北海道教育大学附属札幌中学校 山岸 陽一 |
1.単元 単元『運動とエネルギー』 第2章 「力と運動」2.教材観 (1)小学校の学習内容と選択実態調査より小学校5年生では,「糸につるしたおもりの運動」と「おもりが他のものを動かすとき」の一方を選択し学習することとなっているので,以下のようなアンケートを実施し,結果を得た。
同様に実施したアンケートで,次の質問2,3についても調査したところ,ある傾向がみえてきた。
質問3については,特に間違った記述はみられず,いろいろな工夫が可能で正解に結びつく可能性の高い現象であると感じた。しかし質問2の回答例を大別すると「糸の長さを短くする。」「おもりを重くする。」「おもりを軽くする。」であった。質問1でアと答えた36名中33名は「糸の長さを短くする。」と答えていた。「おもりの重さを変える。」を合わせて答えた生徒は25%の9名であった。それに対して質問1でウと答えた生徒で「おもりの重さを変える。」を答えた生徒はウと答えた生徒の60%の38名であった。イと答えた生徒10名中,「おもりを重くする。」は1名しかいなかった。質問2でア,イ,ウと答えた生徒の数が違うので一概には言えないが,「おもりを使い,おもりの重さや動く速さなどを変えて物の動く様子を調べ,物の動きの規則性についての考えをもつようにする。」という学習の中で,2つのいずれかを選択した際,物体の運動の認識に差があると予測している。 そこで生徒は「物体の運動を捉える際に,エネルギーの移り変わりや保存的な見方や考え方で捉えることが多いのではないだろうか。」というある程度の傾向性ととらえて,本単元の工夫にとりかかった。 3.教材の選択と準備 (1)教材の選択単元を工夫する際に,学習指導要領の以下の内容に着目した。
小学校,中学校の学習指導要領より,本単元の構成を今一度考えたときに重視したのは,物体の運動自体への興味・関心を引き出し,エネルギー的な見方の学習の前に,運動を分析する観点を生徒たちにもたせたいという想いであった。そこで,中学校ででてくる「だんだん速くなる運動」「等速直線運動」「だんだん遅くなる運動」に関連を持たせ,運動を分析的に捉え,物体の運動の「速さ」と「斜面の角度や力」とのかかわりから運動を分類し,その運動の速さに対するある程度の確かな概念を構成させたいと考えていた。そこで,「だんだん速くなる運動」「等速直線運動」「だんだん遅くなる運動」の3つが組み合わさった運動として,東京上野の国立科学博物館でみた下の写真の運動であった。 この現象が起こる理由を解決していくことを,単元構成の中心にすえ,下のような課題にまとめ生徒に問いかけることとした。生徒だけでなく大人も大いに迷う課題である。大人に問うても,中学生と回答傾向は似ており,「A,B同時に着く」という答えが一番多い。このときの理由付けの中心になっているのがエネルギーの保存的な見方や考え方である。理由にAと答える場合は「A,Bの距離を比べるとAが短いから」などの理由付けで,Bと答える人は極少数である。正解は「Bの方が早く着く」である。
(2)教材の作成
(3)測定機器としてのデジタルカメラにおける動画の撮影の指導 この実験において,生徒がデジタルカメラで運動を動画で撮影し,コマ送りで二つの鉄球の運動のちがいに気づいていくことが一番のポイントである。以前は運動解析ソフトなども使っていたが,デジタルカメラ本体で再生すると最善である。その後の学習で生徒が日常の運動を分析する際にも有効に活用していた。 4.授業展開 (1)目標運動を速さに着目して,機器を有効に用いて分析し,速さの変化の様子から3つに分類することを通して,2つの運動の違いを指摘することができる。 (2)展開
(3)評価 運動を速さに着目して,機器を有効に用いて分析し,速さの変化の様子から分類し,2つの運動の違いを指摘することができたか,観察評価とワークシートより評価する。 5.授業構成の工夫点とワークシートの記述より (1)本題材における観点の目標本単元は,日常生活で視覚的にとらえにくい物体の運動を,機器などを活用した観察,実験を通して数値やグラフ,画像などに置き換えて分析することで物体の運動の規則性について理解していくことが主な学習の流れである。これによって日常生活と関連付けて運動の科学的な見方や考え方を養うことに大きな価値があり,目標は以下のとおりである。
(2)集団思考の場の工夫 小グループ(班)を中心とした観察・実験 生徒の思考のもと課題解決が行われる必要があると考え,個人の問いや考えが表出され,活動しやすい小グループ(班)の活動を中心に行うこととした。また,単元の前半に運動を捉える方法や機器の使い方の技能,結果をまとめる表現方法などの習得を先に行った。 また,役割分担(実験者,モニター役,補助者)を明確にし,ローテーションすることなど互いの見方や考え方が交流しやすいよう工夫した。以下ある生徒のワークシートの記述を載せる。グループで考察する良さや,表現の工夫の大切さが記述されている。 学級での合意形成の工夫 学級全体で合意を形成するには,観察・実験の結果など根拠に基づいた説明が必要であると考え,有効な話し合いが行えるよう,発表の形態も含め普段の授業から指導すると共に,ホワイトボードやIT機器などの環境整備を行った。以下にある生徒のワークシートの記述をのせた。今回の課題の答えが記述されている。 6.おわりに 紙面の関係上,生徒の観察・実験結果やワークシートの記述を多く載せることができないが,力の有無と運動の速さの変化の関わりについては,ねらいどおり視点を持って思考し,分類することができていた。運動を速さの変化から捉え,視点を持って分類することができることが今後の日常においても生かされる点であると考える。今回の授業をもとに,振り子の当時性などにも応用し,小学校で振り子を選択してきた生徒が,観察実験をもとに正しい概念を実感していけるように,単元を工夫して構成していくことが,義務教育で力学を教えていく上で大切であると感じている。 |