札幌市立屯田北中学校 教諭 山田 浩之 |
植物の学習は,身近な植物のつくりやはたらきについて理解し,身近な植物のなかまわけができるようになることをねらいとしている。よって胞子植物への学習を進めるにあたり,生徒がこれまで学んできた植物のつくりを元に主体的に活動しながら,コケ植物の特徴を見いだす学習を進めることとした。
私が受け持っている本校1学年は,レディネステストの結果や日常のワークシートから,理科が好きという生徒が学級の7割程度おり,小学校までの基礎的な知識や技能もよく身についている生徒が多い状況であることがわかっている。また,自ら課題や実験方法を考えようとする姿勢が高まってきたと感じている生徒や,他の学び手との交流を通して高めあうことが楽しいと感じている生徒も増えてきている。しかし,一方で小学校から観察してきた,アサガオやタンポポなどは身近なものとして花のつくりや種子についてもよく理解しているものの,学習指導要領に追加されたコケやシダのなかまは,校舎の周りや空き地など至るところに生えているのにもかかわらず,あまり観察したことがない,どんなつくりかよくわからない,身近な植物としてとらえられていないという結果が得られた。
校舎周辺にも簡単に見つけることができるのに生徒の目にはあまり留まらないこれらの植物の学習を進めるにあたり,身近な種子植物への学習を通して科学的に植物を見つめる目を養うとともに,胞子で増える植物に興味関心を持たせる。その結果,生徒がコケの特徴を感得することにつながると考え,研究を進めた。
千歳市の苔の洞門 (希少な苔が多数観察できる場所として知られている。) |
本校校舎北側の防風林 (林内には多数のコケやシダのなかまを観察できる) |
地域性を生かすために,本校近隣に生えている植物であること,そしてそれらが本校付近に生えていることを示す映像を用意することを心がけることとした。これは映像と実物がリンクすることでより身近なものととらえることができるようにするためである。また,生徒がより考えやすい教材となるよう,コケ植物についてはできる限り朔が大きく,植物体そのものの構造がわかりやすいものを用意することとした。シダ植物も同様の観点で付近から採集できるものを選び,教材として用いた。
5月に石狩市の湿原で採集し,それを増やしたものを生徒に与えた。大型のスギゴケのなかまであり,5〜20pまで成長する。朔も大きく植物の構造がわかりやすいのが特徴。自然のものが手に入りにくい状況でも園芸店などから容易に安価で入手できる。
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採集したウマスギゴケをマットで増やしたもの |
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導入でこの植物は何のなかまだろうか,と生徒にウマスギゴケを与えることとした。生徒はこれまでの種子植物の学習で学んでことから,なかまわけをしようとするが,これまで学んできた植物の特徴と異なっていること(根が発達していないなど)が判断でき,「これは何だろう?」という,生徒の素朴な疑問を生む結果につながる。また,コケを見たことがある生徒にとってコケは小さいものや密集して生えるものというイメージがあり,コケ植物の特徴を理解しやすいウマスギゴケの一株を見てもコケであるととらえにくい。このことから,導入の中で生徒の問いを喚起し,生徒のコケやシダへの関心を高め,特徴を調べる方法の発想につながると考えた。
個の問いを明確にし,方法を喚起させることで個の思考力が高まっていく。そして個の思考をグループで討議することで,グループ内の思考力が高まるよう支援することとした。そのためにここでは班内の交流では,個で考えた調べる方法を班で具体化していくことを実施させた。班内の思考をより具体化し明確にするためにホワイトボードを活用し,思考の流れを整理するよう促した。
グループで実験方法を考える際,これまでの植物の学習の中で身に付けた方法から活用できるものを使って調べていくよう促していく。具体的には,葉脈や根がどうなっているのか,種子のようなもの(朔)の断面を観察する,赤い水を吸わせてみる,葉の断面を顕微鏡で観察するなど様々な方法を自ら出せるよう促していく。そのような方法を考えていく場を設定することはこれまでの学習の知識や技能の活用につながり,一層の知識や技能の習得につながっていく。
種子植物について学習したことをまとめていく様子
生徒がグループごとに考えた実験方法はホワイトボードを通して内容がわかるようにしていること,もっとよく知りたいという欲求を高めていくことで自然発生的に交流が生まれていく。その結果,他班の取り組みも理解し,学級全体の課題解決につながっていくため,他の学び手との還流を通して生徒の問題解決能力が高まっていくことになると考えた。
コケ植物の観察や実験を通し,種子植物との違いや共通点を見いだすことができる。
流れ | 習得すべき基礎・基本 | 生徒の活動 | 教師のかかわり |
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つかむ 交流する 調べる |
種子植物の特徴となかまわけの知識 |
この植物は何のなかまだろう? ウマスギゴケを一株受け取り,どの植物のなかまか考える。
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【引き出す】
【コーディネートする】
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考えを表現する力 意見を交流する力 調べた事を記録する力 他者からの情報を自らの学びに生かしていく力 調べた事を記録する力 |
学習課題:コケ植物と種子植物の共通点や違いは何だろうか。 |
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【個の思考を支援する】
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【班交流を支援する】
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【学級交流を支援する】
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課題解決の姿:コケ植物は種子植物と光合成をする植物であることが共通しているが,維管束がない,胞子で増える,根・茎・葉がはっきりと分かれていないという点で異なっている。
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【課題解決を支援する】
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これまでの学習を通して,身近な植物を科学的に見つめることを繰り返してきた結果,知識や思考の深まりがはっきりとみとることができた点が最大の成果である。
本時で用いたウマスギゴケは朔が大きいため,中に入っている胞子の量も多く,胞子で増える植物であるという特徴をつかみやすいことも含め,教材として適切であったと考えている。またこれまでの学習をまとめるという目的でコケ植物を扱うことは生徒にとって価値があると判断することができる。
理科が苦手な生徒にとって過去の学習を振り返り実験方法を考えることや,目の前で観察していることと過去の学びを結びつけることは難しいものであった。班員の協力により取り組めていたものの,発送できない生徒を支援する方法をより具体的に考えていくことが本研究の課題といえる。