授業実践記録

手作りスピーカー製作のこつ
(大阪)上宮中学校・高等学校
栗栖 有文
1.はじめに

 教科書等にも教材として採用されている,手作りスピーカーについてのKNOW-HOWを紹介します。このスピーカー及びその製作過程の特徴は次のとおりです。

  不思議である
 コイルと磁石と下敷きだけでできたスピーカーから音が出ること,また,それがマイクロホンにもなることは生徒にとって不思議である。

  音の質が良い
 生徒はこのスピーカーからの音を音響機器の音だと信じてしまうほど。

  生徒の作業が簡単
 乾電池を芯にエナメル線を巻いてコイルを作り,それにプラグをつなぐだけなので失敗することがない。

  教師の作業も簡単
 はんだづけができることと,「並列つなぎ」がわかればできる。

  安全である
 CDプレーヤー等の音響機器ではまず感電しないし,コイルもあまり発熱しない。

  家庭で再現できる
 家庭に教育活動をアピールできる。自由研究の題材にも使える。

  安価である
 手間をいとわなければ,生徒1人当たりの費用が200円以下で済む。

 電磁気分野への導入として,生徒に好評な教材です。題材がカラオケなどでお馴染みのスピーカーやマイクロホンなので,音楽に関心を示すことが多い生徒の興味を引きます。簡単な工作でできる単純な回路なので理解しやすく,また,音が聞こえるという不思議さを体験できます。
 筆者は,学校説明会の一環として,小学校6年生対象の体験授業でも,この電気工作を中学生に補助させながら50分で実施しています。

2.用意するもの(5名程度を1グループとして理科室で実施した場合)

 (1)  生徒用(1人あたり)
エナメル線3m
筆者は,家庭でも再現できるように,20mに小分けしたものを使い,余った分は持ち帰らせています。
導線つきプラグ(後掲図2のA)
長さ50cmの導線2本を図1のようにはんだづけしたもの,市販のイアホン(百円均一ショップで売っているもの)を使ってもよい。
図1 導線とプラグのはんだづけ
磁石
できる限り強力なものを見つけることが重要です。ネオジウム磁石は入手しやすいものの中では最適ですが高価すぎるので,筆者はホワイトボード貼付用磁石のうちで比較的強力なもの(クラウン社のカラーマグタッチCR−MG50,直径5cm丸形)を探しました。演示用には音量が必要なので,ネオジウム磁石が必要です。
振動体
〈生徒用〉 紙コップ,下敷き(厚くて硬いもの),段ボール箱,(てのひら)(振動を実感でき,掌を耳元に近づけると音も聞こえる),額(骨伝導の原理により,音が聞こえる)等。
※骨伝導:振動体を頭蓋に接触させると,振動が骨から直接内耳に伝わって音が聞こえる。
〈演示用〉 バインダー(書類ばさみ,厚みのあるもの),窓ガラス,段ボール箱,洗面器(百円均一ショップで売っているもの),ビーチボール,やかん(金属も鳴る)等,アイデア次第です。
単2乾電池,紙ヤスリ

 (2)  作業用(1グループあたり)
音源
できる限り高出力のものを準備する必要があります。それには,
1) 1台の音響機器(CDプレーヤー等)からの音声信号を大型アンプで増幅する。
2) グループごとに音響機器からの音声信号を小型アンプで増幅する。
等の方法も考えられますが,1)はプラグ1+ジャック30のような長い配線になること,そのため,1つのトラブルが全体に及ぶ危険性があること,2)は小型アンプのために音質が落ちることを考慮して,筆者は英語の授業で使っているリスニング用の音響機器(ソニー・カセットコーダーTCM−1390)を借用し,2グループあたり1台を用意しました。これは小型アンプでの増幅を必要とせず,高出力であるため音量があり,音質も良いものです。
プラグ1+ジャック3(後掲図2のB,プラグにジャック3個を並列につないだもの)
音響機器の外部スピーカー端子,イアホン端子は通常1つなので,プラグ1個にジャックを3個並列にしたものを作り,外部スピーカー端子につないで,生徒が接続できるジャックを増やしました。プラグのはんだづけのしかたは図1のとおりで,ジャックのはんだづけも同様です。音響機器を2グループあたり1台しか用意できなかったので,プラグ1+ジャック2を別に用意し,このジャックにプラグ1+ジャック3を2組つないで2グループ分の音源にしました。
 なお,これらのはんだづけなどは,電気工作マニアの生徒をおだてて気分良くやらせましたが・・・。
変換アダプター
音響機器の外部スピーカー端子,イアホン端子は,直径3.5mmのプラグでつながりますが,マイクロホン端子は直径6.5mm用の場合が多いので,6.5→3.5mm変換アダプターが必要になります。
はさみ,ビニルテープ,セロハンテープ

   費用(概算)
エナメル線
 径0.26mmのくらいもので,3,300円/2km,小分けしたもの200円/20m
導線
 ごく普通のもので,800円/100m,小分けしたものは20円/m
プラグ,ジャック
 径3.5mmモノラル用でそれぞれ50円
磁石
 ホワイトボード貼付用磁石100円(CR−MG50なら77円),ネオジウム磁石なら1,000円
その他
 6.5→3.5mm変換用など各種アダプター200円,小型アンプ(キットで800円,完成品で2,000円)

3.スピーカー製作の手順(生徒の作業)


図2 スピーカーの作り方

 (1)  コイルの製作(図2のC)

1 単2乾電池にエナメル線を30回くらい巻いて,コイルを作る。
20mに小分けしたエナメル線を使うと,2割程度の生徒は失敗し,エナメル線を絡まった毛糸玉のようにしてしまう。この作業だけで生徒は結構,盛り上がる。

2 コイルの両端がそれぞれ20cmほど余るようにエナメル線を切り,余った部分の根元をねじる。

3 乾電池の+極側からコイルを抜く。−極側からは膨らみがあって抜けない。

4 コイルの形を整え,ビニルテープで固定する。

5 エナメル線の端を鈍く光るまで紙ヤスリでみがき,透明被覆をはがす。

6 導線の被覆をはがす。(はさみ,ストリッパーなどを使う)

7 5のエナメル線と6の導線の被覆をはがした部分をねじってつなぎ,ビニルテープで覆う。

 (2)  スピーカーの組み立て(図2のD)

8 セロハンテープで振動体にコイルをとめる。ただし,振動体が掌と額のときは,コイルと磁石を重ねて押しつけるだけでよい。

9 コイルの上に磁石をセロハンテープでとめる。

9 プラグをジャックにつなぐ。すると,音楽が聞こえる。

 (3)  スピーカーの音が小さい,または全く鳴らないとき

 主な原因としては,(1)の5操作の磨きが足りないことが考えられる。その他には,(1)の2操作のときに,ねじりすぎて,コイル部分のエナメル線を切ってしまっていることや,プラグ,ジャックのはんだづけが不良であること,まれにプラグ,ジャックがはじめから不良品であることが考えられる。音源の電源スイッチが入っていないこともよくある。

4.演示例(シナリオ)

 (1)  授業のはじめに

 教卓の上に,バインダー(または段ボール箱)と大型CDラジカセが置いてある。バインダーには実験の段取りのメモが挟んである。このバインダーには,あらかじめコイルと磁石が張りつけられており,スピーカーとして音が出る状態にしてあるが,配線は見えないように隠してある。

 はじめに,CDラジカセから音を出すふりをしてバインダーから音を出す。音楽は,音質の良さが際だつように,ビバルディの「四季・春」などがよい。あたかもCDラジカセが鳴っているかのようにしてCDラジカセのスピーカーの位置や,スピーカーの実物(不要の音響機器を分解するか,電気屋街にある解体屋から入手)を見せながら説明する。

 曲の紹介等で間をとってから,CDラジカセからCDをとり出し,電源を抜き,CDラジカセ本体を片づける。教卓の上には,バインダーのみが残るが,音楽は聞こえ続けている。生徒はこの時点で,「どこから音が出ているのかな?」という疑問を持ちはじめる。

 ここで,「どこから音が出ていると思う?」と尋ねよう。生徒はどこかにCDラジカセが隠してあると思うだろう。そこで種明かしをし,「さあ,このスピーカーを作ってみよう」と投げかける。

 ※ 演示用に音源ソースとしてカセットテープを利用すると,この手作りスピーカーでは音質が落ちるので,筆者はCDプレーヤーの音声信号を上記カセットコーダーのマイクロホン端子から入力(CDプレーヤーとカセットコーダーをつなぐこと)し,カセットコーダーで増幅(内蔵されているアンプで音を大きくすること)して,外部スピーカー端子からコイルに出力(カセットコーダーと手作りスピーカーをつなぐこと)しました。

 (2)  授業の終わりに

自宅でもやってごらん。振動体によって,どのような音が出るか調べてみたら面白いよ。ただし,自宅で再現する場合は音源が問題だ。出力の大きな音響機器を見つけなければならない。古いラジオかラジカセはないかなあ」

 ※ 一般に,古い音響機器ほど出力は大きいようです。以前のイアホンやヘッドホンには大きな出力が必要だったからです。現在のものは改良されて出力が小さくてもよく鳴るようにできており,そのため,新しい音響機器は出力が小さいのです。昔のポータブルラジオのワールドボーイのようなもの(野球場や競馬場で観客が耳に当てて聞いていたもの)が驚くほどの出力があります。

 最後に,紙コップを振動体にした手作りスピーカーを音響機器のマイク端子に接続し,マイクロホンとして使って,「先生,それ知ってるの?!」と言わしめるよう,最新の話題曲でも歌おう。

5.発展学習

 スピーカーを発信機,マイクロホンを受信機に見立てれば,空間を伝わる磁場の変化を媒体とした通信が可能になるだろう。部活動レベルで取り組んでみてはどうだろうか。

6.おわりに

 このスピーカーの音質は,使われている振動体によって大きく変わります。特に,厚みのあるバインダーと段ボール箱を振動体にしたものは驚くほど音質が良く,市販のスピーカーと比べても遜色はありません。段ボール箱を振動体にする場合,厚み,形,コイルと磁石の距離によっても音質が異なります。印刷機のインクやマスターの入っていたようなしっかりした,やや奥行きのある段ボール箱が良さそうですし,3(2)89でのセロハンテープの貼り方を工夫して,振動体からやや磁石を離すようにした方が良いようです。
 筆者には,磁場の変化は緩慢であるようなイメージがありましたが,今回の実験を通じて,案外機敏に変化するものなんだということを実感しました。
 最後に,余談になりますが,筆者はこれまでの経験から,この実験のみならず,電気工作における成功の秘訣は,電気工作マニアの生徒を見つけることにつきると思っています。部品屋の場所から,アンプに関するノウハウまで何でも知っています。生徒であっても,やはり,マニアというのは凄いものです。
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