授業実践記録

考える力を育む理科学習 単元「いろいろな物質とその性質…密度」を通して
石川県鹿島郡中能登町立鳥屋中学校
合田 正則

1.はじめに

 石川県では,小学校・中学校・高等学校をつなぐ理科教育のあり方をテーマに,毎年11月中旬に理科教育研究大会を開催している。今年度は鹿島郡中能登町を会場に,第43回大会・サブテーマ「自然を見つめ,考える力を育む理科学習」として,11月15日に開催された。

 近年,生徒の科学的思考力が年々低下する傾向にあることが数多く報告されている。レポート課題を出したり,発展的学習を取り入れたりと工夫しながら,観察・実験等を通した体験活動を多く取り入れ科学的思考力を高めていきたいと考えている。そこで,理科大会で行った授業を機会に,密度を題材とした考える力を育むひとつの授業実践として紹介する。


2.授業に向けて

 1年生の11月頃の単元に密度がある。しかし,密度の取り扱いが非常に簡単なものになってしまった。教科書では,公式の紹介と少しばかりの計算演習だけの内容である。これだけでは,本来の密度のおもしろさを味わえないし,何より密度の本質が理解できなく,残念に思っていた。そこで,1年間に1〜2度しか行えない発展的な学習として取り上げることとした。

 2つの混じり合わない,生徒にとって身近な液体の水と食用油を使用し,その2つを混ぜ合わせると,密度の小さい方が浮く。その境目に,物を浮かせようとすると真っ先に氷が思い浮かぶ。しかし,授業で氷の密度を測定するとなると,溶けが始まって使えない。そんなとき参考になったのが「ものづくりハンドブック2」(参考文献参照)に記載されているロウである。この本には油として灯油が使用されていたが,生徒には食用油の方が身近であると考え,食用油・水・ロウで実験した。実際に実験してみると,ロウが食用油に浮いてしまった。また,食用油の粘性のすごさにも手こずった。そのため,食用油の使用をあきらめ,生徒の生活にそれほどかけ離れた物ではないので,本にあるとおり灯油を使用することにした。

 食用油だと薄い黄色がついているので,水との区別がつきやすいが,水と灯油になると生徒の中にはどっちがどうなったか区別できない生徒がいると思い,水に食紅で色を付けた。また,ロウの密度を測定するとき水が使えない(水と灯油の混合物中に入れなければならないので)ので,液体として生徒への危険性の少ないエタノールを使用した。

 ロウの形は,生徒が試験管に入れたとき,どのように入れてもきっちり境目でロウの中心を通るように浮く状態にならなければわかりにくい。その形はどんな物がよいかと,いろいろな太さのろうそくをいろいろな長さに切って浮かべてみた。傾いて浮くような物,直径30mmの試験管内でガラス壁に引っ掛かるような物ではいけない。色々調べてみると,10号の太さのろうそくを2cmに切ったものが最も良いことが分かった。また,ロウと一口に言っても和ろうそくもあり西洋ろうそくもある。和ろうそくの方がうまくいきそうだが,切ってみるとろうそく全体にひびが入り,きれいな2cmのろうそくにはならない。そこで,西洋ろうそくを使用することにした。

 それぞれの密度を測定すると,水は0.98,ロウは0.85,灯油は0.77位になる。このデーターだと,生徒は水と灯油でどうなるか,水と灯油の混合物にロウを入れたらどうなるかの予想は,比較的簡単にできると思った。しかし,理科大会授業研究会の10日ほど前,再実験をしてみると,ロウの密度が0.95や,ひどいのは1.00などという物が出てきた。それでも,水と灯油の境目に来る現象は変わらず起こる。だから,密度測定に問題があると思った。自分なりに,仮説を色々立て実験してみた。「エタノールがロウに染み込む」(→何度も測定し続けると0.8台になるはず),「ろうそくを切っているから,芯の部分にエタノールが染み込んでいく」(→染み込んでしまえば0.8台になるはず),「ろうそく自体が,火をつける部分と下の部分とで密度がちがう」(→1本を切って密度を測定すれば違いが分かる)など,やってみたが,どれも当たらず,0.9台のロウがたくさん出来てしまった。しかし,それらの中から,なぜかわからないが,0.8台の物が数個出てくる。それらを集めて8個(8班分)にし,本番の授業用に準備した。今現在,なぜこれほどロウの密度がばらつくのか分かっていない。秤量0.1gの電子てんびんで,3.7g〜4.0gのロウをはかり,メスシリンダーを目分量で0.1ml刻みで読む。0.1ml違えば密度は0.02違ってくるので,質量測定時にぎりぎり0.1g下の値を示し,メスシリンダーの目分量を間違いなく正確に読んで初めて求められる量なのかもしれない。


3.授業の実際

 11月15日に理科大会で授業を行った時の指導案を以下に示す。

第1学年 理科学習指導案         授業者 合田 正則


1.単元名 いろいろな物質とその性質

2.単元の目標

  物質の電気の通りやすさ,炎の中に入れたときのようすなどに関する事物・現象に関心を持ち,進んで観察・実験を行うとともに,それらの事象を日常生活と関連づけて考察しようとする。
(自然事象への関心・意欲・態度)
  物質の電気の通りやすさ,炎の中に入れたときのようすなどについて調べる方法を考えて観察・実験を行い,これらの事象について科学的に考察することができる。
(科学的な思考)
  物質の電気の通りやすさ,炎の中に入れたときのようすなどについての観察・実験を行い,観察・実験の基礎操作や記録の仕方を習得するとともに,自らの考えを導き出し,観察・実験の報告書を作成し,発表することができる。
(観察・実験の技能・表現)
  物質の電気の通りやすさ,炎の中に入れたときのようすなどについての観察・実験の結果などから,物質には性質の違いや共通の性質があり,それに基づいて分類できることについて理解する。
(自然事象についての知識・理解)

3.指導にあたって

  (1) 教材観
     中学校に入学し,植物の単元を先習し,1分野の「身近で起こる不思議な現象」,「身のまわりの物質」の単元を学習している。2分野とはひと味違う楽しさを感じているが,第1章「いろいろな物質とその性質」の全内容を学習した後,密度の違う3つの物質を1つの容器に入れるとどうなるかを考える発展的な学習を通して,科学的に見たり考えたりする態度をさらに養っていきたい。
  (2) 生徒観
     密度とは,生徒にとって日常生活にあまり関わり合いがないため,理解しにくいもののひとつである。物の浮き沈みに関して,氷をジュースに入れると浮いたり,蒸散の実験で水面に油を浮かべた時には何の疑問もなくその現象を受け入れている。物の浮き沈みを密度と合わせて考えると,起こる現象がはっきり予想できるところまで密度は身近になっていない。
  (3) 指導観
     水の密度は1g/cm3だと思い込み,実際に測定することはなかなかないだろう。メスシリンダーの目盛りを10分の1まで読むことを徹底し,正確に行うことで密度が正しく求められ,順序立てて考察することで,起こる現象が予想できる。発表したくなるように工夫しながら,科学的な思考力を育てていきたい。
 本時は,密度の意味づけをはかりながら,その概念を定着させるために浮くか沈むかの思考過程を通して,考える力を育む発展的な学習の時間として設定した。

4.指導計画(総時数 6時間)

第一次 磁石や乾電池で区別できるかな 1時間
第二次 加熱したときの変化で区別できるかな 2時間
第三次 てんびんで区別できるかな 3時間(本時 3/3)

5.本時の学習(発展的な学習)

(1) ねらい 灯油と水,ロウを1つの容器に入れるとどうなるか,科学的に見たり考えたりすることができる。
(2) 準備・資料 実験1プリント,実験2プリント,灯油,食紅で着色した水,ろうそく(10号2cmに切ったもの),メスシリンダー(3),電子てんびん,鉄製スタンド,大型試験管,エタノール,ビーカー,電卓
(3) 展開  
配時 学習活動(生徒の思考の流れ) ・指導上の留意点 ○評価
1.実験1の課題把握と考察
灯油に水を注ぎ込むとどうなるか
灯油と水は,混ざる。
灯油が上にくる。
水が上にくる。
密度を調べれば分かる。
実験プリントを使う。
 
 
 
密度を求めれば予想できることに気づかせる。
20
2.実験1の測定および予想,実験
  混ぜるとどうなるか測定結果をもとに予想し,発表する。
灯油と水は,やはり混ざる。
密度の大きい水が下に行く。
水を食紅で着色する。
液体の質量の求め方,体積の求め方を確認する。
密度計算は電卓を使う。
発表しやすい雰囲気にする。
実際に混ぜる。
3.実験2の課題把握と考察
実験1の混ぜた状態の中に,ロウを入れたらどうなるか
密度を調べれば,予想できる。
実験プリントを使う。
実験1の結果と密度との関係から,ロウの密度を求めれば予想できることに気づかせる。
20
4.実験2の測定および予想,実験
  入れるとロウはどうなるか測定結果をもとに予想し,発表する。
ロウは灯油に溶けて白くなる。
固体だから沈む。
水と油の境目にくる。
水の途中に浮かぶ。
灯油の途中に浮かぶ。
灯油と水は,ロウが入ったために混ざる。
ロウの密度測定を行う。
質量をはかってからエタノールに入れ,体積を測定する。
密度計算は電卓を使う。
発表しやすい雰囲気にする。
それぞれの実験結果から,密度の大きさと浮くもの沈むものの関係を調べる過程で,自分の考えを持つことができたか。
 
ロウを,混ぜたものの中に入れる。


4.成果と課題

 ロウの密度を求めたとき,水と灯油の中間のデータとなる。そのデータが生徒に示されたときは,0.8台の密度を示さないと予想しにくいのではないかと心配したが,生徒は0.9台を示しても,すんなりと予想していた。純粋なデータから,本当にそんなマンガのようなことが起こるのか半信半疑になりながら,様々な予想を立てた。もう少し時間があれば,もっと色々考えただろうと思う。当初のねらい通り,生徒の科学的思考を高められた授業になった。

↑視線を液面に合わせて目盛りを読む生徒
 しかし,メスシリンダーの目分量の読み方の徹底,液体の質量を計るときの実験方法の徹底等,生徒の実験操作の精度をもう少し高めていかなければならないと感じた。また,密度の本質的な理解がまだ不足していて,どのようなときに,どう考えていけばよいのかがまだ,不足していると感じた。今後の授業で補いながら,進めていきたいと思う。

・分離した水と灯油をのぞき込む生徒 ・さまざまな予想をする生徒たち

・水と灯油の境目に浮くロウ

参考文献
★「たのしい授業」編集委員会編 (2004) ものづくりハンドブック2 仮説社
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