岡山県立倉敷天城中学校 蒲生 信博 |
中学校では,メンデルの遺伝の法則を1組の対立形質から,優性形質と劣性形質の表現型の分離比,3:1を導き出す。これを発展させて2組の対立形質に着目して考えると,それぞれの優性形質と劣性形質の表現型の分離比は9:3:3:1となる。しかし,難しく見えるこの分離比も実は3:1が基本となっている。これを,発展的な学習として展開してみた。
科学研究では,実際に行なえないものはモデルを使って実験する。例えば「黒い車は黄色の車より事故が多い」といった仮説をたて,研究するには事故車を調査する以外では,実際に実験をすることは困難である。そこで同じ大きさの黄色の板と黒色の板をどれくらい遠くから認識できるかなど,モデルを使って実験することになる。
遺伝の法則も実際に交配させて結果をみるには時間がかかり,学校現場ではなかなか検証できない。そこでモデルを使って二遺伝子雑種のF2の分離比を求め,さらに,それがどのような配偶子ができることによる結果なのか調べてみることにした。
「2組の対立遺伝子は,お互いに独立して配偶子に分配される」というのが,独立の法則である。
2組の対立形質を「形」(丸A,しわa),「色」(黄B,緑b)とした場合,F1(AaBb)の配偶子の遺伝子型の分離比はAB:Ab:aB:ab=1:1:1:1となる。
よって,F2の遺伝子型・表現型は次の表のようになる。
AB | Ab | aB | ab | |
---|---|---|---|---|
AB | AABB〔丸・黄〕 | AABb〔丸・黄〕 | AaBB〔丸・黄〕 | AaBb〔丸・黄〕 |
Ab | AABb〔丸・黄〕 | AAbb〔丸・緑〕 | AaBb〔丸・黄〕 | Aabb〔丸・緑〕 |
aB | AaBB〔丸・黄〕 | AaBb〔丸・黄〕 | aaBB〔しわ・黄〕 | aaBb〔しわ・黄〕 |
ab | AaBa〔丸・黄〕 | Aabb〔丸・緑〕 | aaBb〔しわ・黄〕 | aabb〔しわ・緑〕 |
すなわち,表現型の分離比は=9:3:3:1
これをモデルを使って実験し,その結果がメンデルの法則から予想される理論通りになるか,本校生徒120名(後に示すデータは80人分)を4人ずつのグループに分けてデータを集めてみた。
青色のカード(A),白色のカード(a),黄色のカード(B),緑色のカード(b)と表記して,たくさん用意しておく。
①4人で1グループをつくる。2人が雄,2人が雌の役割をする。雌雄それぞれ,1人がエンドウの種子の形に関する遺伝子を担当し,1人が子葉の色に関する遺伝子を担当する。
②遺伝子モデルは次のようにする。
③1人につき,優性遺伝子4個,劣性遺伝子4個,の合計8個をとり,ポケットに入れる。
④ポケットの中で遺伝子モデルをよく混ぜ(無作為抽出),4人が同時に1個ずつ遺伝子モデルを出し合う。その結果を表に記録する。
⑤出し合った遺伝子モデルを戻し,よく混ぜて(無作為抽出)方法Cを48回繰り返す。
※48は9+3+3+1=16 16の倍数である。
次に使用したワークシートを示す。
F1の遺伝子型の分離比は,ほぼ25%ずつの1:1:1:1であった。さらに,同時に出した4枚のカードから表現型も記録して集計をしてみたところ次の表のようになった。
※表はあるクラスのデータである。
①〜⑩は班名で,列は,一番左の列から
AB〔丸・黄〕Ab〔丸・緑〕aB〔しわ・黄〕ab〔しわ・緑〕を表している。
仮説通り,メンデルの遺伝の法則はF1,F2ともに,モデルで証明できた。
また,それぞれの班は48回で,一見たくさんのデータを取ったように感じるが,「表現型の分離比データ」の表を見ると9:3:3:1の理想に遠い班もある。しかし,48回×10班の480回のデータでみると9:3:3:1に近い分離比が出ている。データを増やすことでより理想値に近づくことができた。
ここまで,中学校では学習しない対立する2組の遺伝子をあつかってきたが,1組ずつに注目してみると実は,中学校教科書であつかう3:1になっている。
二遺伝子雑種の交雑で得られる表現型の分離比は
〔丸・黄〕:〔丸・緑〕:〔しわ・黄〕:〔しわ・緑〕=9:3:3:1である。
これを対立する「形」の形質だけに注目してみると,丸:しわ=12:4となり,すなわち3:1である。実験結果でも36.1:12.5でほぼ3:1になっている。同じように,対立する「色」の形質に注目してみると,緑:黄=12:4となり,すなわち3:1である。実験結果でも35.1:13.5でほぼ3:1になっている。
一見難しそうに見えるが,「形」(丸としわ)と「色」(黄と緑)の1つの対立形質だけに注目してみると,やっぱり中学校で学習する,3:1になっている。