1.はじめに
教育を取り巻く状況に関して,一部の専門家からは「ITバブル」や「脳内汚染」という新語で警鐘が鳴らされていますが,最近の生徒の様子を見ていると遊びは室内でのゲームが中心であったり,携帯電話の所有に非常な関心を寄せたり,友達との会話をメールで行うなどと,個人専用の機器類を扱うことが多い生活をしている。このように市販の機器類を使いこなす能力にたけている反面,これらに熱中するあまり自分の周りの様子に鈍感になり,自然に目を向けたりする機会が少ないように思われる。また人間関係でも友人以外との関係が下手であり,自分を取り巻く状況を知り,判断する力や協調性に欠ける生徒が多く見られる。
川内中学校は徳島市北部に位置しており,校区内には小松海水浴場があり付近にはサツマイモやレンコンなどの田畑が多く存在し,用水路が張り巡らされ,市内ではあるが自然に恵まれた地域である。しかし,生徒の意識調査では,恵まれた自然に気づく生徒は少ないことが伺えた。
2.研究の概要
環境教育を進める中で,自然に関心を持たせ,自然環境と人との調和を考える能力や素質を育成することが,とりわけ中学生にとっては,大切だと考えている。そこで,まず周りの自然に気づかせ,自分と自然環境の関わりを考えさせることで,環境に対して責任ある行動をとる能力を養い,自分自身の在り方を見つめさせようと考えた。
身近な環境に関心を寄せられる態度の育成には,校区内の様子を収録したビデオを視聴させたり,世界の国々の異なるくらしぶりを見せた。そしてインターネットを用いて環境に関する情報を集め,気づいたことを発表し,意見交換をさせた。また,総合学習のエネルギー学習を通して地球温暖化の防止や省エネについて考えさせた。さらに理科の授業で,水・土・空気の性質を調べる実験を通して,身近な環境を知り自分との関わりを考えさせた。理科の授業と総合学習をリンクさせ,両教科の双方向効果を高めた。時には,専門的な内容で鳴門教育大学の先生から支援を受け,「理科から見た環境のお話」の授業や,「環境問題のもう一つの見方」などのご講演をいただいた。講演後のアンケート結果で生徒の理解が十分に得られなかった内容については,理科の授業で補い,その効果も調べた。このような大学との連携による授業の展開も試みた。
3.授業実践
(1) |
生徒の自然や環境に対してどのようなとらえ方をしているのかを知るためにアンケートを実施した。 |
(2) |
総合学習の中でエネルギーと環境学習を取り入れ,四国電力に講師派遣を依頼し,全8回の授業をもうけた。 |
月日 |
テーマ |
学習内容 |
実験 |
5/23 |
エネルギーとはどんなものか |
エネルギーは何ができるか |
電気を熱に変える実験 |
5/30 |
生活とエネルギー |
暮らしの中のエネルギー |
電気を力に変える実験 |
6/6 |
電気の基礎知識 |
電気の使い方 |
電池を作る実験 |
6/13 |
エネルギー資源と電気 |
エネルギーと環境問題 |
エネルギー資源から電気を作る |
6/27 |
日本のエネルギー |
エネルギーはどこからきているか |
発電の原理 |
7/11 |
地球温暖化 |
省エネの正しい仕方 |
二酸化炭素濃度を調べる |
7/18 |
エネルギーの未来・省エネ |
今私たちはどうすべきか |
電気を作る資源 |
7/27 |
橘湾火力発電所見学 |
実際の発電現場から学ぶ |
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(3) |
他の国の環境を知る手がかりになる写真をパソコンによるパワーポイントで紹介し,気づいた点について感想を書かせた。 |
(4) |
校区内の自然を紹介したビデオを作成し生徒に視聴させ,気づいたことや感想を書かせた。 |
(5) |
インターネットを用いて環境について生徒各自で調べさせ,自分の調べた内容を互いに紹介しあい,感想や気づいた点を話しあった。 |
(6) |
実験1「水を調べよう」簡易水質検査試験紙を使って身近な水質を調べた。 |
(7) |
実験2「土のはたらきを調べよう1」ペットボトルを使って土が水を通すのに要する時間を土の種類によって調べた。 |
(8) |
実験3「土のはたらきを調べよう2」ペットボトルを使って土が色素を吸着すること調べた。 |
(9) |
実験4「土のはたらきを調べよう3」ペットボトルを使って土に塩酸を通すとpHが高くなることを実験により確認した。 |
(10) |
実験5「土のはたらきを調べよう4」ペットボトルを使って土に水酸化ナトリウムを通すとpHが低くなることを実験により確認した。 |
(11) |
実験6「空気の汚れを調べよう1」“はかるくん”を使って大気中の二酸化窒素の濃度を測定した。 |
(12) |
実験7「空気の汚れを調べよう2」マツの葉のよごれから空気の汚れを調査した。 |
(13) |
「水とオゾンと二酸化炭素のお話」の内容で鳴門教育大学の村田勝夫教授にゲストティーチャーをお願いした。 |
(14) |
全校生徒,保護者,教職員を対象に,鳴門教育大学村田勝夫教授に「環境問題のもう一つの見方」の講演を実施した。 |
(15) |
講演後のアンケート結果で生徒の理解が十分に得られなかった内容を後日,理科の授業でこれを補うための授業を行った。 |
4.実践例
実験1「水を調べよう」 |
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試験紙を使って自分で採取してきた水の pH ,アルカリ度,硬度,残留塩素等を調べた。採取してきた場所や水の種類によってこれらの値に違いがあることに気づくことができた。 |
実験2「土を調べよう1」 |
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土を採取し,水が土を通過するのにかかる時間を調べた。採取してきた場所,土の種類によってこの時間に違いがあることに気づくことができた。 |
実験3「土を調べよう2」,実験4「土を調べよう3」,実験5「土を調べよう4」 |
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実験3:メチレンブルー溶液を使って,土の吸着作用を調べた。土を通過する前の色と,通過後の色の違いに驚く生徒もいた。土の種類によってこの結果にも違いがあることに気づくことができた。実験4:土にうすい塩酸を通し, pH に違いがあることをリトマス紙を使って調べた。土の働きに驚き,土の大切さに気づけた生徒が多くいた。実験5:土に 0.4 %水酸化ナトリウム溶液を通し pH に違いがあることをリトマス紙を使って調べた。うすい塩酸と同様な働きに気づくことができた。 |
実験6「空気を調べよう1」“はかるくん”を使った空気のよごれの測定 |
実験7「空気を調べよう2」マツの気孔のよごれの観察 |
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実験6:「はかるくん」を使って大気中の二酸化窒素の濃度を測定した。測定した場所により濃度に違いがあり,車の通りの多いところでは,値が大きくなることに気づいたり,川内町は濃度が低くてきれいな空気であることに喜んでいる生徒が見られた。実験7:マツの葉を採取し,マツの葉の気孔のよごれから空気のよごれを調べた。採取した場所によりよごれに違いがあり,車による排気ガスの影響に気づくことができた生徒が多くいた。 |
5.まとめ
身近な自然に気づき,自分も含めた環境を大切にする気持ちをはぐくむことを目標に行った。自分たちが生活している 川内町 の自然のようすや,他の国での自然のようすや暮らしぶりを見てその違いや,地球環境についての関心を深めさせた。そしてインターネットを用いて環境に関する情報を各自で集め,互いに発表しあうことで,地球環境に関する情報の共有化をはかることができた。環境に対する意識を高めてから,水,土,空気の性質を調べる実験を行った。普段あまり意識はしていないけれど私たちの命に重要な水や土や空気がどのような性質を持っているかに気づくことで,その大切さを知ることができた。
また,同時にエネルギーの学習を総合的な学習で進めることができたので,より環境の大切さに目を向けることができた。環境教育を理科の学習と総合的な学習とで互いに関連付けながら同時に行えたことで,より深めることができた。また,大学に教育支援講師を依頼し,授業が行えたことで,専門的な内容も吸収する場を設けることができ,生徒たちの環境に対する意識をさらに高めることができた。これらの学習を通して,日頃の学校生活の中で,節電に心がけたり,物を大切に扱ったり,ゴミの分別,植物の栽培等に目を向けられるようになってきた生徒が少しずつではあるが,増えてきつつある。今後は一人ひとりの生徒に問題意識を持たせ,地球に生活する一員としての責任を自覚させ,豊かな自然環境を保てる具体的な行動がとれるような力をつけさせたいと考えている。
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