授業実践記録

目的意識を持って実験に取り組ませる授業展開〜炭酸水素ナトリウム分解の実験を通して〜
栃木県日光市立今市中学校
名塚 久貴

1.はじめに

 これまでの学習指導要領では,十分時間をとって観察・実験ができないと感じていた。特に1年生では,実験器具の使い方から実験結果の考察まで短時間で進めざるを得ない状況で,「もっと時間をとって実験させたい」と感じている。

 新学習指導要領では,2・3年生の授業時間が増え,週4時間になる。増えた時数は,考えたり,書いたり,議論したり,発表したりという言語活動はもちろんのこと,観察や実験などの体験活動にも使えることになる。そこで,時間に余裕があることを想定し,教師主導型になりがちであった炭酸水素ナトリウムの分解の実験を通して,生徒に目的を持って実験に取り組ませることを意識した授業実践を行った。



2.授業実践

 授業は50分ずつ3時間を使って行った。展開は次のとおりである。
(1)「白い粉」を加熱したときの変化を観察し,わかることや疑問点をレポートに書く。
(2)発生した気体,透明な液体,白い粉の変化の3点にポイントを絞って調べる。
(3)加熱前後の白い粉の変化を詳しく調べる。

 各時間とも個人で書いたレポートを提出させ,それを教師が評価して次の時間に返却した。2時間目,3時間目はそのレポートの中からポイントになりそうな記述を抜き出し,印刷して配付した。その記述を元に,その時間の課題を確認して授業に入った。

■1時間目 「白い粉」を加熱したときの変化を観察し,わかることや疑問点をレポートに書く

クリックで拡大[PDF:56KB]  まず,実験装置の組み立て,実験上の注意,ガスバーナーの使い方等の器具の操作に関する確認を行った。2年生になって初めての化学領域の実験であり,スタンド,ガスバーナー,マッチ,試験管等の器具を使用するのも久しぶりである。自分が1年時に指導していない学年だということもあり,安全に使用するための注意,使用後の器具の洗浄,片づけ方まで細かく指導した。

 この時間の一番のねらいは「白い粉を加熱したときにどのようなことが起きるのか」をじっくりと観察させることである。目の前で起きる現象をよく見て記録すること,そこからわかること,考えられること,疑問等を自分の言葉で表現することもねらいのひとつとしてレポートの作成を行った。粉の名前や事前に何が起きるかは一切説明せず,ガラス管の先を水に入れさせて(300ccビーカーを使用)実験を行った。

 生徒は目の前で起きる変化を見逃すまいと変化の様子をよく見ていた。必要があれば,乾いた試験管を使って繰り返し実験させた。実験自体はすぐに終わるので,レポートを書く時間は十分確保できた。ほとんどの生徒が気体の発生に気づくことができたが,水の発生を見落としている生徒が多かった。また,多くの生徒が「白い粉は変化していない」としていた。その一方で,「水に溶けにくい気体が発生した」「粉は軽くなっているのではないか」という考察をする生徒もいた。

 なお,実験レポートの作成時には「結果や考察を自分なりの表現で表すこと」が重要であることを4月から繰り返し指導してきた。授業を行った11月には「結果は同じでも表現方法や考察は自分なりに」ということがほぼ全員ができるようになった状態であった。

 また,この時間の実験で得た「加熱後の粉」は薬包紙に包んで班ごとに提出させた。これは,後日利用するためである。

■2時間目 発生した気体,透明な液体,白い粉の変化の3点にポイントを絞って調べる

クリックで拡大[PDF:48KB]  次の時間は,図を使って記録した生徒のレポートを裏面に印刷してから返却した。それをもとに,見られた現象の確認とレポートの評価の観点を伝えることから始めた。

 まず,現象(試験管のどの部分にどんな変化が起きたのか等)を正しく文章だけで表現するのは難しいことを説明した。図を上手に使うと情報を正確に記録でき,読み手に正しく伝えたり自分で見返したときに思い出しやすいことなどを話した。

 次に,起きた現象と生じた疑問について発表させ,生徒の言葉を使って,この時間の目的を確認した。この時間のねらいは,多くの生徒が共通して持った疑問3点(発生した気体は何か,透明な液体は何か,加熱前後の白い粉は変化したのか)を解決することである。

 最後に,器具の扱いについての確認と,塩化コバルト紙の説明,質量をはかるときは試験管ごとはかる(加熱後は水が発生して粉だけを取り出せないため)ことなどを確認し,実験に入った。実験は班ごとに3つの課題の中からどれから調べるか,どんな方法で進めるか話し合いながら進めた。この時点で何をやったらいいかわからない生徒は少数で,ほとんどの生徒が疑問(課題)を解決しようと意欲的に取り組んでいた。

 この時間内では気体の同定と水の検出まではできても,粉の変化までは調べられない班が多かった。そこで,次の時間に粉の変化について確認することにした。しかし,中には粉の質量と水の質量を同じにして水への溶けやすさを比較した班や加熱前後の質量の変化を調べた班もあったので,それらの班を賞賛するとともにその結果を印刷して配付し,次の時間の導入時に利用した。

■3時間目 加熱前後の白い粉の変化を詳しく調べる

クリックで拡大[PDF:48KB]  まずはじめに,発生した気体について,結果と考察を発表させてCOであることを確認した。提出されたレポートを見ると,マッチや線香の火が消えたからCOである,と判断している生徒が多かったため,火が消えただけではCOとは判断できないことを確認するために窒素中でも火が消えること演示してみせた。さらに,水が発生したことも確認した。

 次に,前時に粉の変化について調べた班の結果を紹介し,加熱することによって粉が変化した,または変化していないという仮説を立てさせて実験を行った。粉の水溶液の液性を調べる方法については,生徒からフェノールフタレイン液を使う方法が出てこなかったので,BTB液で調べた班の結果(両方とも青)を示し,「フェノールフタレイン液ではどうか」と教師から投げかけた。

 この実験では1時間目に提出させておいた「加熱後の粉」を利用して実験を行った。これによって,粉を加熱する時間が節約でき,その時間をまとめの時間に使うことができた。加熱前後の質量の変化を調べ直したいという班には,時間内で切り上げることを条件に実験を行わせた。実験時間は25分程度である。各班で行われた実験は,水への溶け方の比較,水溶液の液性,質量の変化の3つであった。ただし,すべての班がこの3つを行ったわけではない。

 最後の10分程度で実験全体のまとめを行ったが,ここでは白い粉を加熱することにより3つの物質に分かれたことを押さえるにとどめた。「白い粉」の正体については次の時間に知らせた。



3.評価について

1時間目

 提出させたレポートは毎回観点を決めて評価して返す。今回書いたものは「観察・実験の技能・表現」についての評価対象とすることを生徒にも伝えておいた。今回の評価の観点は以下の4点とした。
@「白い粉」の変化の様子について記録してあるか。
A「透明な液体」の発生について記録してあるか。
B気体の発生について記録してあるか。
C図を使ってわかりやすく記録してあるか。

2時間目

 この時間のレポートは「科学的思考力」の評価対象とした。評価の観点は以下の3点である。ただし,Bについては実験できなかった班もあったので,@とAで評価した班もある。
@根拠をもとに,気体はCOと判断できたか。
A塩化コバルト紙の反応をもとに,液体は水と判断できたか。
B根拠をもとに,白い粉が変化したと判断できたか。

3時間目

 この時間のレポートは,「観察・実験の技能・表現」の評価対象とした。観点は以下の2点である。
@自分の班で行った実験の結果を正しく記録してあるか。
A実験結果を,図を使ったりしてわかりやすく記録してあるか。

いずれの時間も,評価結果が生徒にわかるようにレポートにゴム印を押して返却した。



4.授業を振り返って

 今回は,最初に起きる現象を観察させ「体験からの気づき」を得たことで生徒の中に疑問が生じ,次時からの実験に目的を持って取り組めたものと思う。例年みられた「先生!次は何をやるんですか?」という質問や「何やってるんだかわかんない」というつぶやきが全くなかったことからも生徒が目的意識を持って実験に取り組んでいたことを実感できた。生徒はこれまで,初めて見る現象について実験し,考察させられる場面が多かったものと思う。今回のように,起きる現象をじっくり見せることはその後の実験への意欲付けに大きなプラスになることが確かめられた。

 また,学習者に目的意識を持たせるためには,授業の展開に加えて「レポートを評価して次の授業に活用する」ことも重要なポイントである。授業では,印刷して配付されたものを見て他の班の結果や方法を知り,自分達も確かめてみようとする生徒が多く見られた。他の班と同じ方法で実験する班もあれば,少し方法を変えてみる班もあったが,いずれも明らかな目的を持って実験を進めていた。このような授業展開は,教師の側から見れば「評価を指導に生かす」ということになり,学習者側から見ると,実験レポートを作成することによって言語による表現活動を深めることができ,評価されて返ってくることで意欲を喚起されるものと考える。



5.おわりに

 これまでは,この3時間の実験を1時間で行っていた。教師が方法を説明して1時間内に実験を終わらせ,考察は教室に帰ってから各自でレポートに記入し提出させることが多かった。しかし,今回は,十分時間をかけたことで授業時間内にレポートをまとめる時間が取れた。じっくりと体験したり考えをまとめたりする時間がとれたことも,実験に目的を持って取り組むことができた一因ではないかと思う。

 今回は授業展開の工夫と実験レポートの活用の両面からアプローチした。他の単元でもこのような授業を進めていきたいと考えている。

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