兵庫県中学校 A 教諭 |
中学1年生の最初の授業で最も多く行われているのが「植物の世界」の単元である。生徒にも身近で,中学生の科学を学ぶ上では最も理解しやすい単元ではある。教科書の流れでは「花のつくり」をまず学習し,次いで「葉」「茎」「根」のつくりから「果実」に至るまでの流れを学ぶ。
私が進めているのは「種子(果実)」から学ぶ植物の世界である。私自身が種子の不思議に魅了されて,コレクションを多く持っていることもあるが,よくよく考えてみると,われわれの生活に最も身近の存在であることに気付く事ができる。(右写真はテーブル用クロスを熱で溶かしてタネを密閉したもの)
日本人の主食は「米」。稲の種子を食べているわけである。また,パン食隆盛の時代ではあるが,パンも小麦というムギの種子からつくられたもの。豆腐は豆から,ごまもタネ。生徒に発問するとたくさんのタネを食していることに気付く。これだけたくさんの種子を食べているのは,それだけ多くの栄養素をまるでカプセルのように閉じ込めているからではないだろうか。
よく考えてみると,あの小さな一粒から植物のからだが全て作り上げられている。全ての設計図がそこにあると思うだけでも「いただきます」と恵みに感謝しておきたいものであることにも触れておきたい。
顕微鏡の利用が多い1年生の実験の中で,私は双眼実体顕微鏡やハンドルーペを多用する。100倍もあればほとんどの物の本当の姿を観察することができる。
例えばトマトの種。あの赤い熟れた実の中にあるタネは,ほとんど味合われることなく胃袋の中へと消えていく。これをあのヌルヌルからとりだして,乾燥させて観察してみると右の写真のように,トマトからは想像できない毛深さである。
また,タネに限らず見たいものを双眼実体顕微鏡やハンドルーペを用いて観察すると,思いも寄らない発見が多くある。生徒の興味関心を高めるためにも是非用いたいアイテムである。
ここで留意するのは,テストや試験に出るからといってやたら器具の名前を覚えさせようとすることを避ける事である。生徒はいちいちレンズの名前やねじの動きを知らなくても,動かせば体で覚えるものである。私たちが携帯電話を購入して,いちいちボタンの名前を覚えてから操作をすることはほとんどないように,むしろ自然に覚えさせていきたいものである。
班でのグループ作業で「何種類のタネが入っているか競争して調べてみよう!」となげかけると,こぞって生徒はピンセットを動かし始める。器具の使い方をマスターさせるのにもちょうど良いエクササイズとなる。
準備物: | オウムのエサ(大型鳥用),ピンセット,ペトリ皿,白い紙,双眼実体顕微鏡 |
---|
手順① エサをガラス容器などに移し観察
手順② ピンセットで分類対決
手順③ 双眼実体顕微鏡でさらに詳しく観察
エサの中にはヒマワリ,カナリヤシード,白キビ,赤キビ,ヒエ,白エゴマ,大麦,小麦,オート麦,紅花,麻の実,ソバの実などが含まれている。一度のこれだけ多く,それに雑穀を含めて手に入るものは他にない。その種類の多さにも生徒は驚く。
また,ヒマワリのスジ模様が肉眼では直線的であるのに対して,双眼実体顕微鏡で観察すると,曲線的であることにも気付かせたい
タネが散布される方法にはいろいろあるが,カエデやアオギリのようにくるくると宙を舞いおりるもの,オナモミやアメリカセンダングサのように“くっつき虫”として動物に接して運ばれるもの,カキやクロガネモチのように,おいしい果実と一緒に鳥などに運ばれるもの,タンポポやガマのように風の力で遠くまで運ばれるものなどがある。
生徒が楽しんで体験できるものには風による散布のものがよい。
春ならば在来種のものを探すことも出来るが,冬を除く周年ならセイヨウタンポポでも観察できる。綿毛の軽さやタネの様子は是非双眼実体顕微鏡やハンドルーペで観察したい。
また,水辺のガマは秋になるとウインナーのような実を付ける。これをゆっくりほぐすと,まるで生き物のように種子一つ一つがほぐれ,大きなワタのようになり,ひとたび風が吹くと教室中にタネが浮き上がり収拾がつかなくなる。
東南アジアにある熱帯雨林地帯には「フタバガキ科」の種子が見られる。高木から落下するときにくるくるヘリコプターのように降りてくるため,大変興味深い。そこで,模型をつくり,教室の高いところから落とす実験を行う。
右写真のような紙を作る(実線切り取り,点線谷折り)
アルソミトラの種子はハンググライダーのように空中を滑空する種子である。模型は荷造り用の梱包材に硬質スポンジを円形に切り抜き接着剤で付けたものである。
(2)で行ったように,教室の高いところからゆっくり落とすと,教室中を旋回しながら落ちていく様子を観察することができる。