学ぶ過程でつまずかせたり,揺さぶりをかけることの効果は今までもよく言われている。しかし,生徒は期待した結果でないとそのデータを恥ずかしがったり,隣の班のデータや理論値を基に,実際の結果とは違うデータを報告したりする場合が見られ,正解の結果だけを早く知りそれを覚えようとする傾向は依然として存在する。それで,畑村洋太郎著「失敗学のすすめ」を参考にして,失敗の持つ負のイメージを少しでも払拭し,なぜそのような結果になったのかを検証していく姿勢を身に付けさせたいと考えた。なお,「失敗から学ぶ経験」とは,自分の失敗体験だけではなく,過去の失敗事例や友達の失敗体験から学んだり,情報を得たり,試行錯誤を重ねたりすることを意味した広義な内容を指している。
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単元:第3学年第1分野 「電流のはたらき」 |
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実験:果物電池の作成(2時間扱い) |
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ねらい:単元のまとめとして,電流,電圧,抵抗の概念をはっきりさせることをねらいとして実施した。この単元で学んだことを総動員して解決にあたらせる。「失敗から学ぶ経験」は第1時は電子オルゴールを良くならせるための試行錯誤の過程である。ポイントは電極と,つなぎ方と,果汁との接触面積である(図1)。第2時は,発光ダイオードは点くのに豆電球を点かせることができない実験を組む。更にテスターで電圧が十分にかかっていることも確認させ,「なぜ?」か考えさせる。その理由をワークシート(図4,6)にまとめていくことを通して,思考力の高揚と,知識の定着をはかった。 |
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授業の流れ
<第1時>
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材料を示し,電子メロディを鳴らせることを目標に,その条件を見つけさせる。 |
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実験で試行錯誤しながら,その条件を見つけさせる。 |
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実験結果をメモさせ,ベストの条件をワークシートに記載させる。 |
<第2時>
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前時の条件を参考に,発光ダイオ−ドを点かせる果物電池の回路を個人で,班で考えさせる。 |
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アイデアをホワイトボードに描いて発表させ(図2),それを集約して本時の回路を決定する。 |
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電子メロディがメロディが分かるようによく鳴り,発光ダイオードが点いたら,豆電球が点くか確かめさせる。 |
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テスターで電圧を測り,乾電池以上の電圧はかかっていて,発光ダイオードはつくのに,豆電球は点かない理由を考えさせ,ワークシートに自分の言葉で書かせる。 |
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実験の工夫と注意点
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発光ダイオードはわずかな電流でも,電圧がある程度かかれば点灯する。しかし,用いた物が点いたり点かなかったりで実験が組みにくかった。先行事例から,赤色のものが1番電圧が低くても点くことがわかり,それを用意すれば,果物電池2個の生徒が作った直列回路で100%点灯した。 |
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果物は果汁が豊富な,グレープフルーツが最適だった。第2時では電極を入れるところに切れ目を入れてまるごと2個ずつ用意する(本校は8班×2)ことで5クラスすべてで実施できた。 |
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テスターはデジタルの物が使いやすかった。乾電池も合わせて測定させると,果物電池2個の直列の電圧が1.5〜1.9Vで乾電池1個かそれ以上の電圧がかかっていることを確認できた。それにより,生徒が電圧と電流について考えるきっかけができた(図3)。 |
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ワークシートには,先に勉強したオームの法則と関連づけて書くよう指示した。 |
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亜鉛板は表面がすぐ変色し,鉄板と区別が難しくなった。U字型磁石を持たせておくと,電極を探っていくときに間違いが防げた。 |
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図4 書かせることを中心にしたワークシート |
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授業を振り返って
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第1時では自由に発想させ,試行錯誤させるメリットとして多くの拡散的思考が見られた。果汁を絞るアイデアがユニークであった(図5)。この段階で電子オルゴールが曲目まではっきりわかるほど鳴ったのは,5クラス40班のうち2班で,課題として適度な難度であると感じた。 |
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第2時では班でホワイトボードを持たせて発想させたメリットを感じた。その前の個人の発表もそれぞれ責任を感じてよく描いたし,発表するので,発表者を中心に収束的思考が高まった。 |
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発表されたものを見ると,生徒は電極が果汁に触れる表面積に意識が高まっているのがよくわかった。 |
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図6 生徒のレポート(ワークシート右下) |
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評価
授業で行ったことを定期考査(対象:3年生186名)で尋ね,その定着度を見た。設問は以下の通りである。
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果物電池の実験で電極として,銅,アルミニウム,鉄,亜鉛の4種類の金属を用意しました。このうち電池として機能するのに適した組み合わせは何と何でしたか。 |
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果物電池で赤色発光ダイオードを点けることができました。どのようにするとそれが可能になったか,図を描きなさい。適宜材料の説明を加えてわかりやすく示しなさい。 |
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(2)のようにして発光ダイオードは点いても,豆電球は点きませんでした,それはどうしてですか。その理由を30字程度で答えなさい。 |
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(1)は88%,(2)は82%が正解で,高い正解率だった。(3)は○56%,△13%,×31%であった。△は果物の抵抗について述べたものの,電流の記載がなかったものがほとんどであった。×を分析すると,「豆電球の抵抗が大きい」と答えたものがその4割近くになり,この実験を行ったものの新たな誤概念を生んでいるところが感じられた。また,電流と電圧が反対になったものや,電圧が流れるとか,電力という言葉を用いて混乱しているものが見られた。(3)の正解率は期待したものより少し下回ったが,概念がつかみにくい電気の単元のことを思うと,7割は抵抗による電流の低下を指摘できており,よく書かれた解答が多かった。 |
「失敗から学ぶ経験」を通した授業の効果は,上記のように感じることができ,ワークシートの組み合わなどでより効果的に行えることもわかってきた。ただ準備や授業に時間がかかるので,どの単元のどこにそれを盛り込むかをよく考慮して,3年間を見通して実施する必要も感じている。