授業実践記録

観察を通して科学的な見方・考え方を養う「動物の仲間と進化」の学習
静岡大学教育学部附属島田中学校
薮崎 正人
1.はじめに
 平成20年版学習指導要領において生物分野,とりわけ「動物の生活と生物の変遷」は大きくその内容が変更された。これまで第3学年の学習内容であった「細胞」がここでの学習内容となり,「生物の変遷と進化」「無セキツイ動物の仲間」が新たな内容として加わったため,30時間を越える大きな単元となった。


 本実践では,「動物の仲間」と「生物の変遷と進化」とを分けず,「進化」を生物の分野を統合する概念と捉え,進化による生命の多様性と共通性,環境などへの適応を学習の軸として単元を構成した。単元の柱となる中心概念を設定し、系統的に単元を構成することにより,動物の生活場所への段階的な適応を,進化と関連付けて科学的に見たり考えたりできると考えた。また,動物の体のつくりの違いを,実感を伴って理解できるように,実物をできる限り準備し,実際に手で触れたり,観察したりできるようにした。
2.単元について
(1) 単元名 : 第2学年 第2分野「動物の仲間と進化」(全14時間)
(2) 単元の目標 
  • 生物の観察,実験を通して,動物の体のつくりなどの特徴に基づいて分類できることなどを理解させるとともに,いろいろな動物を比較して共通点,相違点について分析して解釈し,進化と関連させながら考えさせることを通して,生物を時間的なつながりでとらえる見方や考え方を身に付けさせる。
(3) 単元の構成 (14時間)
  • 【生物とは】(1時間)
  • 生物と非生物動物と植物
  • 動物と植物
  • 【動物の仲間】(1時間)
  • セキツイ動物と無セキツイ動物
  • 背骨の役割
  • 【無セキツイ動物の仲間と進化】(2時間)
  • カンブリア爆発
  • 単細胞動物
  • 軟体動物・節足動物
  • 【セキツイ動物の仲間と進化】(7時間)

  • セキツイ動物の共通性
  • 水中生活から陸へ(魚類・両生類・ハチュウ類)
  • ハチュウ類と鳥類
  • ホニュウ類の繁栄
  • 【進化の仕組み】(3時間)

  • 進化の証拠(相同器官,痕跡器官)
  • 進化のシステム
  • 生物の広がり(適応放散と共進化)
3.実践事例T
(1) 授業名 : 「セキツイ動物の共通性(イワシの解剖)」(第5時)
(2) 本時の目標 
  • イワシを解剖し,イワシにもヒトとほとんど同じ機能をもつ臓器があることを知り,セキツイ動物の共通性に気づく。
(3) イワシを使うメリット 
  • イワシは安価で鮮魚店等で手に入りやすい。(6匹程入って300円以内)
  • 体が比較的大きく,内臓が見やすい。
  • カエルなどと比べて生徒の抵抗が小さい。
(4) 授業の展開 
魚類のイワシにもヒトと同じような胃や腸、心臓などがあるだろうか。
イワシを解剖して調べよう。

  • 総排泄腔からハサミを入れ,内臓を傷つけないように腹の皮を切っていく。

  • エラと腹の間の骨を切り,腹を開く。

  • エラと一緒に内臓を取り出す。腸から胃が1つの管でつながっていることが確認できる。

  • エラの間に三角錐の形をした心臓がある。

  • 時間があれば頭の骨をはずし,脳を確認する。目と脳の間に視神経が見える。

  • 眼球を取り出し,中を調べると,水晶体が取り出せる。


(5) 生徒の表れ 
<生徒の感想>
魚の内部は,臓器以外は食事等で肉付きや骨などがよくわかりますが,内臓はほとんど見ることがありません。内部の腸などは結構ぐちゃぐちゃになっていて複雑だと思っていたけど、意外にも一本でしっかりつながっていて,心臓や腸もだいたいヒトと同じでした。ただ,つくりだけは簡単でした。ここから進化してホニュウ類が生まれたと思うと何となく納得できました。
4.授業実践U
(1) 授業名 : 「水中生活から陸上へ(魚類と両生類、ハチュウ類)」(第7時)
(2) 本時の目標 
  • 両生類の体のつくりや生活の仕方などを、魚類、ハチュウ類の体のつくりなどと共に観察し、比較することによって、両生類が陸上で生活できるが、水から離れられない理由を考察できる。
  • 観察や比較を通して魚類、両生類、ハチュウ類の体のつくりや生活の仕方を理解する。
(3) 準備した動物 
<魚類>
  • タイリクバラタナゴ
  • モロコ
  • シマドジョウ
  • 鮭の卵(イクラ)
<両生類>
  • イモリ18匹(小集団に2匹)
  • アフリカツメガエル2匹
  • アフリカツメガエルの卵
  • アフリカツメガエルの幼生(オタマジャクシ)
  • アホロートル1匹
<ハチュウ類>
  • ニホンヤモリ3匹
  • ニホンカナヘビ3匹
  • ニホンイシガメ1匹

(4) 授業の展開 
イモリとヤモリをOHPで投影し,影からどちらの動物かを予想する。
「両生類(イモリ,カエル)はハチュウ類のように陸だけで生活できるだろうか。」という課題について,実物を観察・比較しながら考える。

アカハライモリ

アカハライモリ

アホロートル

ニホンヤモリ

ニホンヤモリ

ニホンカナヘビ

観察した結果を表にまとめ比較する。
アホロートル(ウーパールーパー)を紹介する。
プリント「両生類から魚類への進化」を読む。

(5) 生徒の表れ 
 授業では,これまで名前は知っていても,実際に見たことやさわったことのない生徒が多く見られた。質問すれば言葉だけで「両生類は皮膚が湿っている」「両生類は呼吸の仕方がエラから肺に変わる」などと答えるであろうが,やはり実物に触れ,実感を伴った言葉は重みがある。「あっ 呼吸している」「触ると冷たい」「ぬめぬめしている。」などの言葉は本物に触れなければ出てこないものである。生徒はこれらの動物の観察を通して,両生類と魚類・ハチュウ類の体のつくりを比較し,両生類が水から離れて生活できないことを理解していった。本物の力を実感した授業であった。

アフリカツメガエルの陸上での運動を調べよう皮膚の様子を調べよう
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<生徒の感想>
 思ったよりもいろいろな違いがあって観察するのが面白かったです。初めの時は両生類がちょっと気持ち悪かったけど、触ってみると感触などがよくわかったし,だんだん愛着がわいてくるような気がして,最終的にはイモリがすごくかわいかったです。生命が誕生したのもすごい偶然が重なった奇跡だと思いますが,両生類が生まれ,哺乳類が生まれるまでの長い道のりを考えると,偶然がすごく重なって,何か人間がいることもすごいと感じました。
<生徒の感想>
 確かに両生類が中間だったと考えればうまく説明できると思いました。でも,ちょっとうまくできすぎた話だなあとも思いました。イモリを見ていると「わあ〜がんばってる」と思いました。(初めて見た)こんなに小さな生き物でも肺,手足,皮膚とすごい変化をとげていることがわかってすごいなあとも思います。この進化論はすごく奥が深いと思うので,もっと調べてみたいです。
5.終わりに

 本実践ではイワシの解剖を,セキツイ動物の共通性に気づかせることを目的としていたが,口から肛門までの消化管のつながりを観察できたり,視神経や眼球・水晶体などが観察できたりと,他の学習場面でも十分に適用できるものと感じた。

 平成20年版学習指導要領では,セキツイ動物の観察を「動物の仲間」の中で行うようになっている。また,動物を観察する際は,体の特徴を観察して比較するだけでなく,「分析して解釈する」とある。進化の概念を念頭に置きながら観察・比較をさせ,さらにその結果を分析・解釈させることによって,科学的な見方・考え方を養えるように指導していきたい。

【参考文献・引用文献】
『平成20年改訂 中学校教育課程講座 理科』清水 誠・中道貞子編著(ぎょうせい)
『あなたの授業をサポートします―小学校理科観察・実験集―』(静岡県総合教育センター)
『新しい科学の教科書 生物編』左巻健男(文一総合出版)
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