授業実践記録

既習の知識・技能を最大限に活用させ,思考力・表現力を高める取組み

広島県世羅町立世羅西中学校
教諭 福光 裕次

1.はじめに

理科に限らず,最近の教育に最も求められている力が,「思考力・表現力」である。そして,理科という教科は,「思考力・表現力」を高めるための格好の教科である。しかし,思考するためには,その土台となる知識・技能が必要である。その土台をとなる知識・技能を有効かつ適切に活用しなければ,思考にまでは発展しないし,ましてや表現にも至らない。

 

ここでは,既習の知識・技能をフルに活用し,思考する一例を紹介する。

2.実践の内容

(1)単元 「電流の利用」

(2)単元設定の理由

○電気は,わたしたちの生活に欠くことのできないものである。情報化社会といわれる現代はコンピュータや携帯電話をはじめとする様々なエレクトロニクス機器によって支えられており,電気がなくては会話ですら不自由してしまう。そこで,電気の正体を明らかにし,電流の性質や電流の利用について,基礎的・基本的な現象に対する理解を得ることが,本単元「電流とその利用」のねらいである。

○生徒は,電流と磁界に関して小学校においては電気を通すつなぎ方・磁石(第3学年),回路の電流の向き(第4学年),電源装置・電流計の使い方及び電磁石(第6学年)について学んでいる。

○指導にあたっては,基礎的・基本的な事項を活用させるために,生活と電流及び磁界がどのように関わっているかを意識させる取組みを行う。科学的思考力を達成目標の中心に置く授業では,受信(しっかり教える),熟考(じっくり考えさせる),発信(はっきり表現させる)の学習活動(ひろしま学びのサイクル)を取り入れる。また,熟考段階では,集団で思考する場面を言語活動として取り入れる。

①受信段階では,キーワードの発声や小テストによるドリル学習などでしっかり教える。

②熟考段階では,個人が熟考する時間を十分とったり,集団での話し合いを仕組んだりして思考が深まるように工夫する。

③発信段階では,結論先行やナンバリング等を使い,聞き手に分かりやすく表現させるようにする。

言語技術としては,

①表やグラフ,実験結果,現象などの情報を的確に分析すること

②熟考したことをはっきりと説明すること

などの言語技術を活用する。

(3)単元の目標

自然事象への
関心・意欲・態度
科学的な思考 観察・実験の技能・表現 自然事象についての知識・理解

①電気器具のはたらきに興味をもち,進んで発表しようとする。

②消費電力の大きい電気器具を指摘し,そのはたらきについて発表しようとする。

③磁石による現象に興味をもち,進んで調べようとする。

④発電機のしくみに興味をもち,進んで調べようとする。

①電気器具のW数による発熱の違いを説明することができる。

②コイル内の磁界について説明することができる。

③実験結果から,電流が磁界から受ける力の規則性について見いだすことができる。

④実験結果から,電磁誘導について規則性を見いだすことができる。

①電流が磁界から受ける力を調べる実験を行うことができる。

②コイルと棒磁石で電流を発生させる実験を行うことができる。

③検流計を正しく使い,電流を検出することができる。

④手作りスピーカーを制作し,音を鳴らすことができる。

①電力について理解し,知識を身につけている。

②電力と発生する熱量の関係について理解し,知識を身につけている。

③電流がつくる磁界について理解し,知識を身につけている。

④モーターが回転するしくみについて理解し,知識を身につけている。

(4)単元計画(12時限扱い)

①電流のはたらきを調べてみよう。(3時間)

②磁石のまわりにはたらく力(3時間)

③なぜモーターは回るのか(2時間)

④発電機のしくみはどうなっているのか(4時間)(本時4/4)

(太線は思考力育成のための授業)
学習
内容
(時数)
評価の観点 評価
評価規準 評価方法
電流のはたらきを調べてみよう。
(3時間)
電気器具のW数による発熱の違いを説明することができる。 発表・ワークシート記入
電力について理解し,知識を身につけている。 小テスト
電力と発生する熱量の関係について理解し,知識を身につけている。 小テスト
磁石のまわりにはたらく力
(3時間)
磁石のまわりの磁界について説明することができる。 発表・ワークシート記入
電流がつくる磁界の規則性について実験結果から説明することができる。 発表・ワークシート記入
電流がつくる磁界について理解し,知識を身につけている。 小テスト
なぜモーターは回るのか
(2時間)
電流が磁界から受ける力を調べる実験を行うことができる。 行動観察
実験結果から,電流が磁界から受ける力の規則性について見いだすことができる。 発表・ワークシート記入
発電機のしくみはどうなっているのか
(4時間)
実験結果から,電磁誘導について規則性を見いだすことができる。 発表・ワークシート
直流と交流の違いについて理解する。
(発展的な内容)
発表
発電機によって電気が発生するしくみについて説明できる。 発表・ワークシート
電磁調理器で発熱したりするしくみについて説明できる。
(発展的な内容)…本時
行動観察・制作物

(5)本時の学習

①目標

発電機によって電気が発生したり,電磁調理器で発熱したりする理由についてじっくり考えさせ,説明できるようにさせる。

②準備物

手回し発電機,電磁調理器,なべなどの容器(鉄・銅・アルミ・ガラス),アルミホイル,豆電球,モーター,プロペラ,導線,検流計,交流電流計,実物投影機,フラッシュカード,ホワイトボード

(6)学習指導過程

●ねらい−まとめ ■言語活動 ★発声 ▲ネームプレート使用 □ドリル
ひろしま学びのサイクル

段階 学習活動 指導上の留意点 評価規準 評価方法
生徒の
学習活動
主な発問と予想
される生徒の反応
導入
(五分)

1 前時までの復習重要語句の確認

□前時及び前前時の復習をしよう。

  • モーターの中にはコイルと磁石,(整流子,ブラシ)がある。
  • 電磁誘導
  • 誘導電流
  • 磁界が変化すると電磁誘導が起こり,誘導電流が発生する。
  • 交流
  • 交流は絶えず+とーが変化する。
  • 交流電流で発生した磁界は絶えず変化する。
  • 電熱線に電流を流すと発熱する。

▲挙手をさせ,発表させる。

★全員で発声させる。

受信
   
展開
(四十分)

3 電磁調理器のしくみを考える。
(40分)

●電磁調理器でなぜ加熱調理ができるのだろうか。

  • 電磁調理器にはコイルが入っている。
  • コイルに交流の電流を流すと,絶えず磁界が変化する。
  • 電磁調理器の中のコイルの磁界が変化すると,電磁調理器の上にあるなべに誘導電流が流れる。
  • なべの中に誘導電流が流れるとなべの抵抗によって熱が発生する。
  • 熱が発生すると加熱調理ができる。

○なべに実際に誘導電流が発生しているか確認する。

○なべによっては熱が発生しないものもあることを確認する。

  • 発熱するには,ある程度の抵抗の大きさが必要である。

○教卓の回りに集合させ,電磁調理器による現象を見せる。

○自分の席に着かせ,自分の考えをワークシートに書かせる。(個人思考)3分


熟考

■班で話し合い,班の考えをもつ。4分
(集団思考)


発信

■再度,教卓の回りに集合させ,発表したい生徒に説明させる。

全体に聞こえるような大きな声で発表するように指導する。

○1つ1つの事項について実際に観察したり,実験し生徒にゆさぶりをかけながら確認をしていく。(交流電流計でなべの誘導電流を確認,銅の容器・アルミニウムの容器・ガラスの容器では熱が発生しないことを確認)

○電磁調理 器で発熱するしくみについて説明できる。

B規準
「電磁調理器のプレートになべを置くと,電磁誘導によってなべに誘導電流が流れ,熱が発生する。」

○発表内容

○ワークシートの記述・発表内容

終末
(五分)

4 まとめ

●電磁調理器でなぜ加熱調理ができるのか,「電磁誘導」「誘導電流」という言葉をどちらも使ってワークシートに書こう。

●自己評価もつけさせる。

○宿題の確認

   

(7)事前及び事後の評価問題

「電磁調理器では火がないのになぜ加熱調理ができると思いますか。そのしくみを説明しなさい。」

A規準

B規準

C規準

(8)まとめ

今回は,電磁調理器による加熱調理の謎に生徒が挑むという形で,思考力・表現力をねらいとする授業を行った。授業展開に「ひろしま学びのサイクル」(しっかり教える,じっくり考えさせる,はっきり表現させる)を活用し,思考を深め,表現する機会を設定した。「しっかり教える」の段階では,モーターのしくみ,電磁誘導,交流電流の特徴,電熱線による発熱等,本時の授業の思考に必要な知識を効果的に復習し,思考を促した。
「じっくり考える」の段階では,火がないのになぜ加熱調理できるのかを,個人思考→集団思考の流れで推論させた。「はっきり表現する」の段階では,自分たちが考えたことを既習の知識を基に説明することができていた。今回の取組みは,既習の知識・技能を活用し,思考力・表現力を高める取組みとして優れた取組みであったといえる。

教卓の電磁調理器を見ながら,思考しているところ

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