授業実践記録

イメージを掴みやすくするための授業の工夫 〜天体分野における授業〜
足立区立第十一中学校
星野 由佳

1.はじめに

 生徒は「宇宙」という言葉には興味があるが,観察するといっても様々な条件で困難な場合が多く,しかも実感の湧きにくい金星の満ち欠け等にはあまり興味を示さない。しかし,学習指導要領に定められた内容は,生徒が知りたいと思うことから離れている。

 「地球と宇宙」の単元は,天候や地域の空の様子に左右されることが多く,なかなか実際の天体を利用した実験や観察をおこないにくい。従って,天候に左右されることなく,生徒がイメージを掴みやすくするための授業をおこなう必要がある。

2.モデルを使った授業

(1) 地球儀の活用

 地軸の傾きと季節の変化や南中高度の変化の関係を理解するには,やはり地球儀があった方が良い。しかし,手頃な地球儀が数多く(せめて班に1個)あれば良いが,予算の関係等で数を揃えることが難しい場合,100円ショップの地球儀(直径10cm程)でも十分である。

 理科室を暗くし,そこにOHPの投影機等を利用して,ある程度強く,しかもあまり広がらない光を当てる。そのとき,地球儀の赤道とその土地の緯度の線を目立つようにしておくと,極側から見て昼と夜の長さの違いを調べることができる。

暗くした理科室で,地球儀に光を当てたところ
(2)

金星や月の満ち欠け

 金星の満ち欠けは肉眼で見えないのでなかなか実感がわかない。また,満ち欠けの周期が長く,明け方や夕方でないと観察できない等,実際に観察するには条件が厳しくて困難なことが多い。従って,実物にはかなわないが,モデルを使うと手軽に授業がおこなえる。

 ピンポン球を半分黒く塗る。色を塗るのは油性ペンでも可能であるが,つや消しのアクリル絵の具を使うと塗りやすい。正規の新品のピンポン球を購入すると費用がかかるが,100円ショップでは6個くらいで,100円で売られている(私の場合は,卓球の規格変更で使えなくなった球をもらいました)。

 下の写真は,オレンジ色のピンポン球を半分白,半分黒に塗り分け,キリで穴を開けて竹ひごを通したものである。色の違いがわかりやすいかと思って白と黒に塗り分けたが,手間がかかっただけで,授業をするには本来の色(オレンジ色)でも構わなかった。

 これをクラスの人数分より少し多めに用意しておくと,一人に1個ずつ渡して個別に実験をおこなうこともでき,また,写真のように8個を輪に並べて,金星が地球に近いときと遠いときの大きさの比較がしやすい。

 その場合,下の写真のように並べて,それを周りから観察するので,モデルを立てておく必要がある。粘土など,安定させられるものであれば何でも良い。今回は,ホームセンターで購入した木切れに竹ひごが通る大きさの穴を開けた台を用意した。

横から見た様子
上から見た様子

 このモデルは,上の写真のように輪に並べて大きさの変化を比較することもできる。また,金星と地球の位置関係による満ち欠けの変化の様子を調べるときには一人1個渡して個別に対応することが可能である。

 授業ではワークシートを用いて,金星の位置による形をスケッチさせ,大きさの変化等気づいたことを書かせた。

 また,金星の満ち欠けの説明にいきなり入るよりは,日頃から見て知っている月の満ち欠けについて,このモデルを使って実習させておくと,扱い方もわかるようである。

 他にも,下の写真のように,2個のピンポン球を竹ひごでつなぎ,一つを太陽に見立て,もう一つのピンポン球を太陽と反対側半分を黒く塗ることで,太陽のまわりを公転する金星のモデルとして使うことができる。

 これを目の前で回転させることで,金星の満ち欠けと大きさの変化を同時に観察することができる。

太陽と金星のモデル
手前にきた様子
太陽の反対側にあるとき

3.シミュレーションソフトの活用

 非常に有名なものではあるが,「太陽系シミュレーター」というソフトがフリーで入手でき,また画像もとてもきれいでお勧めする。インターネットからダウンロードも可能である。また,解説書も販売されている。また,他にもプラネタリウムソフトがあるので,インターネットで検索をして,自分の目的に合った(使いやすい)ソフトを探すと良い。

 しかし,どうしてもコンピュータによるシミュレーションでは,ディスプレイが平面であるため,動画として見せることは可能であるが立体的なイメージが掴みにくい場面もある。

4.プラネタリウムの活用

 学校がプラネタリウムの活用ある自治体にプラネタリウムがある場合,平日昼間等空いている時間はリクエストに応えてもらえる場合がある。プラネタリウムを授業に活用する場合,天候に左右されないこと以外に,以下のようなメリットが考えられる。

短時間で天体を動かして見せることができる。
日周運動や年周運動,惑星の逆行等を実際に観察するには時間がかかる。

立体的に動きを見せることができる。

黒板, PC ,紙はすべて二次元での表示であり,平面上でしか動かせない。

実際に行くことが難しい場所での,天体の動きを見せることができる。

赤道上や北極点へ実際に行くことはまず不可能。

(1) 北極星を見つける

 北斗七星とカシオペア座は,北極星を挟んでほぼ反対側にあるので,一年を通してどちらかの星座(または両方)が見やすい位置にある。

 生徒に北極星を見つけさせた後,星座線を重ねるなどして、北極星の位置を確認させる。方位も同時にドームに表示することで北極星がほぼ真北にあることが確認できる。

 北極星の位置を確認したところで北天の日周運動を見せると,北極星がその位置をほぼ変えずに他の天体が動いていく様子がわかる。星座線を映したり消したりすることで,北極星に注目をさせたり,実際の星空に近い状態で周囲の天体が動いている様子を見せたりすることができる。

(2) 太陽の日周運動

 透明半球を用いて太陽の動きを観察することが一般的であるが,小さな透明半球では天球を外部から見ている形になり,実際にその中心に自分が立っていると実感することは難しい。プラネタリウムを活用すると,自分が大きなドームに入るので,天候に左右されず,しかも短時間に立体的に太陽の日周運動を見せることができる。

 冬至→春分→夏至と日付を変えて順に投影し,南中時に一旦太陽を止めて南中高度を確認させることができる。また,日の出や日の入りの位置の変化も見ることができる。

 また,南中高度の変化についても視覚的に学習することができ,地球の位置の変化と共に南中高度が変化していく様子も工夫次第で見せることができる。

(3) 赤道上,北極点での日周運動

 春分の日,赤道上で太陽は,東の地平線からほぼ垂直に昇り,天頂を通って西の地平線にほぼ垂直に沈む。また,北極では太陽は春分から秋分の間は,地平線の下に沈むことなく動き続ける。

 東の空を正面にして投影することで,地平線から垂直に昇り,天頂を通って背後の西の地平線に沈んでいく様子がよりわかりやすく見られる。

(4)

年周運動

 天体の年周運動については,学習している単元に関係なく,計画的に数ヶ月〜1年間程度の時間を掛けて観察を積み重ねる必要がある。しかし,プラネタリウムでは日時の設定が自在におこなえるうえ,2時間ずつ時間を進めて投影すれば1ヶ月ごとの年周運動と同じ動きを見せることができる。

 年周運動に関する問題では,オリオン座が対象になることが多いが,どの星座(天体)でも同じであることをきちんと理解させたい。


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