1.はじめに
ここ数年「理科離れ」と言われる現象がある。これは,自然科学や科学技術に対する興味や関心の低下であり,我々教師には重要な課題となっている。
こうした現象に対して,従来の「詰め込み教育」に対する反省や教育制度の改善がなされてきている。一人ひとりの「科学する心」を育てる創造的教育をどのようにして行い,21世紀を生きる生徒たちが真の科学のおもしろさを体得し,未来への大きな夢を育む教育環境をどのようにしてつくるかが重要な課題の1つになっていることは周知の通りである。
そこで,理科の授業においては,科学の面白さや自然の不思議さを夢中になって追究する楽しさ,そこから得られる発見・喜びや感動を創造することが大切である。
今回,分子モデルの製作(新訂理科1分野上「化学変化と原子・分子」 啓林館)を取り入れた授業実践を報告したい。本授業では,結合の手をもつ原子モデルを用い,いろいろな分子モデルを組み立てる作業学習を取り入れた。理科教育では,自ら触れ,作り,動かし,試したりすることができる体験的な教材を授業に取り入れることが大切である。実践にあたっては,あらゆる分子モデル教材をどのように選択して授業に取り入れるのか,また,分子モデル教材をどのように工夫して製作するのかという点を大切にした。
さらに最近,コンピュータを取り入れた分子モデルの製作が全国的に増加しているので,コンピュータを活用した授業の利点も考察してみたい。
2.分子モデルの製作
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1) 分子モデルの製作方法 |
分子モデルを製作するにはいくつかの方法がある。ここでは,試行錯誤を繰り返し授業に取り入れたいくつかの方法を紹介したい。
・ | 教科書は,プリントに印刷した原子を切り抜き,糊でノートに貼るという方法である。 |
・ | 文房具店で取り扱っている丸いタックシールを利用する方法もある。 |
・ | 発泡ポリスチレンを用いて製作する方法がある。これは,カッターナイフを主道具とし,発泡ポリスチレンを切断しながら接着剤を使って原子をつなぎ合わせ,分子モデルをつくるという方法である。 |
・ | 接着剤でとめるのではなく,衣服などに利用されている取り外しが自由なマジックテープを利用する方法がある(マジックテープは原子の結合の手の数にする)。 |
・ | コンピュータを活用した方法もある。原子モデルを画面上で操作しながら,あらゆる分子モデルの製作をする方法である。 |
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2) 授業実践による学習効果 |
結合の手をもつ原子モデルを用いて結合の手を残さないように組み合わせ,あらゆる製作方法を用いて分子モデルをつくり出すことに取り組んだ。各クラスの生徒の実態に応じて分子モデルの製作方法を選択させた。生徒たちは,自分の選んだ分子モデルの作業学習に,目を輝かせて一生懸命に取り組むことができた。
生徒たちの感想の中に次のような声があった。「文化祭などでも,このような分子モデルの展示をしたい」「この分子モデルを持って帰りたい」「もっといろいろな種類の分子モデルをつくりたい」「こんなのが身近に沢山あるんだ」「もしも,こんなものが本当に見えたらおもしろいね」等である。アンケートの集計により,このような感想が約90%以上あることがわかった。資料集などに分子モデルの製作例があるが,見て知っているのと,実際につくってみるのとでは大きな違いがあることを教師自らも感じることができた。 |
分子モデル(発泡スチロール)
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あらゆる製作方法の中で,発泡ポリスチレンを用いた教材の利点は,準備が簡単なことである。また,カッターナイフの使用により小さな力で容易に加工ができるため,生徒たちの学習意欲を向上させることができることである。
授業では,多くの生徒があらゆる種類の分子模型の製作に挑戦した。さらに,興味を持ち続け,夏休みの自由研究であらゆる種類の分子モデルをつくり,学校に持参した生徒も出てきた。このように,分子モデルの製作は夏休みの課題としても有効であることがわかった。
また,取り外しが自由な分子モデルの利点は,発展的な学習として,化学変化を学習するときの原子のふるまいを学習するのに適していることである。生徒自らの手でつけたり,外したりしながら化学変化を視覚的に考察できる。このとき,マジックテープは,有効にはたらくのである。
コンピュータを活用した方法では,マウスのドラッグ&ドロップにより,視覚に訴える操作が可能となる。この方法では,マウスにより原子の結合の手も結びつけることができるように工夫されている。また,間違えても,すぐに削除することができる。学習ソフトのトップ画面には,必要なものだけが表示されている。解説は,自分の理解のレベルに応じて画面上の図が増えていくようになっている。また,マウスにより化学変化のようすを操作できる点は,学習内容(分子モデルの製作)を発展させるとき便利である。
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3.最後に
日ごろから多くの実践事例を参考にし,実験教材をデータベース・ソフト(Internet Ninja2(株)アスキー・サムシンググッド等)により整理しながら,新しい教材開発に取り組んでいる。最近の事例として,次のような実践があるので簡単に紹介したい。
・ | 分子モデルをプラスチック粘土で製作するという実践がある。結合と分離が容易にできるため,化学変化を説明するのに都合がよい。 |
・ | “おきらく理科準備室”というWeb Page(URL=http://village.infoweb.or.jp/~sivaco/)がある。マウスで三次元の分子モデルを操作できるので,多角的な学習を取り入れることができる。 |
・ | 最近開発された学習ソフトに“原子遊戯 for Windows95”(NEW教育とコンピュータ 1998年3月号付録CD-ROMに収録。学研)がある。画面上に表示された元素を組み合わせ,分子をつくっていくというパズルゲーム形式で構成されている。特に,高校の化学の授業で活用されている。 |
教材開発をするにあたって注意しなければならないのは,楽しさだけでなく科学的な裏づけがあるかどうかである。物事にこだわりをもって分子モデルの製作に取り組むことにより,「科学する心」の育成を図る必要がある。そのために,理科教師自らの教材開発と教材の選択方法に対するこだわりを大切にしたい。1pの約1億分の1の小さな世界の化学変化の様子を,原子モデルと分子モデルを使って想像しながらそのふるまいを考えることができたら,どんなに楽しく自然にはたらきかけることができるだろう。
なお,本実践は前任校である長浜市立北中学校で行ったものである。
参考文献
平尾二三夫 | 発泡スチロールで分子模型をつくろう 仮説社 |
箱家正規 | 原子・分子が見えてくるのに有効なモデルとその活用について 平成5年度日本教育学会近畿支部大会要項 |
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