授業実践記録

力表示器「Fi-Cube」を活用した授業実践 〜中学生の力概念の形成のために〜

栃木県栃木市立栃木西中学校
古平 暁子

1.はじめに

力は,中学校理科の中で生徒たちが形成しにくい概念の一つである。今年度6月から7月にかけて,現在の中学生の実態を把握すべく,「力に関する調査」を作成・実施した。そして,生徒の素朴概念を分析し生徒の理解の傾向を考察した。力に関する調査結果からわかったことは,「ほとんどの中学生は,力とは何か?ということが根本的にわかっていない。」ということであった。授業においては,「力は押したり,引いたりするものであり,決して物に宿る(or物が力を持つ)ことはない」ということを,初めに明確にする必要性を感じた。

しかし,力は目で見ることができない。そのため,力は本当に働いているのかどうかよくわからずに,理解を困難にしているようである。

どんな力がいつ働いているのか。「力を目で見えるようにしよう」という装置が宇都宮大学で開発された,力表示器「Fi-Cube」である。

そして,今回この「Fi-Cube」を活用した授業実践を行った。

2.「Fi-Cube」の概要

図1.「Fi-Cube」

「Fi-Cube」は,加えられた力をLEDの点灯で示し,本来目に見えない「力」を可視化する装置である(図1)。箱の側面と上面に付いているLEDによって,力の方向と大きさを3次元的に表すことができる。

例えば,「Fi-Cube」を静止した床面に置くと,縦に並んだ10個のLEDが,中心から下に向かって4つ,上に向かって4つ点灯する。これらの光は,それぞれ重力と垂直抗力を表す。また,「Fi-Cube」に前後左右から力を加えて加速すると,その方向に光が伸び,力が働いたことを表示することができる。

○「Fi-Cube」の表示の意味

「Fi-Cube」には,X,Y,Z軸方向の力を表示するようなLEDが付いている。中心からどちら側に向かって力が働いているかを示す。点灯しているLEDの個数は力の大きさを表す。

3.実践事例I -「Fi-Cube」を1年生に活用した授業 -

(1)単元:中学校第1学年第1分野「力と圧力:力の働き」

(2)概要:「Fi-Cube」で力を確認する活動を通して,「力がいつ働くか」「力と運動の関係とは何か」等の力の概念を養うことをねらいとする。

その際,以下の2つの実験(実験1「水平面上」,実験2「自由落下・投げあげ」)を行う。

・アリストテレスとニュートンの意見の違いを理解し,どちらの説が正しいかを推論し,実験1を行う。
アリストテレス(A):「物の本性は静止であり,運動している物体には絶えず力が働いている」
ニュートン(N):「力が働くと,運動の様子が変化する」

実験1「水平面上」より,生徒に理解してほしいことは以下の2つである。

①運動が変わらないときには,力は働いていない。また,力がつりあっているときには,力が働いていない場合と同じであるということ。

②力がなくなると止まるのではなくて,力が働くから止まるということ。

実験2「自由落下・投げあげ」も行い,物体には必ず重力が働いていて,支えるものがあるときには抗力が働く(手で支えている時,床の上に置いてある時,等)ことを理解させる。その際,次のBにも気づかせる。

③力の向きと,運動の向きは同じではないということ(上向きに運動しているからと言って,上向きに力が働いているわけではないということ)。

(3)展開(1年生用)

具体的目標 学習活動 教師の支援

・「力とは,何か?」ということを考えることができる。

1.「力とは,何か?」ということを考えながら話を聞く。

・作用・反作用(力の本質の一つ)の具体例をあげ,適宜発問する

・アリストテレスの考え方とニュートンの考え方を理解し,どちらが正しいか話し合うことができる。

2.アリストテレス(A)「物の本性は静止であり,運動している物体には絶えず力が働いている」
ニュートン(N)「力が働くと,運動の様子が変化する」という違いを理解する。

・「運動し続けるには,ずっと自転車をこがなければいけない。」といった具体例をあげ,理解を促す。

 

3.(A)と(N)のどちらが正しいか,各自予想を立て,班で議論する。

・力を目で見る方法を理解させる。

・「Fi-Cube」の説明。
起動方法を理解し,起動することができる。

4.「Fi-Cube」の説明を聞く。
起動方法を理解し,起動する。
(「Fi-Cube」を回転させたり,押したり引いたりさせて力の表れ方を確認する。)

・起動時には,動かさないことを説明する。

・台車ではなく,「Fi-Cube」 を止めるように説明する。

・協力して実験を行うことができる。<4人一組>

①運動が変わらないときには,力は働いていない。また,力がつりあっているときには,力は加わっていないということを理解する。力がなくなると止まるのではなくて,力が働くから止まるということを理解できる。

5.実験1「水平面上」
・台車にのせた時の運動
・台車なしの運動

①運動が変わらないときには,力は働いていない。また,力がつりあっているときには,力は新たに加わっていないということを理解する。

・実験1のまとめを行い,理解を促す。

②力がなくなると止まるのではなくて,力が働くから止まるということを理解できる。

②力がなくなると止まるのではなくて,力が働くから止まるということを理解する。

・観察するポイントを説明する。

・協力して実験を行うことができる。<2人一組>

③力の向きと,運動の向きは同じではないということが理解できる。

6.実験2「自由落下・投げあげ」

③力の向きと,運動の向きは同じではないということ(上向きに運動しているからと言って,上向きに力が働いているわけではないということ)を理解する。

7.アンケート記入

・実験2のまとめを行い,理解を促す。

(4) 実験時の注意事項

I 実験1:「水平な机上での運動」

モード:
1倍
その他:
4人一組(3人か4人一組)
回転させないようにする

(演示「シャーッシャーッ」)滑走台を使ってこの上で,どういう力が働くか観察
次に,台車を使わずに滑走台の上で滑らせる

机間指導時のアドバイス

  • 力は,いつ働いたのだろうか? ①
  • 手で押したとき,押した方向に力が働いている点を観察 ← この力は,手が押した力
    (手から離れると,力が働かない点) → 手で押したときだけ力が働く
 

台車にのせた時の運動

・手から離れた後,横方向には力は働いていない

・縦方向には力はつりあっている

・力が働いている時 ⇒ 加速する

⇒ニュートンの考え方(N)の方が正しい!

・力が働いていない時 ⇒ 等速直線運動

⇒ニュートンの考え方(N)の方が正しい!

走行中では力がつりあっている

力がつりあっている時は,台車の運動はどうなっていたといえるか?
→ 速さは変わっていないはずなので,それは等速直線運動している

台車なしの運動

台車がないと,「Fi-Cube」は,滑走台の上ですぐ止まった
→後ろ向きの力が働き続けるから

 

力が働くと運動の様子は変わる
力が働かないと運動の様子は変わらない
つまり,止まってしまうのは力が働くから

力がなくなると止まるのではなくて,力が働くから止まる
→ 運動と反対方向の力が働く

実験2に入る前の流れ
下向きに重力が働いていることと,上向きに垂直抗力が働いていることを確認した。
※垂直抗力,「机が支える力」

今は,「手が物体を支える力」←持ち上げながら
(ということは,)手を放したらどうなる?本当にそうだろうか?
(ということで,) 「Fi-Cube」を自由落下させてみよう!

II 実験2:「自由落下&鉛直投げあげ」実験時の注意事項

モード:
1倍
その他:
2人交代で行う。
回転させないようにする
椅子を机の中に入れ,起立して実験を行う

(演示:しゃがみこみながら)上から落ちている間にどうなっているか観察。
立って行う。高い位置から(落として),軽く受け止める。
自分の方を向けて,自分で行う。
※ほかの人がやっているのを見てもよくわからない。

 

机間指導時のアドバイス

  • 周囲に気を付けて,まっすぐ落とす
  • 落ちている間,力が働き続ける点を観察 ← 重力はいつも働き続ける
    (手から離れると,力が働き続ける点) → 重力だけが働いている

力が働いている方向に,必ず運動するというわけではない

(5)結果

自由落下

実験中の生徒の様子(鉛直投げ上げ)

鉛直投げ上げ

水平な机上での運動

(6)生徒の感想

4.実践事例II −「Fi-Cube」を3年生に活用した授業 −

(1)単元:中学校第3学年第1分野「運動の規則性:力と運動」

(2)展開(3年生用)

具体的目標 学習活動 教師の支援

・「力とは,何か?」ということを考えることができる。

1.「力とは,何か?」ということを考えながら話を聞く。

・作用・反作用(力の本質の一つ)の具体例をあげ,適宜発問する。

・アリストテレスの考え方からニュートンの考え方への違いと移り変わりを理解できる。

2.アリストテレス「物の本性は静止であり,運動している物体には絶えず力が働いている」
ニュートン「力が働くと,運動の様子が変化する」という違いを理解する。

・「運動し続けるには,ずっと自転車をこがなければいけない。」といった具体例をあげ,理解を促す。

・力を目で見る方法を理解させる。

・「Fi-Cube」の説明。
起動方法を理解し,起動することができる。

3.「Fi-Cube」の説明を聞く。
起動方法を理解し,起動する。
(「Fi-Cube」を回転させたり,押したり引いたりさせて力の表れ方を確認する。)

・起動時には,動かさないことを説明する。

・観察するポイントを説明する。

・協力して実験を行うことができる。<2人一組>

①力の向きと,運動の向きは同じではないということが理解できる。

4.実験1「自由落下・投げあげ」

①力の向きと,運動の向きは同じではないということ(上向きに運動しているからと言って,上向きに力が働いているわけではないということ)を理解する。

・実験1のまとめを行い,理解を促す。

・協力して実験を行うことができる。<4人一組>

②運動が変わらないときには,力は働いていない。また,力がつりあっているときには,力は加わっていないということを理解する。

③力がなくなると止まるのではなくて,力が働くから止まるという事を理解できる。

④力が働き続けるとどんどん速くなるということが理解できる。

5.実験2「水平面上」
・台車にのせた時の運動
・台車なしの運動

①運動が変わらないときには,力は働いていない。また,力がつりあっているときには,力は加わっていないということを理解する。

②力がなくなると止まるのではなくて,力が働くから止まるということを理解する。

・台車ではなく,「Fi-Cube」 を止めるように説明する。

・実験2のまとめを行い,理解を促す。

6.実験3「斜面上」
・斜面上の運動 ・(斜面)投げあげ運動

③力は押したり引いたりすることであるということと,力が働き続けるとどんどん速くなるということを理解する。

7.アンケート記入

・斜面はストッパーがある方を下にするように説明する。

・実験3のまとめを行い,理解を促す。

力が働かないときは,等速直線運動することについてもふれる。

(3)実験時の注意事項

i 実験1「自由落下&鉛直投げあげ」:1年生の実験2と同じ

ii 実験2「水平な机上での運動」:1年生の実験1と同じ

iii 実験3「斜面上」

モード:
2倍
※滑走台のストッパーがある方を下にして斜面を作る
その他:
4人一組(3人か4人一組)で行う
椅子を机の中に入れ,起立して実験する
          

(演示)滑走台の斜面を使用し,この上でどういう力が働くか観察
ストッパーに「Fi-Cube」をぶつけない。必ず手前で,手でキャッチする。
手で止める時,台車を止めるのではなく,「Fi-Cube」を止める。

机間指導時のアドバイス

  • [台車]手で支えている時と,手を離した時の力のちがい。
  • 力は,いつ働いたのだろうか?
  • 手で押したとき,押した方向に力が働いている点を観察 ← この力は,手が押した力 (手から離れると,力が働かない点) → 手で押したときだけ力が働く

斜面上の運動

手を離すと,光が消えた。→ 消えた光=手が支えている力
※手で支えているときは,力はつりあっていた。
手が支えている力がなくなると,斜面に沿って下向きの力だけが働き続ける
→下向きに(斜面に沿って)どんどん速くなるということ
※力が働き続けるとどんどん速くなる

(斜面)投げあげ運動

手が接しているとき(投げあげているとき)だけ,斜面上向きの力が働いた。
※運動方向に力が働いているわけではない。

◎「Fi-Cube」を使った実験でわかることは何か?
→「力がいつ働くか」

(4)結果

I 実験1「自由落下&鉛直投げあげ」 : 1年生の実験2の結果と同じ

ii 実験2「水平な机上での運動」 : 1年生の実験1の結果と同じ

iii 実験3「斜面上」

(5)生徒の感想

実験中の生徒の様子(斜面)
実験中の生徒の様子(水平面上)

5.授業を振り返って

今回の授業実践を通して,生徒たちは「力がいつ働いているのか」「どのような力が働いているのか」自分たちの目で見ることができた。力の働きをイメージすることはとても難しいことであるが,「Fi-Cube」の活用によって生徒たちに実感してもらうことができてよかったと思う。これらのことは,生徒たちの事後調査にも表れていた。今後も単元の中での「Fi-Cube」活用授業の位置づけを考案し,授業実践を通して明確にしていきたい。
「Fi-Cube」の詳細については,Webサイトhttp://rikyoa.sci.utsunomiya-u.ac.jp/Fi-Cube/を参照してください。

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