滋賀県中学校理科教諭 |
1.はじめに 「小学4年生〜6年生の約4割は太陽が地球のまわりをまわっている天動説を支持。」これは,2004年に国立天文台の研究チームの調査により報告されたものである。ニュースなどでも大きく取り上げられ,学校現場での教育のあり方を問われたが,子どもに天動説の考えを持たせることは決して間違っているとは思わない。例えば,天体の動きを考えるときに必要な天球の概念には,必ず天動説の見方が必要になる。 学習指導要領の中では中学校での目標に「太陽や星座の日周運動の観察を通して,その現象が地球の自転による相対的運動であることをとらえさせる」とある。「地球が動いている」ことは事実であり,そのことを子どもたちが明らかに説明できるようになるには,地球から見える天体の運動と地球の外から見た天体の運動との位置関係を結びつけることが必要である。つまり,自分中心の視点(地球から見る天体)と自分の外側からの視点(宇宙全体の位置関係)の切り替えを自由にできることが大切だと考える。また,天体の学習では, 学習課題が抽象的になりやすく,問題意識が散漫になりやすいという問題もあるように思う。 2.モデル実験教具の製作 これまでの,中学校での天体学習では,相対的運動を教えるときに,黒板で平面的に説明することが多かった。これは,生徒にとって抽象的で理解しがたいものである。また,見せたら分かる式の従来のモデル実験では,生徒の問題意識が高まりにくい。問題意識がないままの授業では,生徒に内容を十分に理解させることが難しくなる。そこで,この問題を解決するために,これまで広く用いられてきた地球儀や天球儀を用いたモデル実験に改良を加えて,開発されたモデル実験教具『アース君』を製作した。この教具を使用して,生徒に自由に地球上と地球外の視点を切り替えさせながら,天体の日周運動について考えさせる場面を多くもてるように意識しながら授業を実践した。 3. 単元の構成 単元の構成は,三つのことを意識しながら行った。
4.授業実践
5.成果と課題 今回の実践では,太陽と地球の大きさの違いを10億分の1のサイズで考えさせあと,豆電球で作ったオリオン座をモデルに遠い星と近い星を見分けることができるかどうかを考えさせた。子どもたちは,1.3cmかない地球に驚き,150mも離れた地球にそのスケールの大きさを感じ,天球という距離を無視した考え方ができることが確認できたようであった。 次に,地球から見た太陽の一日の動きを観察させた後,アース君を用いて地球外からの視点での確認をさせた。その際,実際の日の出の方角をもとに,アース君で同じように日の出を見ることを考えさせ,地球の自転の向きの意識付けも行った。アース君での実験と実際の観察とで同じ結果がでたことで,生徒は視点の切り替えのこつをつかめたようであった。 視点の切り替えにさらに慣れさせるために,世界各地の太陽の動きについて考えさせる授業を組み込んだ。生徒には,まずは天球上で予想させ,そのあとアース君を使って確認させた。生徒の予想では,天の子午線上での太陽の通過位置はバラバラであったが,世界のどこでも東から西へという動きについてはおおむね揃っていた。このことからも,生徒が予想をするときに,地球外からの視点を大切にできるようになったことが分かった。 公転や地軸の傾きについては,天体の視運動をもとに,アース君を使って自分たちで試行錯誤させながら,地球の実運動へと結び付けさせるようにした。今回,初めての実践であったが,生徒自らが試行錯誤を繰り返すなかで視点の切り替えを何度も行うので,視点の切り替えがスムーズに行えるようになったと考えられる。 しかし,アース君での実験を行っているときに,「地球からはどう見えているの?」という質問をするような生徒も見られたので,アース君に小型のwebカメラを取り付け,リアルタイムで視点の切り替えが行えるようにするなど,改良を続けていき,子どもたちが天体の学習にのめりこめるような環境を目指していきたい。 |