私事だが,6年前からギター教室に通っている。レッスンは「指の動かし方を練習するパート」と「曲を練習するパート」に分かれている。楽しいのはもちろん後者である。しかし,先生に試されるので前者も練習せざるを得ない。最初の頃は「なんでこんなことをしないといけないのだろう?」と思っていたが,最近になってようやくその大事さがわかってきた。それをやっておくと,確かに曲を弾く時に弾きやすくなったり,音が綺麗に鳴るようになったりする。ふと気づく。自分も学校の授業で生徒に同じことを言っていることに。
「英語の4技能を伸ばすためには,単語や文法などの土台を固めることが大事だよ。」
そこで本稿では,自分の英語授業で実践していることの一部を「土台を固めるパート」と「4技能を伸ばすパート」に分けて紹介したいと思う。
リーディングにおける内容の把握を「到達点」ではなくむしろ「出発点」として捉え,その内容を表現していた英語を様々な活動の中でアウトプットすることで,生徒に本文中の表現を身につけさせたい。その活動の一つとしてよく行なっているのが,サイトトランスレーション(英文を意味のかたまりごとに訳していくトレーニング)の日本語→英語版である。
本来ならレッスンの英文全体でさせたいところだが,生徒の習熟レベルに照らして負担が大きいと感じる場合は,一部にしぼって取り組ませるとよいだろう。「一部にしぼる」とは言っても適当に抽出するのではなく,そのレッスンの文法のポイントやおさえたい熟語を含んだかたまりを各パートからバランスよく選ぶとよい。
下記がその例であるが,日本語の欄の数字は,対応する英語の語数を表しており,英語になおす時の手助けとなる。
私の授業では,ペアや全体で確認する。最初は心許なかった生徒も,だんだんすらすら言えるようになってくる。大事なのは,とにかく「繰り返す」ことである。
日本語 | 英語 | |
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1 | その生息地から (4) | due to its habitat |
2 | 水と光だけ (6) | nothing more than water and light |
3 | 地球全体に利益をもたらす (6) | bring benefits to the planet itself |
4 | 何らかの栄養豊富な食料探しに着手した (9) | set about looking for some kind of nutritious food |
5 | ミドリムシを偶然見つけた (3) | hit upon euglena |
6 | 助言を求めた (4) | sought out the advice |
7 | 出雲さんのプロジェクトが必要とする規模で (7) | on the scale that Izumo’s project required |
8 | 研究者とチームを組んだ (5) | teamed up with a researcher |
9 | 必要とされる培養方法を開発しようと追い求める中で (9) | in their quest to develop the cultivation methods needed |
10 | わたしたちと協力し合った (6) | stood shoulder to shoulder with us |
11 | 日本の強みが大きく発揮される (7) | the strength of Japan really shines through |
12 | 現在の状況まで一気に話を進めると (6) | fast forward to the present day |
13 | 現在調査されているミドリムシの利用の中には (9) | some of the uses of euglena being investigated today |
14 | ジェット燃料は実用化されるだろう (9) | the jet fuel will be put into practical use |
15 | 会社はオフィスをかまえた(現在完了形) (7) | the company has set up an office |
(啓林館) Lesson 10 ‘Euglena’
スピーキングにおいて,事前に準備して発表する活動ももちろん大切だが,実際の会話では,相手の発話に対してすぐに答える場面が多いだろう。スピーキングの「即興性」を鍛えるために,授業のウォームアップとしてよく行うのが,One Minute Monologue(その場で与えられたトピックについて,時間内にできるだけたくさん話す活動)である。
‘One Minute’とは言っても実際1分話すのは大変なので,私は30秒で行なっている。ペアになり,聞き手に発語数をカウントしてもらって,2倍にした数字(1分間の発語数に換算)を記録させている。回を重ねるごとにその数が増えていくことが目標となる。
トピックとしては,英検の二次試験の面接で過去に出題されたものからピックアップしている。例えば,‘Do you think traveling in a group is better than traveling alone?’(準2級レベル),‘Some people say that, in the future, more companies will allow people to work from home instead of coming to the office.What do you think about that?’(2級レベル)などである。英検対策にもなり,一石二鳥である。また,高校3年生であれば,大学入試の面接などを意識して,’What is your strong / weak point?’などのトピックで話せば,より実践的になるだろう。
その場で与えられた論題に対して,肯定チームと否定チーム(1チーム3,4人)に分かれ,相手の意見に反論しながら,自分たちの主張を交互に発表していくディベート活動である。「One Minute Monologueのグループ版」とも言える。
例えば,2023年度,高校3年の授業において,‘Homework should be abolished.’(宿題を廃止すべきである)という論題のもと,宿題の必要性や自由時間の重要性について議論した。この時はオンラインで外部講師にジャッジとして参加していただき,ディベート後にフィードバックを受けた。生徒は大いに刺激を受けたようで「またやりたい!」という声があがった。
盛り上がるディベート
習ったことや読んだ内容を「リアルなもの」として生徒に感じさせたいものである。例えば,2022年度,教科書でミドリムシを生かして世界の食料問題やエネルギー問題の解決に挑む出雲充さんの話(Revised ELEMENT English Communicatiou Ⅱ(啓林館)Lesson 10 ‘Euglena’)を読んだことから,出雲さんを学校にお招きし,生徒に講演をしていただいた。
「1回やって99%失敗することは,459回やれば99%成功する」
「努力を続けるためには,メンター(憧れの人や師匠)とアンカー(手紙や賞状,メンターからもらった物など,自分の夢や目標を日々思い出させてくれるもの)を持つことが大事」など,熱量の高いお話を聞かせていただいた。
「VUCA(Volatility = 変動性,Uncertainty = 不確実性,Complexity = 複雑性,Ambiguity = 曖昧性)の時代」において,「アントレプレナーシップ(起業家精神)」を養うことが肝要と言われている。そのトップランナーのお話を直接聞けたことは,生徒にとって貴重な機会になった。
講演後,出雲さんと記念撮影
ギターの話に戻そう。毎日発表会をすれば上達するかというとそうではないだろうし,かといって地道なトレーニングばかりの毎日では味気ない。英語の授業もまた然り。一直線で英語力が身につくなら苦労はしない。一歩下がってまた進む。「文法や単語・熟語を覚える」ことと「それらを実際に使ってみる」こと。結局はその往還でスキルが身についていくのだと思う。
そして英語力を身につけることを「ゴール」とするのではなく,それを「ツール」として,将来世界のだれかを幸せにすることに貢献できる生徒を育てられたら幸せである。