授業実践記録

「音」の教材に関する考察
東京都墨田区立両国中学校
主幹 長浜 裕也
I 音の教材に対する考え

   雷や夏の風物詩の花火から,光と音の速さが異なることには誰もが興味を持っていることであろう。音は身近な物理現象ではあるが,科学的に理解することは難しい。そこで,「百聞は一見にしかず」という言葉にあるように,「音」が目に見える形で学習することができたらおもしろいであろう。理論的に考えさせることは大切ではあるが,まず,その前に,「おもしろい」とか「不思議だ」といった,興味・関心がすべての原点である。
   各社,既存の教科書にも掲載されているオシロスコープの映像は,生徒の興味・関心を引くには好都合の教材である。それ以外の「音の可視化」に関する教材として考えられるものには,「クントの実験」,「フォナントグラフ」,「踊る炎の実験」,「クラドニ図形」,「音響インテンシィティ」,「音響ホログラフィ」などがある。
   生徒に興味・関心を持たせ,学習効果を高めていくためには,個々の実験の特徴を十分に把握し,適切な場面での有効な利用を考えていくことが重要である。また,これらの実験を単発的に用いていくのではなく,それぞれの利点を生かしながら,総合的に教材として利用していくことが重要である。しかし,この中には,生徒が音の性質を学習するには難易度が高く,本質をとらえにくいものもある。
  ●オシロスコープの波形
   音の信号をマイクでとらへ,波形を映像で出力する。生徒の声が個々に異なっていることが波形として表れるので,興味をもって望むことができる。また,音叉を利用すると純音が綺麗なサインカーブで表れる。生徒が音の強弱,高低を観察し,理解するには分かりやすい教具である。このことから,声や楽器などが,いくつかの純音が組み合わさってできていることを説明することができる。しかし,純音は綺麗なサインカーブなので,ともすると生徒たちは「音は横波である」と勘違いしてしまいがちである。この点に注意していくには,振幅と振動数について分かりやすく説明していく必要がある。
 
 
※教科書「理科第1分野上」株式会社 新興出版社啓林館 P24より引用
   
  ●クントの実験
   1866年,ドイツのクント(1839〜1894)は,長さ1メートル,直径3〜4センチメートルのガラス管(クント管)を水平に置き,その中にコルク砕片などの粉末を散布したものにピストンをつけた棒を挿入し,棒に振動を与えた。その結果粉末に生じる変化により,ガラス管内中の音速を測定した。
   下図はクントの実験を応用し,スピーカからの音を利用した装置(自作した装置)である。オシレータから一定の周波数を発信し,アンプで増幅して音を発生させる。管内に定常波が生じたとき,粗密になる部分を可視化することができる。オシレータからの音の高低,アンプによる音の強弱によって,オシロスコープとは異なった波形が見られる。また,管の長さによって,特定の周波数にだけ変化が見られることから,生徒は,その規則性に気づくことができる。
 
 
基本振動
 
 
3倍振動
 
 
5倍振動
 
   次に,より簡易で生徒にもできるクントの実験を示す。演示する装置は,透明なアクリル管と小さな発泡スチロールの粒があればよい。(アクリル管と発泡スチロールの粒は東急ハンズで購入)生徒一人一人が体験し,体感することができるので,興味・関心をもって望むことができる。
 
 
直径
50mm
長さ
500mm
   
 
直径
100mm
長さ
1000mm
   
 
直径
100mm
長さ
250mm
 
 管の長さや径は異なるが,同じ5倍振動共鳴現象を見ることができる。
   アクリル管のかわりにペットボトルを利用することもできる。こちらは,簡単に手にはいるので,多くの生徒にチャレンジさせてみるとおもしろい。
 
 
 特定の周波数で声を出さないと,波形を見ることが出来ない。

  なかなかうまくいかないが,生徒たちは積極的にチャレンジし,工夫する姿が見られる。

  また,このような変化は,生徒の興味・関心を高めることができ,目を輝かせて学習する姿が見られる。
 
   
   
II 活動の実際

単元名 単元「1 光・音・力」 章「2 音の性質」 節「2 音の大きさや高さ」
単元の学習指導目標
   身近な事物・現象についての観察・実験をとおして,光や音の規則性や力の性質について理解するとともに,これらの事象を日常生活と関連づけて科学的な見方や考え方を養い,光・音・力のはたらきに対する興味・関心を高める。
単元の評価規準
 
自然事象への関心・意欲・態度 科学的な思考 観察・実験の技能・表現 自然事象についての知識・理解
光と音および力の性質に関する事物・現象に関心をもち,意欲的に観察・実験を行ったり,それらの象を日常生活と関けて考察したりしうとする。
光と音および力の性質に関する事物・現象を調べる方法を考えて,観察・実験などを行ったり規則性を見いだしたりして,問題を解決することができる。
光と音および力の性質に関する事物・現象を調べる方法を考えて,観察・実験などを行ったり規則性を見いだしたりして,問題を解決することができる。
観察・実験などをとおして,光と音および力の性質に関する事物・現象についての基本的な概念や原理・法則を理解し,知識を身につける。
単元の指導計画
 
本時のねらい
   音についての実験を通して,音はものが振動することによって生じ,空気中などを伝わることや,音の高さや大きさは発音体の振動のしかたに関係することを知り,身のまわりの音響機器などをふくめた日常生活と関連づけて,問題を解決しようとする意欲と態度を養う。
本時の評価規準
  (1) 評価規準
 
自然事象への関心・意欲・態度 科学的な思考 観察・実験の技能・表現 自然事象についての知識・理解
音の発生や大小・高低など,音についての事象に関心をもち,それを調べる観察・実験を進んで行い,それらの事象を日常生活と関連づけて考察しようとする。
音の発生や大小・高低などを調べる方法を考え,観察・実験などを行い,規則性を見いだすことができる。
音の発生や大小・高低などを調べる観察・実験などを行い,基礎操作を習得するとともに,記録のしかたなどを身につけ,みずからの考えを加えた音の性質の観察・実験の報告書を作成し,発表することができる。
観察・実験などをとおして,音の振幅や振動数など基本的な概念や原理・法則を理解し,知識を身につける。
  (2) 具体的な評価規準
 
自然事象への関心・意欲・態度 科学的な思考 観察・実験の技能・表現 自然事象についての知識・理解
身近にある物体の振動のようすと,音の大小・高低との関係について,観察方法をくふうして調べようとしている。
おんさの共鳴現象や真空鈴の実験結果から,音が聞こえるためには,音を伝える物質が必要であることを見いだすことができる。
オシロスコープやクントの実験から,規則性を見いだすことができる。
身近にある音を出している物体の振動のようすと音の大小・高低との関係を調べ,結果をまとめることができる。
音が発生している物体は振動している事実をあげて,音は物体の振動によって生じることを説明できる。
本時の過程
 
  学習活動 指導上の留意点 評価



のどに手をあて,自分の声と手の振動の様子について考える。
高い声では振動が細かく,低い声では振動が少ないことに気づく。
のどに手をあて,声が出ているときの変化を感じとらせる。
音が高いとは,音が大きいとはどういうことか考えさせる。
興味・関心


40
 
教卓の回りに生徒を集める。
 
オシロスコープを用いた実験
音の大小とオシロスコープの波形が関係していることに気づく。
人によって波形が異なることに気づく。
波の数(周波数)の違いに気づく。
波の幅(振幅)の違いについて気づく。
オシロスコープの振幅の方向から,音の振動する方向は縦であることを理解する。
声をマイクでひろってオシロスコープに映像を出力する。
波形がどのように変化しているか気づかせる。・2〜3人の生徒にマイクに向かって話させる。
興味・関心
声が高い生徒,声が低い生徒の違いについて気づかせる。
観察・実験の技能・表現
声が大きい生徒,声が小さい生徒の違いについて気づかせる。
縦波と横波の違いを説明し,音は縦波であることを理解させる。
観察・実験の技能・表現
クントの実験
 
音がだんだん高くなっていくことに気づき,特定の音の高さで,管の中の粒子が規則的に並ぶ様子を観察する。
音の強弱によって,粒子の様子が異なることに気づく。
簡易装置でもクントの実験ができることに気づく。
発信器の周波数を上げていく。
管の中の粒子の様子を観察させる。
基本振動,3倍振動,5倍振動の違いに気づかせる。
興味・関心
音の強弱によって,粒子が変化する様子を観察させる。
観察・実験の技能・表現
簡易のクントの実験を演示し,生徒数名に体験させる。
興味・関心




周波数と振幅の違いについて説明することが出来る。
音が高くなるにつれ,振動が細かくなっていくことを理解できる。
声の高低,強弱とオシロスコープの波形を教科書で確認する。
のどに手をあてた実験とクントの実験から,音が高くなると振動が細かくなることを確認する。
知識・理解
知識・理解
     
   
評価
 
(1) 声の高低,強弱とオシロスコープの波形に規則性を見いだすことが出来る。
(2) クントの実験から,音が高くなるにつれ,振動部分の数が増えていくことが理解できる。


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