授業実践記録

互いに練り合う理科授業〜火山灰の観察を例に〜
愛媛県伊予市立港南中学校
松浦 博文

1.はじめに

 火山の噴火は,生きている地球の最もダイナミックな現象である。また,それぞれの火山や火山噴出物,火成岩には個性ともいえる多様性が存在する。その多様性は,マグマの化学組成や粘性などの性質やマグマの冷却過程によって生じたものである。これらを観察結果から見いだし,それらが生じた原因を過去の経験や知識から考察することは容易ではないが可能である。

 また,造岩鉱物はマグマの物理化学的条件を反映した地下の生き証人である。その種類や量比を調べることによって,ある程度マグマの違いを推定することができる。火山灰は,簡単な処理によって造岩鉱物をほぼ自形のまま観察できる優れた教材である。そのため,造岩鉱物の観察結果からのマグマの違いを推定することができるので,火山灰を教材として火山の学習に位置付けることは適切と考える。

 今回は,県内で新しく採取した火山灰を用いて授業を行ったので,その実践について報告する。


2.火山灰標本

 火山灰を扱うときには,できるだけ地域に産するものを活用したい。インターネットのホームページにも各地域の紹介がなされているので活用されるとよい。今回活用したのは,四国内で採取できる次の4つである。今回は,九州で採取したものも活用した。

1鬼界アカホヤ火山灰(略記号 K−Ah)
噴出年代 約7,300年前
噴出源 南九州 鬼界カルデラ
分布域 おおよそ全国に広がる。

2姶良丹沢火山灰(略記号 AT)
噴出年代 約25,000年前
噴出源 鹿児島県 姶良カルデラ
分布域 おおよそ全国に広がる。

3阿蘇4火山灰(Aso−4)
噴出年代 約90,000年前
噴出源 熊本県 阿蘇カルデラ
分布域 おおよそ全国に広がる。四国内では,徳島県内に産出の報告がある。

4野村火山灰(仮称)・・・ 由布川火砕流に伴う
噴出年代 約60万年前
噴出源 不明(大分県湯布院付近) ・・・ 今回は,由布火山としておく。


3.火山灰中に含まれる鉱物

火山噴出物名 火山
ガラス
石 英 長 石 角閃石 雲 母 輝 石 磁鉄鉱
野村火山灰
鬼界アカホヤ火山灰      
姶良丹沢火山灰      
阿蘇4火山灰    


4.授業実践

【第1・2次】

 火山灰の観察で重要なことは,造岩鉱物の識別ができるかどうかである。火山灰についての基本的な観察を,広域テフラである鬼界アカホヤ火山灰と愛媛県西予市に分布する野村火山灰(仮称)を用いて訓練させた。カンラン石を除くほとんどの造岩鉱物を観察させることができる。観察に際しては,右の検索表を用いた。

クリックすると画像が拡大表示されます。
図2 検索表の例

【第3次】

1 ねらい

火山噴出物に含まれる鉱物を見分けることができる。
鉱物の種類や量比から,火山噴出物の共通点・相違点に気づくことができる。
また,生徒同士の話合いをもとに結論を導く活動を最も支援していくこととした。

2 学習内容

火山噴出物に含まれる鉱物を見分けることができる。
3つの火山(阿蘇火山・由布火山(仮称)・姶良火山)の火山噴出物について,何を調べれば噴出源が分かるか考える。
個別に1つの火山噴出物を観察し,鉱物組成についてまとめる。
同じサンプルの仲間と情報交換し,鉱物組成を確認し合う。
グループで情報交換し,野村火山灰の噴出源についてどれが正しいか考える。
結果からマグマの性質の違いに気づく。
クリックすると画像が拡大表示されます。
図3 グループ用ワークシートの例
図4 野村火山灰中の鉱物
図5 アカホヤ火山灰中の鉱物


5.成果と課題

 これまで,「火山灰の観察=造岩鉱物の観察」という授業を行ってきた。そのため,造岩鉱物の美しさには感動させることができたが,火山灰の多様性,いわゆるマグマの多様性について考えさせることができなかった。しかし,噴出源を推定するという活動を導入することによって,火山灰に違いがあることに気づかせることができた。

 この授業を行ったクラスと行わなかったクラスで,識別に自信がある造岩鉱物をあげさせた。どちらのクラスでも,長石,黒雲母の名称をあげた生徒が多かった。鉱物の数を比較すると,行ったクラスの方が2倍以上多いという結果であった。また,火山灰への興味の深まりにおいても,両者に違いが見られた。(図6)


図6 アンケートの結果

 授業後の生徒の感想の中に,「自分で火山灰を採取したいと思った」とか,「火山灰を取りに行きたい」と答えた生徒が多かった。今後は,地域素材の開発の一環として,できるだけ身近な地域で火山灰を採取できる場所を見いだしていきたい。また,野外実習のできる場所も見出していきたい。さらに,全国の先生方の実践を参考にさせていただきたいと考えているので,ぜひ情報交換をお願いしたい。

(参考文献)
榊原正幸・中村千怜・岩崎仁美・佐野 栄・壇原 徹(2008):愛媛県野村町北部の中期更新世テフラのフィッショントラック年代および岩石学的研究地質学雑誌(投稿中)
町田 洋・新井房夫著(1992):火山灰アトラス.東京大学出版会
森江孝志・立花志津(2002):徳島県阿讃山地南麓の露頭での野外観察授業地学教育,55,49-55
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