1.はじめに
中学校3年間の最後の数学の授業で,「3年間の数学の内容で,何が一番わかりにくかったか。また,苦手だったか」と聞くと,毎年決まって「図形の証明」「関数」「方程式の利用」などの答えが返ってくる。生徒は,一次関数を含め関数に対して苦手意識が強い。それは,形式的な計算など問題処理方法は理解しているが,具体的事象と結びつけて関数をとらえていないからである。関数関係は自然現象や社会現象の中に多く見つけることができ,関数として意識しなくても,その性質はよく利用されており,数学を活用するという意味でも理解させることは大切なことである。
関数のわかりにくさは,1)関数は「数」でなく「関係」を表すこと,2)x,yの文字は「未知の定数」でなく「変数」として扱うこと,3)他の領域に比べて,これがわかれば「関数がわかった」といえるものが明確でない,といった点であろう。この点を考慮しながら,1年の比例と反比例の学習の基礎の上に,変化や対応についての見方・考え方がいっそう深められ,また,より興味がもてるようコンピュータやゲームなどを取り入れて指導を工夫してきた。
2.授業の実際
(1) 指導のねらい
1) | 事象の中から関数関係にある2つの数量を見いだす能力を伸ばす。 |
2) | 関数関係を表,グラフ,式などで表現したり,それによって関数関係の特徴を調べたりする能力を伸ばす。 |
3) | 関数の意味について理解を深め,関数的な見方・考え方をいろいろな問題の解決に利用する能力を伸ばす。 |
(2) 指導計画
1) | 一次関数・・・・・・・・・・・3時間(例1) |
2) | 一次関数のグラフ・・・・・・・4時間 |
3) | 一次関数の式を求めること・・・3時間(例2:パソコン) |
4) | 一次関数の利用・・・・・・・・3時間 |
5) | 二元一次方程式とグラフ・・・・4時間 |
6) | 連立方程式とグラフ・・・・・・1時間 |
7) | グラフで絵を描く・・・・・・・2時間(例3) |
8) | まとめの問題・・・・・・・・・1時間 |
(3) 実践事例
<例1> ブラックボックスを使って
1) | 指導の概要 |
| 一次関数の導入として位置づけ,2時間をあてる。一次関数の概念の指導(一次),関数,数あてゲーム(二次)である。 |
2) | 一次関数の概念指導 |
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ブラックボックスの入力(x)と出力(y)との関係を例(右図)を挙げて示し,xとyの関係を式で表し,4番目の入力(x)に対する出力(y)の値を考えさせる。すぐ気づくものから,少しずつレベルアップさせる。慣れてきたらゲーム盤を作成させる。
・準備物: | 大小の画用紙,セロハンテープ,マジック,ハサミ |
・条 件: | f(はたらき)の式 y=ax+b で, a・・・・±1〜±5の整数か±1/2,±1/3 b・・・・±1〜±5の整数 x,y・・必ず整数で,xは±10まで。 |
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3) | 関数・数あてゲーム |
| 前時に作成したゲーム盤をお互いに解き合う。はじめは1問4分間。慣れてきたら,少しずつ時間を短くする。1分以内で解けたら作成者に対してKO勝ち。説明の後,時間いっぱいにたくさんの問題を解かせる。 |
4) | 生徒の反応(生徒の感想より) |
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・ | はじめはよくわからず,カンで答えたりしたけど,だんだん考え方がわかってきた。 |
・ | くやしいけど,○○君の問題は難しくて解けなかった。たくさん解けて楽しかった。 |
・ | いつもより楽な気持ちで取り組めた。教科書の内容と違って楽しいので,また,授業でゲームをやりたい。 |
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5) | 指導の成果 |
| 一次関数の式の形や関数の概念の指導,およびこれからの学習への興味づけには効果があったと思われる。しかし,「xを○倍して□をたす」という形を強引に与えることになってしまった。次時に自然現象の中の一次関数となる例を学んでいくが,導入でこれまでの比例とは違う関係を身のまわりの事象から見つけさせるのがよいのかもしれない。導入の方法を,生徒の実態を考慮してこれからも模索していきたい。 |
<例2> 一次関数の式を求める(パソコンを使って)
1) | 指導の概要 |
| 一次関数のグラフ,および式の求め方の復習(まとめ)として位置づける。パソコンで,次の3レベルの問題を順に解かせる。 |
| 問題A・・式からグラフをかく。 問題B・・傾きと1点から式を求める。 問題C・・2点から式を求める。 |
| 操作の説明後,AとBを5問ずつ,Cは時間いっぱい,できるだけたくさん解かせる。問題Cは問題によって,グラフをかくことで式が読めるものや,計算力の必要なものまで様々であり,班でお互いに教え合いながら解かせる。 |
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ア.問題Bの画面の一例 | イ.問題Cの画面の一例 |
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2) | 生徒の反応(生徒の感想より) |
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・ | パソコンを使うと,協力して楽しんで問題が解けるのがよい。 |
・ | パソコンでは間違うと次へ進めないので,正しいかどうかすぐわかるのでいい。 |
・ | 問題Cは難しかったが,協力して10問以上解けたのでうれしかった。 |
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3) | 指導の成果 |
| 班で1問ずつ交代しながら解くことにより,下位の生徒に教えながら学習が進んでいたようである。問題Cでは,計算のできない生徒は言われるまま操作していたが,授業では見られない生徒の意欲を感じることができた。 |
<例3> 変域をともなう一次関数のグラフ(式を使って絵を描く)
1) | 指導の概要 |
| すべての一次関数の内容が終わった後に,関数のグラフの総まとめとして課題学習的に位置づける。学習プリントを用いて,(1)でグラフをかかせる。星ができることで関心を高めさせ,次に自分が好きな絵を直線を使ってかき,その式を求めさせる。最後に,班で1つ楽しい絵を選ばせ,その式(問題)をかいて提出させ,次時に他の班が作成した問題を解き合う。 |
2) | 生徒の反応(生徒の感想より) |
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・ | 問題の式をつくるのは少し面倒だったけど,解き合うときはわくわくしながらかいていて,とても楽しかった。 |
・ | グラフで楽しめるなんて知らなかった。また,こんな授業がやりたい。 |
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3) | 指導の成果 |
| 生徒の感想にもあるように,一次関数の学習の最後に楽しめる内容で締めることにより,3年での関数への関心・意欲につながることを期待したい。 |
3.まとめと今後の課題
苦手意識の強い一次関数の内容を,いかに興味・関心をもって取り組ませるか,という研究主題で過去の実践例を挙げてきた。内容的にはよく見かけるものだが,興味・関心を高める効果はゲーム形式やパソコンを用いることにより十分期待できる。しかし,それで理解はできたかというと,これは別問題である。<例1>では,ブラックボックスを使っての関数・数あて問題を一次で行うが,その評価により,二次のゲームの有効性が変わってくる。<例2>でも,一次関数の式を求める前時までの評価によってパソコンのA,B,C問題の与え方も変える必要があろう。
今後は,小テストなども含め,各時間ごとの評価の方法を研究し,それをより生徒の理解につなげるような指導方法の研究をしていかなくてはならない。
参考文献
導入を工夫する 山口県中学校数学教育会
数学教育 第33号,第36号 同上
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