授業実践記録

地域の自然の教材化 〜砂の観察から探る大地の成り立ち〜

山形大学附属中学校
土井 正路

1.はじめに

火成岩の学習をすすめていく際に,身近な場所で見られる地学的な素材を用いて,学習を進めていけないか,ということを考えました。本校近くには,最上川の支流があります。この川に見られる転石には,中学校で学習する代表的な火成岩や堆積岩が多く,かんたんに採集することができます。ただし,岩石の同定を行うだけの活動では,指導者の岩石に対しての知識の乏しさなどからも,生徒たちに地学の魅力を十分に伝えられないのではと思いました。そんな中,部活動指導でグラウンドに立ったとき,何気なく手に取った土をよく見ると鉱物が確認できました。砂を調べることで,その供給源となっている川の上流部の地質がある程度,特定できることに気がつきました。新指導要領では代表的な火成岩と造岩鉱物を扱うことになっています。正に学習したことを用いて,科学的な解釈をもとに考察するような学習活動が行えると思いました。

そこで県内で採取できる海岸砂と川砂を用意し,そこに含まれる鉱物から火成岩を推定するような学習をすすめていくことにしました。

2.単元名

2分野上「大地の変化」 火成岩

3.生徒の実態

山形県には,蔵王山や月山といった火山が存在します。しかしながら,自然災害の少ない地域であるため,普段の生活の中で地震や火山の脅威を感じることは少ないようです。

火山・岩石の学習についての興味・関心の度合いを調査すると,他の分野の学習に比べると興味が低いようです。その理由として,直接体験する活動が少ないこと,身近に感じることが困難であることがあげられます。火山,岩石に関してアンケート調査を行ったところ,「知っている火山をあげてみよう」という質問に対しては,ほとんど生徒が「富士山」と答えており,地元の山を答えた生徒はほとんどいませんでした。自分の住んでいる地域の自然について,ほとんどの生徒が関心をもっていないことがわかりました。

4.指導のねらい

地学領域の学習は,自然の事物・現象を巨視的にとらえていく視点を与えてくれます。例えば河原の石,グラウンドの砂といった身近な事物も,地学的なアプローチをしていくことで,その成因や地球内部のエネルギーの存在のことまで気付かせていくことが可能です。また,「大地の変化」の学習を通して,自分の住んでいる場所の地下の構造や日本列島の成り立ちなど,地質に関した事象に関心を持たせることは,自然災害から身を守ることにもつながっていきます。

そこで,本単元では「火山に関する事物・現象が身近な地域の自然環境や実生活につながっていることに気付かせることと大地の変化を時間的,空間的なスケールでとらえる視点を与えること」を大きなねらいとして指導を行いました。

5.授業の実際

@学習計画(9時間扱い)

学習活動(時数) ☆目指す生徒の姿
○教師の手だて

1.地球の内部構造について知り,火山の映像資料を視聴する。(1)

☆地球の内部がどのようになっているかに興味をもつことができる。

○ひとり一人に地球の中がどうなっているのか,図でイメージを描かせる。

○過去に起こった地震や火山活動の映像記録を視聴し,これから学習することに関心をもたせる。

☆県内にある火山を例をあげて指摘することができる。

○火山活動に関連する地学的な現象として,温泉の存在についてふれる。

2.火山噴出物について知るとともに,火山は3つのタイプに分かれることに気づく。(1)

☆火山噴出物の種類を適切な用語を用いて説明することができる。

○小学校での火山の学習を想起させるとともに,最近起こった火山の噴火についてふれる。

○火山噴出物の実物を提示し,目的にあった観察方法を考えさせる。

3.火山の形とマグマの性質の関係について考察する。(1)

☆火山の形がマグマの粘性によるものであることを,モデル実験を行うことを通して説明することができる。

○粘性のちがうスライムや小麦粉を水に溶いたものなどを用いた火山モデルを作らせる。

4.火山灰が鉱物からできていることを確認し,その形や色などから,火山灰の特徴をまとめる。(1)

☆適切な道具を用いて,火山灰の観察ができ,特徴的な鉱物を有色鉱物と無色鉱物に分類できる。

○代表的な鉱物のサンプルや資料を準備し,提示する。

5.火成岩を組織や造岩鉱物の違いから分類する。(2)

☆火成岩を分類した観点を他の人にわかりやすく伝えることができる。

○自由な発想で,火山岩3種類,深成岩3種類をグループごとに分けさせ,その根拠を発表させる。その後,色と造岩鉱物の大きさで分類することに気づかせる。

☆火成岩は,火山岩と深成岩に分けられることを観察結果から指摘することができる。

○火成岩の薄片標本を,偏光板をつけた解剖顕微鏡で観察させ,組織のちがいをより明確にする。

6.火山岩と深成岩の組織の違いとその特徴を調べるとともに,マグマの冷え方との関連を考察する。(1)

☆火成岩のつくりがマグマの冷え方のちがいで異なることを,モデル実験の結果をもとに推察することができる。

○サリチル酸フェニルとチオ硫酸ナトリウム(ハイポ)を準備し,一人一実験とし,話し合いを班単位で行わせる。

7.砂と火山灰を比較して観察し,特徴をまとめる(2)

☆火山灰に含まれる鉱物と砂に含まれる鉱物を比較して観察することで,それらの成因がマグマに由来することを見いだすことができる。

○山形県で産出する海岸砂,川砂,山砂などを準備する。

☆火山灰や海岸の砂,川砂などに含まれる鉱物を,ルーペなどを用いて観察し,鉱物を分類することができる。

○砂を構成する鉱物を有色鉱物と無色鉱物に分け,もととなった火成岩を推定させる。

A授業の概要

学習活動6について

教材について

マグマの冷え方については,ミョウバンやサリチル酸フェニルを用いたモデル実験が多く行われています。ただし,ミョウバンは結晶化するまで時間がかかってしまうこと,サリチル酸フェニルは後始末の問題があります。そこで,水のカルキ抜きとして使用されているチオ硫酸ナトリウム(ハイポ)を用いて観察・実験を行いました。ハイポは水に溶けやすく,融点は50℃くらいです。扱いやすく,固まるまで常温で10分くらいです。

・目標

(1)火成岩のつくりがマグマの冷え方のちがいで異なることを,モデル実験の結果をもとに推察することができる。

・過程

学習活動 教師の支援・指導上の留意点 求める生徒の姿

1.本時の学習課題を確認する。

火山岩と深成岩のつくりがちがうのはなぜだろう

○斑状組織と等粒状組織のスライドを提示し,違いに気づかせる。

○マグマの成分が同じ火山岩と深成岩のサンプルを準備する。

○既知の学習内容を踏まえて,火山岩と深成岩の組織のちがいについて興味をもつ。

○組織の違いが冷え方の違いであることを予測できる。

2.マグマの冷え方により組織が異なることを調べる方法を考える。

○化学分野の再結晶の学習内容を想起させる。

○モデルとする物質を生徒が考えることは難しいため,説明する。

○マグマのかわりになる物質を結晶化させればよいことに気づく。
(モデル実験の考え)

3.物質を選択し,各個人ごとに実験を行う。

○2種類の物質を準備し,各班で2つの記録がとれるようにする。

○加熱しすぎるとうまく結晶が出ないため,説明を十分行う。

○うまく結晶が見えない場合,偏光板を使うことを知らせる。

○顕微鏡の操作を正しく行い,気づいたことをまとめることができる。

4.実験結果を発表し合う。

○個人で行った実験の結果を班員全員で共有させる。

○互いの結果を聞き,結晶の大きさは冷え方のちがいであることに気づくことができる。

5.モデル実験の結果から火成岩の作りのちがいについて考察する。

○モデル実験の結果からわかることをもとに,火成岩をつくる造岩鉱物の大きさと組織のちがいを,マグマの冷え方と関連づけて推察させる。

○マグマの冷える場所のちがいが指摘できるようにさせる。

○火成岩のつくりはマグマの冷え方によってちがうことを推察することができる。

・授業を終えて

前時には,火山岩と深成岩のちがいについての学習を行っています。学習の流れとしては,以下の通りでした。

・ 典型的な火成岩(6種類)を,直接観察する。

・ 自分なりの観点を決めて,分類してみる。(色,質感,含まれる鉱物の大きさ,さわった感じ,光沢など)

・ 班の中でその観点のどれがより科学的な分け方なのか話し合う。

クラス全体で,全員が納得する観点を決める。その中で組織(鉱物のようす)という点に気づかせました。粒の様子が分かりにくい場合,偏光板を使用すると,よりはっきりすることにもふれています。

今回の授業では,火成岩(火山岩・深成岩)のでき方のちがいは,マグマの冷え方のちがいであることを予測し,検証することです。全単元1分野の化学分野で学んでいる「結晶の大きさのちがい」に気づき指摘する生徒もいました。

観察は解剖顕微鏡を用いました。顕微鏡では倍率が高すぎて,ピントをあわせるまでに時間がかかりすぎると考えたからです。解剖顕微鏡の視野の下で,結晶ができている様子は神秘的です。観察する時間をたっぷりとることも良いのかもしれません。
ハイポを融解させる時,ガスバーナーを使うと早いのですが,あまりにも温度が上がりすぎて固まるまで時間がかかります。時計皿などに入れて湯浴にした方がよいようです。

学習活動7について

・目標

(1)火山灰や海岸の砂,川砂などに含まれる鉱物を,ルーペなどを用いて観察し,有色鉱物と無色鉱物に分類することができる。

(2)火山灰に含まれる鉱物と砂に含まれる鉱物を比較して観察することで,それらの成因がマグマに由来することを見いだすことができる。

・学習過程

学習活動(学習形態) ・目指す生徒の姿
*生徒の発言
教師の支援・留意点

1.火山噴出物とは,どのようなものであったか,例をあげて指摘する。

・ 火山噴出物は,地下のマグマが噴き出されたものであることを説明することができる。

○前時までの学習を想起させる。

2.火山灰と海岸砂を観察し,本時の学習課題を知る。

・ 砂と火山灰に含まれる粒の特徴を指摘することができる。

*火山灰の方が小さい粒でできているようだ。

*ほとんど違いはないようだ

○砂と火山灰の実物を用意し,形の違いがわかるようにスクリーンに提示する。

海岸の砂と川の砂には、ちがいがあるのだろうか。火山灰と比べてみよう。

3.課題について,自分の考えを述べる。

・ 課題について,科学的な概念を用いて予想をもつことができる。

*海岸の砂は波でけずれるので角がとれて丸くなっている。

*川の砂は流れてくるときに角がとれて丸くなっている。

○小学校での学習を想起させ,川が海につながっていることや流水のはたらきについてふれる。

○粒の形はほとんど変わらないこと,見た目ではほとんど区別がつかないことにふれる。

4.火山灰と砂粒に含まれる鉱物を観察する。

庄内海岸の砂

・ 火山灰と砂を,ルーペなどの器具を正しく操作して,ふくまれている鉱物を無色鉱物と有色鉱物に分類することができる。

・ 観察した結果を,他の人にわかりやすく伝えることができる。

*川砂には長石と石英がふくまれていた。また,黒雲母も見られた。

*砂にも鉱物がふくまれている。火山灰と違わない。

○砂は,石英,黒雲母など代表的な鉱物が含まれているものを用意する。

○無色鉱物と有色鉱物の量の割合から,火成岩の名前がわかることに気付かせる。

馬見ヶ崎川中流付近の砂

5.砂は何からできているのかを推察する。

・ 砂を作っている粒の大部分は鉱物であることから,火成岩が関係していることを,科学的な用語を用いて説明することができる。

*川砂には長石,石英,黒雲母が多かったので,花崗岩か流紋岩が上流にあるのではないか。

*海岸の砂には長石,石英が見られた。このことから砂は火成岩(マグマ)からできた。

○鉱物の名前を同定させるために,前時に作ったプレパラートや資料集を参考にさせる。

教材について

双眼実体顕微鏡の写真

倍率は同じです。
川の砂 海岸の砂

授業でねらったこと

(1)科学的根拠をもとに,砂に含まれる粒には鉱物が多く含まれていることを説明しようとしているか。

具体的な場面として

・ 学習プリントや前時に作成した鉱物の標本などを参考にして,具体的な鉱物名を指摘しているか。

・ 他の人が納得しない場合,言葉だけでなく,実物を観察させるなどしているか。

→海岸砂,川砂ともに鉱物以外に岩石片も含まれています。「何となく,○○という鉱物に見える」ではなく,確信がもてなければ根拠としては用いることができないことにふれていきました。

(2)砂に含まれる鉱物の種類を知ることで,基となった火成岩を推察することができたか。

具体的な場面として

・ 前時に学んだ火成岩と鉱物の関係の表を参考にしようとしているか。

→含まれる鉱物すべての名前が同定できなくても,全員が確認することのできた鉱物,有色鉱物と無色鉱物の割合から基となった火成岩を考えることができることに気付かせていきました。

スライドガラスに両面テープをはり,パンチで穴を開けた黒い台紙を置く。真ん中に目的とする鉱物をはりつける。
(石英・長石・雲母) → 花崗岩を砕く
(輝石) → 地域で採集した火成岩を砕く,市販教材も可能
(角閃石)  → 安山岩を砕く
(カンラン石) → 市販教材から

マイプレパラート

6.おわりに

地域はちがっても,川の砂や海の砂は採集できると思います。近くになければグラウンドの砂でも活動が可能です。赤土や鹿沼土を用いた実践はこれまでもありましたが,自分の住んでいる地域の川や海の砂がどこからきたのか,考えることは非常にダイナミックな内容です。

「たかが砂」でなく,「砂ってすごいんだ。マグマが関係しているんだ。」そんなつぶやきがいえるような生徒を育てていきたいものです。

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