授業実践記録

探究の過程を学ぶ理科学習〜必修理科と選択理科を通して〜
愛媛県八幡浜市立青石中学校
三好 美覚
1.はじめに

 現行の学習指導要領(平成10年告示)の改訂において,観察,実験などの学習にあたっては「目的意識をもって」ということが特に強調されている。

 また,これまでの工夫した「伝授型」の観察,実験においても,(1)生徒が自ら疑問を追求していない,(2)生徒が目的意識(見通し)をもって観察,実験をしていない,(3)生徒が手順を疑ったり途中で見直したりしていない,(4)生徒に高次の思考を要求していない,などの問題点が指摘されている。平成13年度小中学校教育課程実施状況調査報告書中学校理科においても,指導上の改善4視点の一つとして目的意識をもった主体的な活動の推進として示されている。

 そこで,生徒が目的意識をもってじっくりと主体的に探究する問題解決的な学習指導について研究を行った。これまで,問題解決的な学習を図1のように分類して実践してきた。


図1 問題解決的な学習の分類

 本研究では,探究の過程を学ぶ問題解決的な学習に絞り紹介する。
 なお,紹介する実践は,必修理科における基礎・基本を重視した問題解決的な学習と選択理科における問題解決的な学習である。

2.研究のねらい

 必修理科と選択理科において探究の過程を学ぶ問題解決的な学習の実践を行い,生徒が目的意識をもった主体的な活動を推進する。そして,問題解決的な学習における成果と課題を明らかにする。

3.研究の内容

(1)  問題解決的な学習の授業展開

 授業計画は,生徒の実態把握後,学習事項の洗い出しをし,基礎・基本を重視する探究学習に向いているか,応用的な探究学習に向いているか,を判断し授業を組み立てた。

(2)  必修理科における実践(2年)

 2年生の「化学変化と物質の質量」の単元において実践を行った。レディネス調査の結果から,質量保存の法則を探究する活動において,条件を制御したり,実験方法を考えるなどの探究の技法が習得されるような学習展開を工夫した。

 「気体を外に出さなければ,反応の前後で質量はどうなるだろうか」という課題の解決を実践した。従来は,反応系としてビニル袋も使用していたが,ペットボトルのみを使用し,安全で身近な発砲入浴剤を使用して日常生活との関連も図った。使用した実験材料は,炭酸飲料のペットボトル,糸,ビニルテープ,試験管,小さな袋,オブラートなどである。その結果,オブラートを水の上に敷き詰め,その上に発砲入浴剤を浮かせるといった発想をし,繰り返し検証をする姿も見られるなど探究的な活動が展開された。短時間で実験ができるため,繰り返し納得するまで実験でき,1時間の授業内で全ての班が化学変化の前後で質量が変化しないことを確認した。

図2 生徒が考えた実験方法の一例 表1 授業後のアンケート結果(数字は%)

<結果と考察>
 繰り返し実験をし,仮説を見直すなど目的意識をもった主体的な活動となった。身近な材料を用いたシンプルな実験装置は,自由試行を充実させた。理科を得意としていない生徒も,思考しながら実験していた。実験方法を十分に考える時間の確保が大切である。また,一人一人の考えを評価する方法の工夫も必要である。

(3)  選択理科における実践

 必修理科においては,法則性を発見し,理解することに重点を置いた指導となっている。そのため,一つの正しい答えがあり,それ以外は間違いとか失敗といった考えを生徒が持ちやすい。選択理科の時間は,測定誤差や結果のばらつきなどについても扱い,理科授業で学んだ内容や考え方が日常生活や社会問題の解決に役立つと実感するようにさせたいと考えた。

 そこで,本年度の選択理科は,二つのユニットで構成した。一つは,SEPUPを用いた取組みであり,もう一つは必修理科における学習内容についての取組みである。SEPUPとは,米国カリフォルニア大学バークレイ校で開発された科学教育プログラムである。環境やエネルギーなどの問題を理解し,科学的な思考判断ができる市民を育てる視点で作られている(教材キットが中村理科から販売)。このSEPUPの導入段階で,科学的な探究の過程を体得することを目指し,ブラックボックスを用いた実践を行った。これは,原子の構造を知る方法を間接的に学ぶことにもなる教材であると考えた。

 図3のT型とL型の2種類のブラックボックスを製作した。なお,思考が継続するように簡単な構造とした。


図3 製作したブラックボックス

 二人一組として五感を使って,箱の中身を調べさせた。使用できる道具を事前に触れておき,見通しがもてるように指導方法を工夫した。その結果,ピン球のはね方や音の違いから調べたり,磁石を使って調べたり多様な実験方法が発想された。実際に考えをモデルに製作して確認する班もあった。

<結果と考察>
 答えが必修理科のように一つでないため,自由な発想で自分の考えを発表することができた。探究の過程において,ふだんの授業よりもお互いの意見や実験の結果を言い合う姿が見られ,討論に重点を置くことができた。選択理科におけるこのような学びが,必修理科における学びにも良い影響を及ぼすと考えた。

4.まとめと今後の課題

(1) 二人一組に道具一つの実験は,互いに学び合うなど学習の効率を高める。
(2) 身近な材料を用いたシンプルな実験装置は,自由試行を充実させる。
(3) 多様な考えが出てくる学びは,関心・意欲を高め,討論を活発にする。
(4) 単元全体の流れを考え,生徒に問題解決の見通しをもたせる授業展開の工夫が必要である。
(5) 選択理科と必修理科の学びが互いにリンクし合って高まる指導計画が必要である。
(6) 仮説や実験方法を考える時間を十分に確保する必要がある。
(7) 一人一人の考えを評価する方法の工夫が必要である。

<参考・引用文献>
1) 小森栄治「選択理科におけるSEPUPの実践」
『理科の教育』2002年1月号,東洋館
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