1. はじめに 本校は,佐賀県の最東部に位置し,福岡県と隣接しており,生活範囲は広範囲に及んでいる。筑紫山地に囲まれた田園都市であり,福岡までの交通が非常に便利で近年宅地開発が行われ,ベッドタウン的性格ももっている。教育に対する関心は高く,教育施設・設備は充実しており,家庭の教育力は全体的に高いといえる。 今年度(平成17年度)は18クラスで,数学科は少人数加配の1名を含む教諭5名とTT加配講師1名で指導体制をとっている。平成14年度より,少人数授業を開始し,基礎・基本の定着と確かな学力を身につけることができるように,個に応じたきめ細やかな指導の工夫に取り組んできた。平成14年度は22クラスを定数内講師1名と教諭5名で指導体制を取れたが,学級減により平成15,16年度は教諭5名と,他教科の教諭1名が従来の教科の授業をほとんど持たず,数学の授業を持つことによって少人数授業を実施することができた。毎年の学級減により,次年度に少人数授業を実施できるという保障のないまま,系統だった少人数授業を行うことができず,本校では毎年の生徒の実態に合わせて形態を変えてきた。今年度は地教委の考えにより,1年でTT授業を行うことが通達され,2年で少人数授業を実施することにした。 これまでの少人数授業の指導形態の変遷と今年度の完全習得学習を取り入れた習熟度別による少人数授業を,「数と式」の領域で実践事例を挙げて紹介する。 2. 本校における少人数授業形態の変遷 本校では,各年度の生徒の実態に応じて対応を考えていくことにしているが,少人数授業の形態についての基本的な考え方がいくつかある。まず,3学年ともに実施できない場合の優先順位としては1年,2年,3年の順で実施する。これは,1年の基礎的な内容で,よりきめ細かく指導していくべきだという考えがある。また,3年では,学級担任が数学科の教諭になった場合,少人数授業のためにクラス半分程度しか教科指導できなくなることのデメリットが,進路指導を含めた面からみると大きいと考えたからである。次に,原則通年の指導形態をとり,年度途中での指導者の変更やクラス編成は行わないようにしている。これは,環境の変化によるデメリットの方が大きいと考えるからである。教育相談やアンケートの結果からみて,教師が思っている以上に生徒は不安と不都合を抱いていた。しかし,習熟度別による少人数授業を実施した場合のコース変更は,個別の面談を経て年に一度,領域の変わり目に行うことにしている。2年生の場合は,一次関数終了後に行った。 平成14年度から平成17年度までの指導形態を以下の表で説明する。等質の分け方は,出席番号順によるもので,平成14年度の2年のみ小テストを行い,学力が均等になるように分けた。習熟度別による分け方は,生徒の希望を優先し,前年度の成績を考慮して一部面談を行い,コースを決定した。2学級を3クラスに分割することをこれより以降2C3Tと表し,表の中では,効果を○,問題点を●を使って表した。効果や問題点は,アンケートや教育相談,面談などでの生徒や保護者からの意見と教科部会での反省を基に書いている。学力についての記述は,定期テストの個人の結果や地区統一テストでの他校との比較及びNRTでの結果を参考にしている。また,絶対評価の導入により,本校では観点別の評価を数値で表し,通知表にも表記している。学期ごとや学年末の評価及び評定も参考にした。
3. 昨年度の等質に分けた少人数授業の問題点に対する本校の取り組み (H16年度 第1学年) 等質ということで,授業の内容は基礎・基本だけに終わることはなく,個別指導を取り入れても学力差が広がっていった。そのために,定期テスト前に学年全体で小テストを行い,その結果を基に30名程度の生徒に対して,数学科担当教諭全員で補充指導を行った。 出席番号順で分けたため,クラスによっては,多様な考え方を出すことが困難なときもあった。そのために,文字式の単元で,碁石を使った教材の課題学習を2時間,1C2Tで同時に行い,考え方を発表するときに,クラスを越えた意見交換の時間を取り入れた授業を行った。 4. 今年度の習熟度別による少人数授業に対する取り組み (H17年度 第2学年)
5. さいごに 本校での等質に分けた少人数授業は,昨年度(平成16年度)実施の形でほぼ確立している。習熟度別による少人数授業の形態については,前回(平成15年度)行ったときは,2C3Tで3コース開設し,効果とともに,問題点も多かった。今年度(平成17年度)の反省を加えて来年度(平成18年度)の取り組み方を考えていかなければならないと思う。 本校が直面している課題として,近隣の公立の中高一貫校が再来年度開校し,上位の生徒が減少することがあげられる。今年度のCコース(基礎)の生徒が,全体像になることも予想される。どういう形で学力を向上させていくか,特色ある学校づくりを叫ばれている中での課題でもある。一方,基礎・基本の定着が注目されている中で,教師は個別指導を必要とする生徒に目を向けることが多いが,学力が身についている生徒に対しては,適した課題を与えずに,力を伸ばしきれていないと感じる。習熟度別による少人数授業についてのアンケートでも,効果を感じる生徒の割合が少ないのは,Bコース(標準)の方である。今後,教材や指導法の更なる工夫が必要であると思う。 また,少人数授業を模索していく中で,数学の学習というよりも,人間関係の構築をできない生徒やコミュニケーション能力が不足している生徒,学習習慣が身に付いていない生徒に対して,どう向き合っていくかということを考えさせられた。本校では,年間を通してクラス編成や指導者の変更を行わないことを原則としているが,生徒が新しい環境になれるのに,教師が思っている以上の不安と不都合を抱いているためである。少人数であるがゆえに普通学級よりも安心して自分の意見を言えない生徒も多い。そして,それはCコース(基礎)の生徒により多く見られる。自己評価力も数学の力だけの問題ではない。自己評価力が身に付けば,コース希望も適切にできるだろうし,理解していないところを把握して,復習することもできる。自信をもち,学習意欲を高めることにもなる。途中の考え方や思考過程に関係なく,答えだけを求めるようなゲーム感覚で授業を受ける生徒に対して,いかに興味を持たせ,どんな課題を与えればいいのか,課題は尽きない。 少人数授業は,学力差が大きい数学の学習において,効果を上げていると思うが,学級担任が数学科の教諭で,少人数授業のために授業をできない生徒がいるときは,生徒指導上ではマイナス要因となる。また,時間割作成上,削られた授業を補充しようとしても担当者が複数なために,なかなか組み込めない。本校のように3年間継続して少人数授業ができずに,3年生で従来の一斉授業を行う場合,どうしても下位の生徒が授業についていけなくなる。受験期になるため意欲は持つものの,授業での達成感が得られることが少なくなり,あきらめてしまう生徒も出てくる。 このように,さまざまな課題を抱えてはいるが,少人数授業による効果を更に伸ばし,生徒の実態を見据えて,そのときどきに合わせた指導法を考え,教師同士の力量をアップするべく,コミュニケーションを取りながら,日々努力をしていくことが大切であると思う。 |