高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

あらためて,音読

北陸学院中学校・高等学校 平田 純

1.はじめに

音読は大切。わかっていても実際に指導に取り入れると非常に難しく,奥深いものだと思わされます。音読界には煩瑣な問題が犇いているからです。音読させるべく準備に齷齪しても,ただ音読するふりをして「やってますよ」アピールする小聡明い生徒もいますし,そのような生徒たちに対して私かに苛々する自分に嫌気がさすこともあります。職員室では口に出しませんが,他教科に比べて英語教師は最も忙しいと思っていますし,昼食も抜いて匆々に午後の授業に向かうことも屡々あります。いずれにしても,仕事が捗らないときこそ,がんばる自分を労い労りつつ,いかに効率的な音読指導ができるか日々考えています。

2.ただ読ませるだけじゃ意味がない

そもそもこのページにアクセスしてわざわざこの文章を読んでくださっているみなさんは,英語指導に情熱的で,音読に少なからずこだわりを持っている先生方が多いのではないでしょうか。そんな先生方,上記「1.はじめに」を音読してみてください(特に下線部)。できればこのあとご自身の生徒さんたちにこれを音読させる,という意識で音読してみてください。

・・・大変失礼ながら,読めましたか?読めはしないけど,意味は何となくわかる,という言葉はあったかもしれません。私たちが教員だから,という理由も多少はあるかもしれませんが,「読めない」という状態は非常にストレスが溜まり,苛々(いらいら)してしまいます。ましてや読めないものを覚えてこい,なんて言われたらたまったものではありません。「小聡明い」,「犇く」,「私かに」を覚えてこい!と言われても読み方がわからなければ覚える意味を見出せません。「【こざかしい】かと思ったら,【あざとい】か!」,牛がぎゅうぎゅうで【ひしめく】か!」「私のことだから【ひそかに】って読むのか!」と読めて初めて覚えるという土俵に立てます。

さらに,【0762211944】,この10桁の数字を10秒で暗記してみてください。

この数字の羅列を図形ととらえて視覚的に覚える人もいるかもしれませんが,たいていは「ぜろななろくにぃにぃいちいちきゅうよんよん」と頭の中で音声化して覚えるのではないでしょうか。そして「これは北陸学院中学校・高等学校の電話番号だから覚えて」,と伝えられると,無意味だった数字よりは覚える動機が生まれると思います。

音読に関して,授業を通して生徒たちにまず強く伝えていることは以下のことです。

図1「これを暗記してごらん」

パワーポイントで実際に生徒に見せたページ。
生徒たちは「え?暗記?何を??」と不思議な表情を見せます。

図2「読めるなら,覚えられるはず」

図1を見せたあとで読み方の答えを示して暗記を促すと,
ぼそぼそと読みながら暗記に挑み始めます。

3.音読をさせる仕掛け

基本的にはパワーポイントを電子黒板に投影して毎回授業をしています。古いスタイルと思われることは覚悟の上ですが,まずは教科書の英文の意味をしっかりと説明していきます。その後,クラス全員で音読をします。図3は投影したパワーポイントの一例です。教科書の英文が,音声とともに上へスクロールしていきます。慣れてくると図4のように,一部分が日本語になっていてもそれを英語にしながら音読ができるように指導していきます。「指導」というより,手本を示しながら「練習させる」という感覚が近いかもしれません。図3,図4で使用するアニメーションは動画化してアップロードし,生徒はいつでもどこでも練習できることになっています。

ちなみにこの動画はパワーポイントにて「アニメーション」→「スライドアウト」→「効果のオプション」→「上へ」で作成可能です。その後「ファイル」→「エクスポート」→「ビデオの作成」に進むとアップロード可能な動画に変換されます。

図3 音声に合わせて文字がスクロール

図4 日本語を英語に直しながら音読

4.音読練習動画の副産物

映画のエンドロールのように(世代によっては「スターウォーズで流れる字幕のように」というと伝わりやすいかもしれません)流れる英文を使うことで,速読・同時通訳の練習もできるようになりました。下から上に向かって流れる英文(図3)を目で追いながら,生徒たちは日本語訳を言っていきます。リスニングの可視化とも言えるこの活動は慣れが必要なので最初は苦手意識の増長になるかと心配はしましたが,練習を重ねるとだんだんとできるようになってきます。英語は実技科目ともいえる部分が多いので,「練習次第でできるようになる」というプロセスはうれしいものです。達成感があります。英語を使った仕事に就く生徒は少ないとしても,うまくできた生徒に「すごい!同時通訳者じゃん!」と声をかけると,ほぼすべての生徒たちが喜びます。「同時通訳者」という称号には不思議な,そして強力な魅力があるようです。

5.おわりに

賛否両論あるかとは思いますが,まずはしっかりと土台を作ってからのコミュニケーション活動,が大切だと思っています。何が正解なのかはまだ模索中ですが,少なくとも音を使った(特に音読を重視した)授業は大切にしたいと思っています。今は音読,そして同時通訳的な授業で生徒の英語力向上とモチベーションの維持を保つように努力はしてますが,それを土台にコミュニケーション活動を楽しむということが最大の目標です。仕事が犇めく現場で齷齪働かざるを得ない多忙な生活が続き,業務が捗らないときもあって苛々することも多々ありますが,ときには自身を労わり,労いながらこれからも授業づくりに励みたいと思います。

ここまでお読みいただいた忍耐強いみなさま,最後までおつき合いいただきありがとうございました。