「いいね」スタンプを押すことができるので,生徒の自己肯定感を向上させるきっかけになります。今はまだできていませんが「コメント」機能を使って投稿に対する自分の意見や反論,指摘なども書かせることができれば,さらにおもしろくなるのではないかと考えています。

ワークの英作文問題については主にCanvaを用いています。特に英検対策に使えそうなLesson7やLesson11などのDescriptionは人によっては書く内容が変わるので,複数人に解答させて,内容を比較しました。グループを組んで相談させながら英文をつくった時もあります。

6.Expressingを用いた活動

この教科書のExpressingで扱われているテーマは生徒たちの実生活に直接関連しているものが多く,自分自身のことに置き換えてスピーチやディスカッションさせることが比較的容易だと感じています。

Lesson11ではディベートの手法について書かれていました。ディベートは探究活動との相性が良いので,難しいかなと思いながらもやらせてみました。この時は「即興型英語ディベートの流れ」を参考にして,学校生活に関するテーマで実施しています。

50分で全班の発表を終わらせたかったので,肯定・否定・ジャッジのグループを2つ作り,同時に実施しました。評価項目として「比較表現の適切な使用」を挙げたので,その確認のため,発表内容を原稿として提出させ,当日の発言の様子については,動画撮影をして記録に残しました。

Lesson10はAIがテーマになっており,話を聞いている限りでは生徒はAIにどこまでのことができるのかがイメージできていない様子だったので,ChatGPTの使用例を挙げつつ,その将来性について今後スピーチをさせたいと考えています。(ちなみに生徒が英作文に翻訳ツールを使うことが増えてきたのですが,その注意点・危険性についてはこのレッスンで伝えています。)

7.終わりに

これまでは文法を教えることが好きで,何十分喋っても飽きない自分でしたが,ある時ふと,教え過ぎることの弊害に気づくようになってからは,徐々に説明の時間を減らし,その分活動に回すようにしています。意見を述べることに対する抵抗感を減らすように教師側から声をかけ続け,生徒は徐々に話すことに慣れてきています。

生徒がタブレットを持ち,wi-fiの環境が整ったことで,家庭学習や授業中の活動も効率的にできるようになったのではないかと感じています。特に意見の共有が短時間で行えるようになったのは良い変化であり,この時間は個人的に重きを置きたいところです。今後は上でも述べたように,スピーチなどのような個人の発表に対して,他の生徒がさらに意見や質問をして議論を深めていくような活動を日常的に展開したいと考えています。