遅進ともどもに
−図形の調べ方(2年)−
青森県青森市立油川中学校
久慈 和寛
 1.本提案の要旨
 これまでの研究の成果,諸先生のご指導を踏まえ,次の点に視点をあてて提案することにした。
(1) 指導の系統化及び価値を重視した単元構成をする。
(2) 個人差への対応を明確にした授業構成をする。

 上記の2点を改善することにより,個人差に対応でき,生徒一人ひとりが主体的に学習に取り組んでいけるようになるのではないかと考える。

 2.提案の内容
(1) 「指導の系統化及び価値を重視した単元構成をする」について
 <単元構成について>
  学ぶ意欲をかきたて,生徒が数学をつくっていくことができるような指導の流れを組み立てた(指導の系統化及び価値)。すなわち,単元の冒頭に「動機づけの場」を設定し,いきなり新しい課題を提示するのではなく,既習経験などに触れさせながら,既習事項から発展的に課題をとらえることができることである。
 そのために,学習課題では,短時間で簡単にできてしまうものを避け,生徒が多様に取り組むことができるもの,言い換えれば,どの生徒にもその生徒なりに解答を得ることができるものを位置づけた。

(2)

 「個人差への対応を明確にした授業構成をする」について−本時における個人差対応への着眼点−
1) 本時の学習では,個人差は次の3つの側面において顕著に現れると思われる。
 ア.既習事項の理解・深化の差
 イ.解決の仕方や考え方の多様性
 ウ.解決に要する時間の差
2) 段階の節々で,生徒の様相を見とりながら,ただ単に「わからない」「できない」といった否定的な見方から,「どんなことがわかる」「どこまでわかる」といった肯定的な見方をすることによって評価観を見直した。
3) 生徒のつまずきをできるだけすぐ読み取るようにし,その場ですぐ手立てを与えるようにした。評価は,学習課題把握時,小集団活動中の仲間どうしでの説明時,そして,まとめを終えて適用問題に取り組む3か所に位置づけた。その方法としては,説明や挙手,観察,補助質問などをあて,つまずきに対する手立てとしては,補助質問や切り抜き図等の教具,あるいは小集団活動における生徒どうしによる遅れ気味の生徒への援助活動等を考慮した。
4) 解決方法が多岐にわたる問題を提示した。問題解決能力を高めるためには,生徒がその能力に応じて自分なりの解決の計画が立てられるようにしてやることが必要だからである。また,多様な解決方法があるということは,方法の比較,必要感をもたせやすい。そこで,いつでも使える,より単純で明解なものを考えさせるという視点から,多様な生徒の反応を生かしながら練り上げていく展開を試みた。

 3.本時の指導計画
(1) 題材名 星形五角形の内角の和
(2) 本時のねらい
 星形五角形の先端にできる5つの内角の和が180となることを平行線の性質,三角形の内角の和,内角と外角の関係,角を1か所に集めること等の見方・考え方を使って説明できる。
(3) 学習過程


教師の働きかけ 予想される生徒の反応と活動 個人差への対応と評価

 
 
 
 円周上に弧の長さが等しい5つの点A,B,C,D,Eを取ります。
 これらの点を規則正しく結んでみよう。どんな図形ができるだろうか。
 円周上の隣合った点を結ぶ。
 円周上の点を1つおきに結ぶ。

円に内接し,且つ,弧の長さが等しい図形を与えることで,どの生徒にも抵抗なく取り組めるようにした。
学習場面のイメージをつかめない生徒には図をかき入れた補助シートを使う。
生徒の発表した隣合った点を結び,その図形が正五角形であることを確認させる。また,1つおきの点を結び,その図形が星形五角形であることを教示する。
意図的に下位の生徒に指名し,興味を喚起させる。
2〜4つおきに点をとっても点を結んでできる図形はこの2種類になることから,これらが発表されても深入りしない。
2 ア,イの図形についてA〜Eはそれぞれ何度になるだろうか。
 その理由も考えてみよう。

アの図形については,
A=108
 その理由は,正五角形の内角の和が540であるから
540÷5=108
 また,1つの外角が72であるから
B〜Eもそれぞれ108
イの図形については 
A=36
 その理由は,アの図形のAを3等分?しているから。
 内角にできる正五角形?の外角がそれぞれ72だから。
180−72×2=36
B〜Eもそれぞれ36
したがって
A+〜+E=180
分度器を使った生徒には,アドバイスし,別な方法も考えさせる。
正五角形の1つの内角の大きさを多角形の内角の和の観点と外角の観点から指摘させる。
イの図形についてはアの図形の関連で,まず直観でとらえさせる。
内部にできる正五角形に着目させ,その図形の外側にできる三角形は二等辺三角形であることを確認させる。
見通しのもてない生徒には,切り抜いた星形五角形を使って,イの図形のAはアの図形のAを3等分していることを直観的に把握させる。

 
 
 
3 円周上から5つの点をはずした星形五角形について考えてみよう。(学習課題の設定)

 下の図の星形五角形で,先端にできる5つの角の和を求めなさい。また,その理由も考えなさい。

   

4 今までに学習してきたことをもとにして見通しをたて,各自で,まず解決してみよう。
イの図をもとにすると,形が変わった星形五角形でも5つの和は180になるのではないか。
その考え方は,
1)5つの角を1つの三角形に集める。
2)5つの角を1つの点に集める。
3)三角形と五角形の内角(外角)の関係を利用する。 等
イの図形より,条件を変えて学習課題を設定し,把握させる。
学習課題のよくつかめていない生徒へは,補助的質問を行い,確実におさえる。
評価(関心・態度)
ア,イの図形の条件を変えることにより,学習課題を把握し,結果や方法の見通しがもてたか。
方法の見通しがもてない生徒には,考え方の視点を与える。
遅れている生徒に対する指導
これまで習った内容を想起させ,それと結びつけさせる。
進んでいる生徒に対する指導
1通りだけでなく,数通りの方法を考えさせる。
5 180になる理由を仲間の考え方をいろいろ取り入れ,グループで考えてみよう。
1) 5つの角を1つの三角形に集める考え方
b+dとc+eにそれぞれ等しい角を見つける。
c+dに等しい角を見つける。
2) 5つの角を1点(頂点)に集める考え方
平行線の性質(同位角,錯角が等しい)を利用する。
3)三角形と五角形の内角(外角)の関係を利用する。
外角の和の利用
 5つの三角形の内角の和から,五角形の外角2組分を除く。

三角形と五角形の内角の和の利用
 内部にできる五角形の頂点をもとにした三角形5組の内角から五角形の内角を除いたものが星形五角形の頂角2組分である。

4) 極限の考え方の利用

5) 回転角の考え方の利用

3〜4人のグループを組む。
小集団指導を通して,生徒のつまずきを話し合いをしながらみつけ,その程度に応じた援助活動を図る。(教科書,切り抜いた図形,実物投影機,メモ用紙,等)
話し合いの視点と方向
それぞれの考え方の根拠となっているものを明確にする。
考え方の共通点や相違点を明確にする。
解決の見通しの立たない小集団に対する指導
複雑な図形を単純な図形に見せるため,必要な部分の線分を太くしたり,図形を摘出したりする。
角の移動については,教科書を参考にして,解決させる。
一応の解決ができた小集団に対する指導
1通りの解決ができた小集団には,他の方法も考えさせる。
他の方法を行うことにより,答えを確かめさせる。
考えた内容を小集団の皆が説明できるようお互いに教え合い,他の人に説明できるようにさせる。
進んでいる小集団に対する指導
ただいたずらに多くの解決方法を試みさせるのではなく,各解決方法の共通点やよりよい方法を考えさせる。
いつでも使える,単純で明確なものを考えさせる。
星形五角形以外の星形多角形にも挑戦させる。

 評価(考え方,知識・理解)

 考え方の視点に従って多様な考え方で取り組み,仲間に説明できたか。

6 それぞれのグループで話し合った解決の仕方を説明してみよう。
5つの角を1つの三角形に集める考え方から。
5つの角を1点に集める考え方から。
三角形や五角形の内角の和や外角の関係を利用する考え方から。
納得していない生徒には補説する。


7 今日の学習をまとめてみよう。
 星形五角形の先端にできる5つの内角の和は180である。
 その考え方は,三角形の内角の和や外角との関係,角を1点に集めるなどである。
  
8 星形七角形の場合はどうなるだろうか。
星形n角形では?

星形七角形の場合は
180×7−360×2=540
星形n角形の場合は
180×(n−4)
 評価(知識・理解)
 星形七角形の先端にできる7つの内角の和を求めることができたか。

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