授業実践記録

科学的な思考力・表現力の育成をめざした授業づくり〜エネルギー変換を中心に〜
広島県立広島中学校・広島高等学校
原田 二郎

1.はじめに

 平成20年3月に改定された中学校学習指導要領では,観察・実験の結果を考察し表現するなどの学習活動を重視し,科学的な思考力・表現力の育成を図ること,科学的な知識や概念を活用したり日常生活や社会との関連を重視する内容を充実させ,理科を学ぶことの意義や有用性を実感させることなどが求められている。

 今回は,中学校3年生で学習する「運動とエネルギー(エネルギー変換)」の単元において,新学習指導要領で求められている,科学的な思考力や表現力の育成をめざし,観察・実験の結果を分析して解釈する学習活動や科学的な概念を活用して考えたり説明したりする学習活動,そして日常生活や社会との関連を重視した学習活動を取り入れて行った授業実践について報告する。

 

2.

実践事例T −エネルギー変換の概念をビジュアル化したデジタル教材を活用した授業−

(1)

単元:中学校第3学年第1分野「運動とエネルギー(エネルギー変換)」

   

(2)

概要:

 

 「エネルギー」は,目に見えないものであり,生徒にとっては理解することが難しい概念である。そこで,身近な物理現象について,実写映像にCGを重ね,エネルギーを量的に表現することによって,エネルギーの概念やエネルギーが相互に変換されること及び保存されることについて理解させるデジタル教材を開発した。

 この教材では,エネルギーをCGによりキャラクター化し,また,エネルギーの種類ごとに色を設定することによって,いろいろなエネルギーの変換や保存則をキャラクターの色が変わることで表現している。

 授業では,このデジタル教材を活用し,身近な物理現象について演示実験や実写映像を見た後に,その実写映像にCGを重ねたものを見ることによって,目に見えないエネルギー変換の概念や保存則についての理解を図った。

   
 
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<使用したデジタル教材>

 

■教材名:「実写映像と CG を用いたコンテンツによるエネルギーの授業」

 

※このデジタル教材は,「理科ねっとわーく( http://www.rikanet.jst.go.jp/ )」に登録されている。
現在,『一般公開版( http://rikanet2.jst.go.jp/ )』でも閲覧可能。

(3)

授業の流れ

 

さまざまな身近な物理現象を実際に観察する。

どのようなエネルギー変換をしているのかを個人で思考しワークシートに記入する。

班(4人班)で討議し,まとまった意見をクラス全体に発表する。

発表をする際は,言語技術を活用し,結論から述べ,根拠を持って発表する。また,発言をつなぐ活動を通して,多様な考えを引き出し,思考力を高める。

デジタル教材を活用して結果を確かめる。

   
(4)

授業を振り返って

 

 さまざまな身近な物理現象のエネルギー変換を思考させる際,単なる予想をさせるのではなく,既習のエネルギーに関する科学的な知識を活用し,根拠を持って思考及び発表をさせるようにした。発表後,デジタル教材で現象を確認することによって,エネルギー変換に対する生徒の興味関心を高めるとともに,目で見ることができないエネルギーをビジュアル化することにより,エネルギー変換についての理解を深めることができた。

 

3.

実践事例U −LEDを題材にエネルギー変換効率を思考させる教材を活用した授業−

(1)

単元:中学校第3学年第1分野「運動とエネルギー(エネルギー変換)」

   

(2)

概要:

 

 日常生活や社会におけるさまざまな事象をエネルギーと関連付け,エネルギー変換を推論する活動を通して,科学的な見方や考え方を養うことをねらいとする。授業では,LED 式信号機を題材に,電球式信号機に変わってLED 式信号機がなぜ普及し始めているのかについて,LED と豆電球の消費電力を求める実験を行い,既習の科学的な知識を活用して考えたり説明したりする学習活動を行った。

   
 

テーマ:LED式信号機が普及し始めているのはなぜだろう?

 
電球式信号機 LED式信号機
   
(3)

授業の流れ

 

学校の近隣にある電球式信号機とLED 式信号機の写真を提示し,違いを発表させる。

光源の違い (LED と電球 )

「LED 式信号機が普及し始めているのはなぜだろう?」と問題提起をする。

交差点に設置してある信号機を理科室に持ってくるわけにはいかないので,明るさがほぼ等しい豆電球とLED に流れる電流を電流計で測定することにより,それぞれの消費電力を求めさせる。

LED式信号機が普及し始めている理由を,求めた消費電力を比較させ,エネルギーの移り変わりに着目して思考させる(個人で思考)。

班内で考えたことを交流し,思考を深めさせる(班で思考)。

班でまとめた意見を,ホワイトボードにわかりやすく簡潔にまとめさせる。

ホワイトボードにまとめたことを各班ごとに言語技術を活用して発表させ,全体の場で意見を交流させる。(全体で思考)

生徒の発言内容をもとに整理してまとめを行う。
「LED式信号機は,消費電力が少なく,電球式信号機に比べ電気エネルギーを効率的に光エネルギーに変換できる。」

   
 

実験

豆電球とLEDの消費電力を比較してみよう

   

【目的】

明るさのほぼ等しい豆電球とLEDの消費電力を比較することによって,LED式信号機が普及し始めている理由を考える。

   

【方法】

図1のように,豆電球をつないで回路をつくり,豆電球に流れる電流をはかる。

図2のように,LEDをつないで回路をつくり,LEDに流れる電流をはかる。

 

(LEDの赤端子を乾電池の+極側につなぎ,青端子を乾電池の−極側につなぐ)

   
 

豆電球を流れる電流

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LEDを流れる電流

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乾電池(豆電球及びLEDに加わる電圧)の電圧を3Vとして,豆電球とLEDの消費電力をそれぞれ求める。

 
【結果】
 

豆電球

LED

電流

(      )mA=
(     )A

(      )mA=
(     )A

消費電力
[W]

 3V×(     )A=

 3V×(     )A=

※消費電力[W]=電圧[V]×電流[A]  , 1000mA=1A

   

【考察】

LED式信号機が普及し始めている理由を,求めた消費電力を比較し,エネルギーの移り変わりに着目して考えてみよう。

   
 

<実験結果の一例>

 

豆電球の消費電力測定

LEDの消費電力測定

310mA→0.93W

170mA→0.51W

   
 

<班で話し合った意見をホワイトボード記入しているようす>

<班で話し合った意見を全体の場へ発表しているようす>

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(5)

授業を振り返って

 

 日常生活で馴染みのある信号機をエネルギー変換の題材として取り上げることによって,日常生活や社会と関連付けてエネルギー変換について思考させることができ,科学を学ぶことの意義や有用性を生徒に実感させることができた。

 LED式信号機が普及し始めている理由を,これまでに習得してきた消費電力などの知識や実験に関わる技能を活用し,科学的に調べ,科学的な知識や概念を使用して考えたり説明したりする学習活動を通して,思考力や判断力,表現力の育成を図ることができた。

 

4.終わりに

 新学習指導要領では,科学的な思考力・表現力の育成を図る観点から観察・実験の結果を科学的な知識や概念を活用して考察し表現する活動が重視されている。

 目で見ることができないエネルギーについてデジタル教材を活用し,ビジュアル化することにより,エネルギー変換についての理解を深めることができた。さらに,日常生活において馴染みのあるLED式信号機を題材として取り上げ,観察・実験の結果から既習の科学的な知識や概念を活用して考察し,表現させる活動を通して,日常生活と関連付けてエネルギー変換についての概念を深化させることができた。

 これからの社会状況において極めて重要な問題であるエネルギーについて,身近な事象をもとに,物理的概念の初歩的な考え方やその規則性を学ばせ,日常生活に活用していく力を養うことは,エネルギー資源の有効利用においても極めて重要であると考える。

 

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